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2017.06.10

『行政&情報システム』2017年06月号連載 研究員コラム ヨーロッパにおける新たな相互運用性の枠組み

一般社団法人行政情報システム研究所
客員研究員 関口 忠

はじめに

複数の組織間でシステム連携を行う場合、必ず課題となるのが相互運用性である。EUでは、加盟国が独自にデジタル公共サービスを開発することにより、加盟国間での相互接続が阻害されるリスクや市民又は企業が国境を越えて公共サービスが利用できなくなるリスクを抱えていた。そこで、EU加盟国間で調整を図り、それを回避するために開発されたのが「欧州相互運用性フレームワーク(European Interoperability Framework:EIF)」(※1)である。これにより、行政における時間節約、コスト削減及び透明性向上、市民や企業に提供するサービスの質の向上(例えば国境を越えたサービス提供など)を目指している。

これまでのEIFは2010年に採択されたもの(※2)だが、2010年以降、情報技術の分野が急速に発展したこと、ヨーロッパでデジタル単一市場を創出するというEUの新たな戦略が策定されたことから、見直しが必要となっており、2017年3月に改定が行われた(※3)。新たなEIFは、相互運用性の実現に向け、欧州公共サービスの基本原則と概念モデルが実際にどのように適用されるべきかに重点を置いたものとなっている。本コラムでは改定されたEIFの主な概要及び変更点について解説する。

(※1https://ec.europa.eu/isa2/eifより閲覧可能

(※22004年にバージョン1が、2010年にバージョン2が採択された。

(※3European Commission, Communication from the commission to the European parliament, the council, the European economic and social committee and the committee of the regionsCOM2017 134

 

欧州公共サービスの基本原則

EIFでは、相互運用性を実現するための基本的な行動の側面として、12の基本原則を掲げている。最近の政策や情報技術の状況が反映され、図1に示す4分類への再整理や若干の修正(※4)が行われたものの、基本原則そのものに大きな変化はない。基本原則は時代や環境の変化に対しても揺るがないものと考えられる。

1 欧州公共サービスの基本原則

 

(出典)EIFをもとに著者作成

(※4Technological neutrality and adaptabilityからTechnological neutrality and data portabilityへ、Effectiveness and efficiencyからAssessment of effectiveness and efficiencyへの2点が変更となっている。 

欧州公共サービスの概念モデル

加盟国の公共サービスに対する調査により、共通的な要素とベストプラクティスを抽出し、公共サービスの概念モデルを提示している。欧州の公共サービスが相互運用を可能にするためには、このモデルに従って設計する必要がある。

今回の改定により、再利用可能な資源を探すための情報としてカタログ情報が新たに追加された。また、セキュリティ・プライバシーの確保については、安全なデータの交換や管理のみならず、セキュリティ要件とプライバシー要件を考慮し、リスク管理計画に従って実装するよう概念モデル全体に関連する形に変化している。新たなモデルは、既に存在する欧州の公共サービスが、行政機関または民間企業など様々な情報源から利用可能な情報とサービスを再利用することを前提にしたモデルとなっている。

2 公共サービス概念モデル

 

(出典)EIFをもとに著者作成

 相互運用性の確立に向けた取り組み

EIFでは、相互運用性の確立に向け、加盟国で実施すべき事項について勧告を用意している。勧告は、法的拘束力はないものの、影響力としては大きい。今回の改定により勧告数は25から47に増加しており、情報開示や管理、データ可搬性、相互運用性のガバナンス、統合されたサービスの提供に重点を置いて、実装を容易にするための内容が具体化されている。また、EU域内での地理空間情報に関する共通基盤の整備を盛り込んだINSPIRE指令などの新たな方針やEU電子政府行動計画(2016-2020)(※5)なども考慮されている。

3 勧告の具体化(開示性の例)

 

(出典)EIFをもとに著者作成

(※5)著者, EUにおける新たな電子政府の取り組み」『行政&情報システム』20172月号が参考となる。

 おわりに

EU加盟国間のレベルで相互運用を図るために開発されたEIFだが、我が国国内においても官民データ活用推進基本法において、情報システムに係る規格の整備及び互換性の確保の方策として、相互運用性の対応が求められており、今回紹介したEIFが参考になるものと考えられる(※6)。

(※6)第15条第1項において、「国及び地方公共団体は、官民データ活用に資するため、相互に連携して、自らの情報システムに係る規格の整備及び互換性の確保、業務の見直しその他の必要な措置を講ずるものとする。」とある。