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2018.06.10

2018年06月号連載企画 民間企業におけるICT活用事例 No.30 データ分析と現場の肌感覚の両輪で年間観客動員数1.8倍、動員率96.2%を達成

株式会社横浜DeNAベイスターズ 
事業本部 経営・IT戦略部 部長 林 裕幸

1.目指すのは「日本一」と「コミュニティボールパーク」化構想の実現

2011年12月、プロ野球球団「横浜DeNAベイスターズ」が誕生した当時、赤字続きという経営面の課題を抱えており、チームも低迷し万年最下位を争っていました。ファン離れも進み、本拠地の横浜スタジアムは収容人数約29,000人のところ、その半分程度しか埋まらない状態が続き、2011年シーズンの年間観客動員数は約110万人にとどまっていました。

201112月、プロ野球球団「横浜DeNAベイスターズ」が誕生した当時、赤字続きという経営面の課題を抱えており、チームも低迷し万年最下位を争っていました。ファン離れも進み、本拠地の横浜スタジアムは収容人数約29,000人のところ、その半分程度しか埋まらない状態が続き、2011年シーズンの年間観客動員数は約110万人にとどまっていました。

DeNAが参入して以降、この6年間、様々な改革を進めた結果、2017年シーズンの年間観客動員数は約198万人と2011年シーズンと比較して1.8倍近く伸ばし、横浜スタジアムの動員率も96.2%に達し(図表1参照)、2016年以降、球団は黒字化を達成しています。大入り満員試合は63回、チケット完売試合も38回を記録し、いずれの数字も球団史上最多を更新しました。ファンクラブ会員数も8万人を大きく突破し13.6倍の増加です。チームの成績も2016年から2年連続でクライマックスシリーズを戦い、2017年シリーズでは19年ぶりに日本シリーズに進出し惜敗したものの、球団の歴史に新たな1ページを刻みました。

横浜DeNAベイスターズにおいて、チームの観点では試合に勝利し「日本一」になることが目標となりますが、球団経営の観点では設立当初から掲げている「コミュニティボールパーク」化構想の更なる推進を目指していきます。同構想は、「野球が好きな人はもちろん、野球をライブで観戦した経験がない人も家族や友人、同僚と気軽に皆で集まって楽しめる場をつくることを目的とし、地域や職場における様々なコミュニティが“野球”をきっかけに集い、コミュニケーションを育むランドマークになりたい」という思いを集約したコンセプトです(図表2参照)。

同構想を進めるうえで米国メジャーリーグのスタジアムも数多く視察しました。これまでの野球場という概念ではなく、スタジアムをコミュニティ空間と再定義し、球場だけでなく街の賑わいづくりに繫げる様々な取り組みを行っています。その一環として、横浜を愛する皆さまと球団・球場が共に進めるまちづくりプロジェクト「I☆LOVEYOKOHAMA」があります。横浜市の人口は約370万人、郷土愛が強く、高校野球の県予選でも球場が満員になるほど野球が根付いています。「I☆YOKOHAMA」は「横浜、プロ野球のある街」として、野球が“人と人をつなぐ”、“人と街をつなぐ”架け橋となり、横浜の人々や企業・店舗がますます元気になることが目的です。試合勝利後、選手と観客が一体となってI☆YOKOHAMAタオルを掲げ、IYOKOHAMAコールを行うことはその象徴でもあります(図表3参照)。

 

2.データ分析から見えてきた「アクティブサラリーマン」

観客動員数の増加は、横浜DeNAベイスターズが地元の球団であることを市民の皆さまへ少しずつ浸透していった成果の現れであると考えています。2011年から2015年までチームはBクラスでしたが、観客動員数は着実に伸びていたからです。お客様に足を運んでもらうためには「誰に、何を、どのように訴えかけていくか」といったマーケティング活動が不可欠です。しかし、参入当初マーケティング活動を行うためのデータが全くありませんでした。お客様を知るために、まず購買データを収集するべく初年度である2012年度に球団直営のチケット購入サイトを立ち上げました。チケットサイト、グッズのWEB購入、ファンクラブの会員ID1つに統合し、マーケティングを行う基盤を構築するとともに、様々なイベントを開催しお客様の反応を把握することに努めました。

1年分のデータが蓄積された2013年から本格的なデータ分析に着手し、来場者は20代後半から30代の男性が中心、増加率でも30代男性が多いという傾向が見えてきました。定量的な分析に加え、グループインタビューやネットアンケートなども実施し、コアターゲットを「アクティブサラリーマン」と名付けました。描き出したのは、熱狂的な野球ファンというよりも仲間と一緒にビールを飲みながら野球を楽しむサラリーマン像です。様々な世代とコミュニケーションがとれることや、家庭を持ち社会を担っていく年齢層であることもポイントとなりました。

アクティブサラリーマンは、前身の横浜ベイスターズが1998年にリーグ優勝、日本一になったとき、小学生や中学生であった世代です。少年時代の熱い感動を胸に秘めた年代の男性が、同僚や恋人、家族をスタジアムに連れて来て一緒に楽しむ姿を想定して様々な施策を打ち出していきました。

例えば、10リットルのビールが付いてきて、お酒を飲みながら観戦できる大人向けのボックス席「スカイバーカウンター」や、大人数の仲間とテーブルを囲みながらわいわい楽しみながら観戦できる「プレミアムテラス」などでは、野球を知らない同伴者でも楽しいひとときを過ごすことが可能です。また2016年シーズンからナイトゲームが開催される日の朝にグラウンドを無料開放し、親子でキャッチボールが楽しめる場を提供しています。スタジアムは試合を見るだけの場所ではなく、お客様の体験価値向上を図る空間でもあることを大切にしています。

 

3.これまでと同じことをしていては新しいことは生まれない

横浜DeNAベイスターズでは施策を実施する際、「コミュニティボールパーク」化構想とともに、コーポレイトアイデンティティ「継承と革新」(図表4参照)を大事にしています。

継承とは、1949年に大洋ホエールズとしてセントラル・リーグの結成に加わって以来、1960年の日本シリーズ初優勝、1978年には横浜スタジアムに本拠地を移転し、横浜大洋ホエールズ、横浜ベイスターズ、そして横浜DeNAベイスターズへと続くチームとファンの歴史です。

革新とは、横浜DeNAベイスターズの職員・選手のバイブルであり、書籍化もされた『次の野球』に、その考え方が示されています。同書は既存の野球の枠組みを超え、『次の野球』という新たなステージに向かうために職員・選手で出し合ったアイデアを厳選し、「何を守り、何を壊し、何を創り出すのか」について本気で考えた結晶です。これまで話題となった「100万円チケット」、「全額返金!?チケット」をはじめ、横浜スタジアムでのホーム試合で年10回程開催されるイベントでは『次の野球』の考え方が息づいています。

イベントごとにアンケートをとり、その分析結果を来年以降のイベントに活かしています。中でも2012年シーズンから始まった「YOKOHAMA STAR☆NIGHT」は毎年開催する夏の一大イベントとなりました。イベント期間中、選手はスペシャルユニフォームを着用して試合に臨みます。ファンの皆様はそのスペシャルユニフォームのレプリカを着用することで、選手と同じデザインのユニフォームを着て応援することができます。2017年は百貨店の屋上ビアガーデンに大型ビジョンを設置し、横浜の街の中に「YOKOHAMA STAR☆NIGHT」のイベントを広げ、スタジアムの内外から試合を盛り上げました。

2017年シーズンに初開催したイベント「BLUELIGHT SERIES」も評判が高く、今年も継続して行います。青く光るグッズが付いたチケットを購入することにより、試合後にお客様が一斉に点灯することで横浜スタジアムが青く光り輝きます(図表5参照)。

ただし、アンケート結果だけで全てを決定しているわけではありません。スタジアムでのお客様のリアクションや雰囲気を肌で感じることを大切にしているからです。イベントやサービスの成否はスタジアムに行けばわかります。現場のスタッフに限らず経営層も含め、実際にスタジアムでお客様が楽しんでいるかどうか、何か不満はないか、同じ現場で体験しながら“声”に耳を傾けています。データやアンケートでは見えてこないことも感じることができます。『次の野球』にも、「これまでと同じことをしていては新しいことは生まれない」という言葉があります。失敗しても挑戦することが評価される企業風土が根付いています。

 

4.スポーツの力で賑わいのある街づくりを目指す「横浜スポーツタウン構想」

データ分析と現場の肌感覚の両面から、もっとお客様を知ることが横浜DeNAベイスターズの成長の源となります。データ分析の観点では、2015年に公開したスマートフォン向けのチケットアプリ「BAYSTARSアプリ」(現「BAYSTARSチケットアプリ」)により更なる分析が可能になりました。また携帯キャリアのモバイル空間統計データを利用し、横浜スタジアムを含む周辺領域での人口流動等のデータ分析なども行っています。さらに、約1万人のWEBアンケートも実施し、分析を行っています。

お客様満足度の向上では、横浜スタジアムの動員率が96.2%となり試合観戦チケットが手に入りにくいことが大きな課題となっています。スタジアムの収容人数の課題解決に加え、2020年東京オリンピック・パラリンピックにおける野球、ソフトボールの競技会場としての整備に向け、201711月から横浜スタジアムの増築・改修工事を開始しました。約35,000人規模への収容人数の拡大、回遊デッキの新設など、新しく生まれ変わる横浜スタジアムを中心に、街と市民に開かれた世界に誇れるコミュニティボールパークへと進化していきます。

20171月には、「コミュニティボールパーク」化構想を昇華させた、スポーツを通じて横浜という街全体の活性化を図る新たな構想「横浜スポーツタウン構想」の取り組みがスタートしました(図表6参照)。この構想はDeNAグループのスポーツリソースに加え、横浜市やパートナー企業を巻き込み、スポーツの力で賑わいのある街づくりを目指すものです。同構想の中核施設として開設した「THE BAYS」ではスポーツ×クリエイティブをコンセプトにカフェやショップ、フィットネススタジオなどを備えるとともに、シェアオフィス&コワーキングスペース「CREATIVE SPORTS LAB」を設け、様々なパートナー企業と連携し新たなスポーツの価値や産業を創造していきます。

20173月には横浜市と包括連携協定「I☆YOKOHAMA協定」を締結し、これまで取り組んできたスポーツ振興や地域経済活性化の活動をより幅広く、深みを増した形で展開できるようになりました。その一環として、若手選手寮で30年以上も名物メニューとして親しまれている「青星寮カレー」のレシピをもとに、横浜市学校給食で約20万人の子どもたちに青星寮カレーを楽しく味わってもらいました。選手が大好きなカレーと同じものを食べることで、野球教室とはまた違って、野球に普段興味のない子供たちにも選手や球団を身近に感じてもらえたと思います。青星寮カレーは横浜スタジアムでも販売しており、一体感の醸成では五感を大切にしています。

データに基づくマーケティング活動や、スマートフォンを利用した新しいサービスの提供などICTの活用はプロ野球ビジネスの発展には必要です。しかし、データだけでは何も生まれてきません。データは補助的要素であり、核となるビジョンを持ったうえで、そこにデータを交えてビジョンに向けたアイデアをブラッシュアップするというやり方を採っています。「コミュニティボールパーク」化構想、「横浜スポーツタウン構想」を実現したい。お客様が一体となって応援することでスタジアムを横浜ブルーに染めたい。新しい野球をつくっていきたい。これからもファンや横浜市民の皆さまの夢と共に、「次の野球」を目指し「良質な非常識」に挑戦を続けていきます。