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2026.05.15

2026年5月号 連載企画 イノベーションのためのサービスデザイン no.22 AIのための情報アーキテクチャ

株式会社コンセント/武蔵野美術大学
長谷川 敦士

 近年、生成AIの普及によって、情報をどう整理し、どう結びつけるかが、そのままシステムの振る舞いや判断に影響するようになってきた。情報設計は、もはや単に「分かりやすい」「使いやすい」といった問題にとどまらない。制度やサービスのあり方そのものを支える基盤になりつつある。
 こうした問題意識のもと、2026年4月、米フィラデルフィアで情報アーキテクチャに関する国際会議「Information Architecture Conference 2026」が開催された。筆者は4月16日から18日のメインカンファレンスに参加してきた。
 本稿では、このカンファレンスでの議論を手がかりに、AI時代に求められる情報設計のあり方について考えてみたい。

 

1.情報アーキテクチャとは

 情報アーキテクチャ(Information Architecture、以下IA)は、日本では「情報設計」や「情報構造設計」と訳されることが多い。だが、その役割は単なる情報整理ではない。人が何を理解し、どう判断し、どう行動できるかを支える「構造」を考える営みである。
 この考え方の源流の一つに、建築家であり編集者でもあり、TEDカンファレンスの創始者としても知られるRichard Saul Wurmanの提起がある。Wurmanは1970年代から「情報アーキテクト」という考え方を示し、複雑な情報環境を、人が理解できる形に組み直す専門性の必要性を説いた。ここでのIAは、単なる整理の技術ではなく、複雑さを理解しやすさへ変えるための知的な基盤として構想されていた。
 その後、2000年前後に出版された『Web情報アーキテクチャ(原題:Information Architecture for the World Wide Web)』、いわゆる「白クマ本」によって、IAはウェブ実務の分野で広く知られるようになった。そこでは、ナビゲーション、分類、ラベリング、検索といった要素が体系化され、「情報をどう整理し、どう見つけやすくするか」という方法論が整えられた。
 さらに、その後IAはUXデザインやサービスデザインとも接続しながら、対象を広げていった。今では、ウェブサイトだけでなく、サービス、組織、制度、さらにはAIが扱う情報の構造まで含めて考える必要がある。
 重要なのは、IAが一貫して「構造」を扱ってきたという点である。ただし、その構造の対象は、ウェブページの階層から、サービス体験、組織間の関係、そしてAIの判断を支える情報のつながりへと広がっている。

 

2.Information Architecture Conference 2026

 Information Architecture Conference(以下IAC)は、情報アーキテクチャ、UXデザイン、コンテンツストラテジー、リサーチなどに関わる実務者と研究者が集まる、この分野を代表する国際会議である。もともとは2000年に始まったIA Summitを前身とし、現在はコミュニティ主導で継続的に運営されている。
 こうした経緯から、IACは単なる技法共有の場ではなく、実務と理論、設計と社会課題を横断しながら議論する場としての性格が強い。ナビゲーション設計やタクソノミーといった伝統的なテーマに加え、近年はAI、倫理、複雑系、ガバナンスなども重要な論点になっている。2026年のIAC26には約250名が参加し、その約30%が初参加者だったという。
 IAC26のテーマは「Navigating Complexity: Clarity and Understanding with Information Architecture(複雑さを切り拓く――情報アーキテクチャによる明快さと理解)」であった。情報システムがますます複雑になる中で、IAによってその複雑さをどう乗り越え、人々が理解し、行動できる環境をどうつくるかが中心テーマとなっていた。
 今回のカンファレンスには、大きく4つの特徴があった。
 第一に、AI時代におけるIAの役割が改めて問われていたことである。オープニングキーノートでは、AIの振る舞いは単にデータ量ではなく「文脈」によって大きく左右されるという前提のもと、IAを行動設計として捉え直す視点が提示された。
 第二に、医療、税務、行政、アクセス管理など、社会的影響の大きい領域の事例が多く取り上げられていたことである。そこでは、情報構造の設計が理解しやすさや信頼性に直結することが繰り返し示された。
 第三に、IAとガバナンス、倫理との接続である。AIの安全性、ダークパターン、アクセス権設計など、IAがリスクや責任と切り離せないことが強く意識されていた。
 第四に、複雑系としてのシステムへの対応である。IAを固定的な構造ではなく、変化に対応するための「足場(scaffold)」として捉える議論や、人々の「意味付け(sensemaking)」を支える実践も目立った。
 こうして見ると、IAC26は、IAを「複雑な社会システムの中で、人が理解し、行動するための基盤」として改めて位置づけ直す場であったといえる。
 以下では、そうした議論を踏まえながら、AI時代にIAがどのような意味を持ち始めているのか、そして行政や公共システムにとってどのような示唆があるのかを見ていきたい。

 

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