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2026.05.15

2026年5月号 連載企画 イノベーションのためのサービスデザイン no.22 AIのための情報アーキテクチャ

株式会社コンセント/武蔵野美術大学
長谷川 敦士

3.AI時代に、なぜIAが重要なのか

 3日間を通じて複数のセッションで繰り返し語られていたのは、AIの時代には、信頼のためにIAがますます重要になるという点であった。
 生成AIは、その情報源としてさまざまな「元データ」を必要とする。インターネット上の情報だけでなく、企業内のドキュメントやナレッジベース、公共機関や研究機関が持つデータセットなど、多様でばらばらな情報資源がその対象になる。こうした情報を学習・参照することでAIは応答を返すが、その過程はユーザーからは見えにくく、ブラックボックスとして受け取られやすい。
 そこで問題になるのが、「その情報はどこから来たのか」「どう整理されているのか」「どの程度信頼できるのか」という点である。従来の検索中心の環境では、ユーザーは複数の情報源を見比べ、自分で比較・検証しながら信頼性を確かめることができた。しかし生成AIは、その過程を一つの答えにまとめて提示してしまうため、情報の出所や文脈が見えにくくなる。
 このとき重要になるのがIAである。IAは単に情報を見つけやすく、使いやすく整理するだけではない。生成AIが参照・学習するための「元データ」の構造そのものを整える役割を持ち始めている。
 生成AIの出力は、その背後にあるデータの構造や関係性に大きく左右される。情報がどう分類され、どのような文脈で結びついているかによって、出てくる意味やニュアンスは変わる。つまりIAは、利用時の体験設計にとどまらず、生成される知のあり方そのものに関わるようになってきているのである。
 基調講演を行ったPaz Perezは、この問題を非常に実務的に整理していた。彼女の主張の核心は、現在のAIプロダクトの品質や信頼性の問題の多くは、モデルそのものよりも、「コンテキストとコンテンツの設計」に起因するという点にある。
 言い換えれば、AIの性能は、どのモデルを使うかだけで決まるのではない。どのような情報を与え、どのように整理し、どのような文脈の中で扱うかによって大きく変わる。ここでいうコンテキストには、用語の定義、分類、情報同士の関係、参照するデータの範囲や更新方法、さらには出力に対する制約条件まで含まれる。
 これは行政の文脈で言えば、業務マニュアル、制度文書、FAQ、庁内ナレッジベースなどを、単に蓄積するだけでなく、「AIが扱いやすい形」に整理し直すことの重要性を意味している。情報が曖昧で、用語が統一されておらず、文書間の関係も不明確であれば、AIの出力も不安定で信頼しにくいものになる。
 つまり、AIの導入とは新しい技術を足すことだけではない。既存の情報の持ち方や運用の仕方を見直すことでもある。そのとき鍵になるのが、情報をどう整理し、どう関係づけ、どう意味づけるかという、IAの考え方である。
 さらにPerezは、生成AIは非決定論的である以上、「一度つくれば終わり」ではなく、継続的に評価し、改善していく運用が欠かせないとも指摘した。これは、AIの出力の正確性や一貫性を保つために、評価基準を定め、検証と改善を繰り返す仕組みを組織として持つ必要があることを示している。

 

図1 Paz Perez氏の発表の様子

(出典)IAC26。撮影:筆者

 

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