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2026.11.02

2026年11月号 特別企画 ドイツのデジタル政策推進体制 -メルツ政権の連邦デジタル・国家刷新省(BMDS)の新設をどうみるか-【前編】

総務省行政管理局調査法制課係長/日本大学通信教育部非常勤講師
寺迫 剛

1.世界的ニュースになったドイツの州議会選にみる極右台頭の構造的要因

 本稿は、ドイツのデジタル政策について、先立つメルケル(Angela Merkel)政権およびショルツ(Olaf Scholz)政権のデジタル政策推進体制に続き[1]、メルツ(Friedrich Merz)現政権のデジタル政策推進体制についても考察する。

 前政権に続き、ドイツでは連立政権がまたもや身動きが取れなくなっている。本来、穏健多党制の代表例のひとつとして安定的な構造を有していたはずのドイツ政党政治システムが危機に瀕している。その主因は、2013年結党のAfD(ドイツ・オルタナティブ)の膨張(を阻止できなかったこと)である[2]。AfDのようにインターネット上で感情的かつ単純化された主張で既成政党との対立構造を煽る手法を用いる政党の躍進は、デジタル化社会が生み出した典型的な申し子あるいは鬼子の一つと言えよう。

 2026年9月6日に実施されたザクセン・アンハルト州議会選挙に至っては、世界的なニュースとして日本のメディアでも報道されたとおり、憲法擁護庁によって同州では極右政党と位置づけられているAfDが、比例得票率43.8%をもって[3]。さらに2週間後の9月20日に実施されたベルリン州議会選挙でも、メルツ連邦首相率いるCDU(キリスト教民主同盟)は第1党争いに敗北した[4]。そればかりか、同日選のメクレンブルク・フォアポメルン州議会選に至っては、選挙制度上、議席獲得の条件となる比例得票率5%すら下回ってしまい、CDUが同州議会全議席を喪失するという歴史的な惨敗を喫した[5]。

 戦後ドイツではこれまで、連邦や各州で議会議席を有する政党には右派左派問わず一貫して、極右政党とは連携しないといういわゆる防火壁(Brandmauer)の不文律があり、極右政党の政権参加等を通じた政策的影響が市民社会に及ばないよう遠ざけてきた。しかし一方でその代償として、AfDは政策的責任から無縁の万年野党として、既成政党に対する不満の受け皿となり、支持を拡大させ続けた。AfDの議席が増える程、AfDを除いて議会過半数を獲得する連立枠組みの選択肢は減少し、本来なら政権交代を巡って競合すべき政党が連立を組まざるを得ず、その政権運営は政策的妥協と不協和音を繰り返して不安定化し、これに対する有権者の不満票がAfDの議席を増やし、既成政党の連立と政権運営を更に困難にするという悪循環に陥った。

 特にザクセン・アンハルト州を含む旧東ドイツ地域5州では、1990年のドイツ再統一から四半世紀を経てなお、東西格差が解消されないという認識に根差す不満の受け皿ともなっている。AfDの支持率が旧東ドイツ地域において特に高いのもそのためである。

 自身も旧東ドイツ出身であり、2005年から2021年まで4期16年間もの長期政権を全うしたメルケル元首相をして「ドイツ連邦共和国史上に刻まれる歴史的転機」であり「断腸の思い(Mir blutet das Herz)」(直訳すると「私には心が出血するようなこと」)と言わしめる程である[6]。この発言はザクセン・アンハルト州議会選挙直後のイベント登壇の際のものだが、そのイベントが奇しくもドイツテレコム主催「デジタルX」であり、AIの加速度的進化を含むデジタル社会についての対談であったことも象徴的である[7]。AfDのような政党の世界的な伸長現象は、急激にデジタル化する社会に共通する功罪がもたらす作用のひとつといえるからである。

 

2.他の政策領域と比較すれば党派性に左右される選択幅の少ない世界的トレンド 

 メルケル連邦首相は連立を組み替えながら16年政権を維持し続けたものの、続くショルツ前連邦首相率いる3党連立政権は初任期4年すらもたず途中で崩壊した。ドイツでは異例の繰り上げ連邦議会選挙を経て、2025年5月に発足したメルツ連邦首相率いる現連立政権は、従来なら政権を争うべき2大国民政党(Volkspartei)である中道右派のCDU/CSU(キリスト教民主同盟/キリスト教社会同盟)と中道左派のSPD(ドイツ社会民主党)による連立政権となった[8]。各連立与党が選挙時の政権公約を擦り合わせて144頁におよぶ連立協約(Koalitionsvertrag)を締結して発足したメルツ政権は、「改革の秋(Herbst der Reformen)」を標榜したものの、経済政策や社会保障政策等多くの政策領域で合意に至らぬまま年を跨ぎ、政権発足から1年を経てようやく2026年7月上旬、連邦議会の夏期閉会直前に駆け込みで包括的年金改革を含めた改革プログラムを取りまとめ、改革政権としての本腰を入れられるようになったかにみえた[9]。社会保障制度そのものを維持する為には誰もが一定の痛みを分かち合うべく、有識者会議を通じて多様なステイクホルダーの党派性によって様々に異なる利害を繊細に調整して取りまとめられた包括的年金改革は、玄人好みではあったものの一般には訴求せず、これすらもAfDを利することとなり、ザクセン・アンハルト州議会選の結果にも影響を及ぼした。

 しかし一方で、本報告が扱うデジタル化政策については、世界を覆う押しとどめようもないグローバルトレンドの下、特に先進各国は負けられない戦いに巻き込まれており、ドイツもその例にもれない。メルケル政権以降、もちろん党派による力点の置き方の濃淡はあるものの、デジタル化の推進自体は党派を超えて合意された政策領域として段階的に推進されてきた。メルケルは多様な政策分野において歴史的偉業を多く成し遂げたものの、デジタル政策については秀でた部分はなかったというのが一般的な評価であり、続くショルツ政権もデジタル化政策を推進するFDP(自由民主党)が連立の一角に加わり期待されたものの道半ばで挫折した[10]。この流れを継承した現メルツ政権の取り組みはどうであろうか。

出典:
[1] 寺迫剛(2019)「ドイツにおけるデジタル政策推進体制の現状-メルケル政権のラストスパートなるか-」『行政&情報システム』 Vol.55, No.3、通巻579号  (65-71頁)、寺迫剛(2022)「ドイツ新政権のデジタル化政策と推進体制‐ショルツ信号連立のスタートアップなるか—」『行政&情報システム』 vol.60 No.3 通巻597号(53-59頁)。なお、本稿は2026年度 日本比較政治学会(第29回大会)報告論文に基づき修正・再構成したものである。また、個人の研究および見解に基づくものであり、所属機関の公式見解または立場を示すものではありません。 

[2] 筆者はAfDについても結党直後いち早く邦語報告を執筆して以来、継続して考察を続けている。寺迫剛(2013a)「反ユーロ政党AfDは23年目の皮肉たりうるか : 揺らぐドイツのヨーロッパ政策および日本との対比」『季刊行政管理研究』など

[3] Wahlleiterin des Landes Sachsen-Anhalt, Wahlergebnisse auf Landesebene Sachsen-Anhalt [https://wahlergebnisse.sachsen-anhalt.de/wahlen/lt26/erg_land.html?v=1790187866169]

[4] Landeswahlleiter für Berlin, Vorläufiges Ergebnis festgestellt [https://www.berlin.de/wahlen/pressemitteilungen/2026/pressemitteilung.1716422.php]

[5] Landesamt für innere Verwaltung Der Landeswahlleiter, Landtagswahl 2026: Vorläufiges Ergebnis der Landtagswahl 2026 [https://tver.jp/episodes/epy3vz4kvn]

[6] Handelsblatt, 09.09.2026, „Mir blutet das Herz“ – Angela Merkel über Sachsen-Anhalt [https://www.handelsblatt.com/audio/meckel-und-matthes/meckel-matthes-mir-blutet-das-herz-angela-merkel-ueber-sachsen-anhalt/100253293.html] [https://www.handelsblatt.com/video/pool/sonderfolgemeckel-matthes/100253339.html]

[7] Deutsche Telekom Geschäftskunden GmbH, Deutschen  Digital X Köln 2026 [https://www.digital-x.com/de/events/2026/digital-x-koeln]

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