3.デジタル化ランキングではトップ下集団を維持し続けるドイツと日本
筆者は、19世紀末以降の日本とドイツについて、明治維新期の行政制度輸入元であることや後発産業革命国としての膨張と崩壊、戦後民主主義国としての復興と経済成長、1990年代以降の転機に至るまで、両国の歴史的大文脈を踏まえつつ比較することに大きな意義を認識している。もちろん本稿で扱うデジタル化政策についても同様である。
デジタル化をめぐり先進諸国が鎬を削り合う様は、様々な指標にみてとることができる。ドイツと日本の立ち位置は、首位に躍り出ることもなければ、脱落することもなく、常にトップ下集団に留まっている印象である。
代表的な国際的なデジタル化指標を例示するなら、国連加盟各国の電子政府化の度合いを示したEGDI(E-Government Development Index)の2024年版(本稿執筆時最新版)では、ドイツが12位、日本が13位となっている[11]。また、EGDI程ではないにせよ一定の国際標準を有するランキングとして2005年から20年継続している早稲田大学電子政府自治体研究所による世界デジタル政府ランキングによれば、経年でみれば、ドイツと日本は相互の順位の上下もありつつ、安定して10位台前後を維持し続けており、2025年版ではドイツ12位、日本9位となっている[12]。もちろん、日進月歩の世界で同程度の順位に留まり続けることは、一見すると停滞にみえるかもしれないが、しかし実際には時代に遅れないように官民挙げて常に取り組み続けている証ともいえる。
4.歴代政権のデジタル政策推進体制の比較
筆者はこれまでに、歴代政権のデジタル政策推進体制をその都度図示しておくことで、その変遷を一瞥して比較できるように、メルケル政権末期(図表1)およびショルツ政権(図表2)について、デジタル政策推進体制を一瞥できるポンチ絵を独自にまとめており、同様にメルツ政権(図表3)のデジタル政策権推進体制についても取りまとめた。
2005年から16年継続したメルケル政権は、ドイツ連邦政府のデジタル化の漸進的な歩みそのものと言っても過言ではない。その中でも、図表1は、最後の議会任期となる2018年3月に成立したCDU/CSUとSPDの大連立による第4次メルケル政権におけるデジタル政策推進体制である。その特徴として言及しておくべきは、連邦内務省と連邦財務省がデジタル政策を回す実質的な要を担い続けているということである。
図表2は、メルケル引退後の2021年に成立したショルツ連立政権のデジタル政策推進体制である。CDU/CSUが下野し、SPDがFDP、緑の党と3党連立(3党のシンボルカラーが赤・黄・緑であることから通称「信号連立」)を率いるショルツ連邦首相は、メルケル第4次政権を副連邦首相兼連邦財務大臣として支えたこともあり、前政権からの経路依存性と連立組み換えによる新規性とを上手くバランスさせた布陣となった。
ショルツ政権の崩壊により前倒し実施された連邦議会選で勝利し、政権を奪還したCDU/CSUを率いるメルツ連邦首相は、かつてCDU党内でライバルだったメルケルに敗北し、一時は議員すら辞めロビイストとして活動していた。しかし、メルケルが2021年の連邦首相任期終了での政界引退を表明しつつ2018年にCDU党首を先に辞任すると、メルツはやにわに復活の狼煙を挙げ、CDU党首選でメルケル後継候補2人に連敗したものの、3度目の正直で党首の座を射止め、そして遂に連邦首相の座にのぼり詰めた。
このメルツ政権のデジタル政策推進体制は、一定の経路依存性を有しつつも、メルケルからショルツへの継続性と比較すれば、大きな省庁再編を試みている。後編では、この図に沿って、メルツ政権のデジタル政策推進体制について概観する。キーポイントとなるのは、これまでデジタル行政を主導してきた連邦内務省と連邦財務省から、主導権を新設の連邦デジタル・国家刷新省へ移そうという政治的イニシャティブと、これに官僚レベルがどう応じているかである。ドイツのデジタル政策を理解するためには、この前編で述べた前提知識としての政党政治だけでなく、むしろ後編で述べる、いわゆる政官関係についての理解こそ要となる。
図表1:メルケル政権のデジタル政策推進体制
図表2:ショルツ政権のデジタル政策推進体制
図表3:メルツ政権のデジタル政策推進体制
出典:
[8]中道右派国民政党CDU(キリスト教民主同盟)は、ドイツ全16州のうちバイエルン州には存在せず、同州のみに存在する中道右派政党CSU(キリスト教社会同盟)と補完関係にあり、連邦議会において統一会派を組む。
[9] Bundesregierung, Ergebnisse des Koalitionsausschusses: Ein Programm für Aufschwung und Beschäftigung [https://www.bundesregierung.de/breg-de/aktuelles/reformen-rente-arbeitsmarkt-steuern-2445598]
BMAS (Bundesministerium für Arbeit und Soziales), Rentenkommission 2026: 33 Empfehlungen zur Rentenreform [https://www.bmas.de/DE/Soziales/Rente-und-Altersvorsorge/Rentenreform-2025/Rentenkommission-2026/rentenkommission-2026.html]
[10] 寺迫剛(2023a)「ドイツ信号連立政権のデジタル化政策と推進体制にみる新規性と継続性」『秋田法学』 第64号 (49‐73頁)
[11] UN DESA; E-Government Development Index (EGDI) [https://publicadministration.un.org/egovkb/en-us/About/Overview/-E-Government-Development-Index] [https://publicadministration.un.org/egovkb/en-us/Data-Center]
[12] WASEDA - IAC International Digital Government Rankings [https://idg-waseda.jp/ranking.htm]
寺迫 剛(てらさこ ごう)
早稲田大学政治経済学部政治学科卒、早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了、ハレ大学(Martin-Luther-Universität Halle-Wittenberg)留学を経て、早稲田大学大学院政治学研究科博士後期課程単位取得満期退学(2014年)。(一財)行政管理研究センター研究員(2013.04~2020.07)、ノースアジア大学任期付専任講師(2020.08~2025.08)を経て、現職として総務省行政管理局調査法制課係長(2025.08~)および日本大学通信教育部非常勤講師(2026.04~)。専門は、行政学、比較政治学、ドイツ政治行政論、地方自治論、公共政策論。
(掲載文は、個人の研究および見解に基づくものであり、所属機関の公式見解または立場を示すものではありません。)