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2020.08.07

2020年08月号特集 行政機関にとってのパブリック・クラウド導入課題の本質と解決の方向性―「行政機関におけるパブリック・クラウドの活用に関する調査研究」を踏まえて―

一般社団法人 行政情報システム研究所
主席研究員 狩野 英司

1.コンピュータの歴史の中でのパブリック・クラウド

パブリック・クラウドはその登場以来、情報システムのあり方を大きく変えてきた。本稿では、なぜ今(になって)、行政機関にとってパブリック・クラウドの重要性が高まったのか、その変化に各機関はどう向き合うべきなのかを論じたい。
情報システムの設計思想は、過去何度かのパラダイム転換を経て発展してきた。大量の事務を集中処理するホストコンピュータの時代(1960年代~)、コンピュータ利用の裾野を組織全体に広げたクライアント・サーバの時代(1980年代~)、組織を超えたコンピューティングを可能としたWebサービスの時代(2000年代~)を経て、現在我々はパブリック・クラウドの時代に差し掛かっていると言える。
パブリック・クラウドは、サプライヤーが保有するコンピュータを不特定多数のユーザーが共同利用する事業モデルである。このモデルによって実現したのは、コンピュータ利用の完全なサービス化である。従来は情報システムを利用する場合、まずコンピュータのリソースを確保しなければならなかった。パブリック・クラウドが画期的なのは、コンピュータの共同利用化によって、個別ユーザーにとってのリソース確保に伴う制約を取り払ったことにある。その結果、文字通り、電気や水のように、使った分だけ支払うことが可能となり、余剰なリソースの確保や導入のリードタイムが不要となった。この変化の本質はテクノロジーの革新によるものではない。パブリック・クラウド自体は、最新のICTの粋を集めたものではあるが、AIにとっての深層学習のように、技術において非連続的なパラダイム転換が起きたわけではない。起きたのは、いわば事業モデルの変革である。所有から共有に移行する一種のシェアリングエコノミーへの転換であるとも言える。