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2020.08.07

2020年08月号連載企画 海外公共分野ICT化の潮流 No.19 災害/感染症などのリスクに備えるための レジリエントなスマートシティ

国際大学GLOCOM
准教授 櫻井 美穂子

1.レジリエントとは何か

少し季節外れだが、フィギュアスケート競技を例に、レジリエントとは何かを説明してみたい。フィギュアスケート競技は、わずか数分間のプログラムにおいて、決められた技を盛り込みつつ、技の技術点と芸術(できばえ)点で順位を競い合う。選手たちには、制限時間の中で難易度の高い技を繰り出すことのプレッシャーに打ち勝ち、いざ技が想定通りに入らなかった時(ジャンプで転倒したり、回転不足になったり)には、残り時間内でリカバリーをしなければならないという、心理的な強さが求められる。競技中の選手たちは、頭の中であらゆるリスクを想定し、技が失敗した場合のリカバリー策について瞬時に計算しているはずだ。シングルを除くダブルスやアイスダンスといった種目では、競技中にパートナーと綿密なコミュニケーションを取りながら技を繰り出し、その時の状況に適応していかなければならない。
レジリエンスの考え方は、フィギュアスケート競技において、「あらゆるリスク(技の失敗)を想定しながら、最高得点を目指す」ことに近いのではないかと思う。この考えを社会全体にあてはめると、想定しうる/あるいは想定外のリスクから様々な社会課題が発生することを受け入れ、その後進化し続けるための“能力”の重要性を謳っているのがレジリエンスの考えである。本稿では、レジリエンスの考え方をデジタルガバメント分野に応用する際のヒントについてご提示できれば幸いである。