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2020.12.10

2020年12月号トピックス 第二期政府共通プラットフォームにおけるクラウドサービス契約の取組―クラウドサービスのメリットを活かす契約を実現するために―

総務省行政管理局
企画官 山本 寛繁

1.はじめに

政府共通プラットフォームは、共通化した施設・設備や機器等を総務省が各府省に対して一元的に提供する基盤システムであり、その第一期のシステムは2013年3月から運用を開始しています。一方、政府においては、クラウド・バイ・デフォルト原則(政府情報システムを整備する際に、クラウドサービスの利用を第一候補とすること)の政府方針に沿って、政府情報システムのクラウド化を推進しているところです。これを受け、政府共通プラットフォームについても、政府情報システムのITリソースの効率的利用や質の向上に貢献し、政府のITガバナンスを支える基盤としての役割をさらに果たしていくべく、第二期の政府共通プラットフォームでは、2020年10月より、クラウドサービス(アマゾン・ウェブ・サービス(AWS))を活用したサービスを各府省に提供しています。
2019年8月、政府CIOは、政府共通プラットフォームについて、その政策的重要性に鑑み、「政府共通プラットフォームの活用を含む政府におけるクラウドサービス利用の促進」のプロジェクトを政府重点プロジェクトの第一号として指定しています。このプロジェクトでは、政府におけるクラウドサービス利用の促進に資するため、第二期政府共通プラットフォームでのクラウドサービス活用の契約
に係る取組を「第二期政府共通プラットフォームにおけるクラウドサービス調達とその契約に係る報告書」(2020年6月30日)として取りまとめていますが、本稿では、その取組の一部等をご紹介させていただきます。
なお、契約の相手方となるクラウドサービス事業者等によって、契約のやり方についての考え方が異なる、あるいは変わり得るため、本稿でご紹介する内容は、本取組の実施過程時での状況が前提となっていることをお断りしておきます。

2.政府共通プラットフォーム(PF)とは

政府共通プラットフォームは、主として府省共通システムや中小規模の各府省の情報システムを対象に、各府省縦割りで整備・運用している情報システムを基盤システム上に統合・集約化し、運用コストの削減やセキュリティ水準の底上げ等を目指すものです。現在、仮想化技術を活用したオンプレミスで構築した第一期システムが稼働しており、上記1.のとおり、クラウドサービスを活用した第二期システムも並行稼働する形で運用を開始しています。今後、第一期システム上で稼働している各府省システムの第二期システムへの移行等を順次進めていく予定です(図表1参照)。

図表1 政府共通プラットフォームの整備とそのメリット

(出典)総務省作成

第二期システムの構築においては、クラウドサービス活用のため、政府調達の内外無差別の原則の下、国内・国外の事業者から提供されるクラウドサービスから最適なものを選択すべく、総務省において調達手続を行い、次のとおりの調達を行いました。
【調達件名】
第二期政府共通プラットフォームにおけるクラウドサービスの提供等に関する業務
【調達方式】
一般競争入札を行い、総合評価落札方式で事業者を選定
【契約形態】
契約の直接の相手方はクラウドサービス再販事業者(中間事業者)とする間接契約とし、従量課金に対応するために単価契約を締結(契約締結年月日:2020年6月22日)
【調達要件】
クラウドサービス特有のリスクに対応するための安全性確保に係る要件等も提示

3.契約形態について

(1)直接契約と間接契約の選択
クラウドサービスを利用する場合、通常、クラウドサービス事業者が提示する利用条件の合意が必要となります。契約のやり方としては、クラウドサービス事業者と直接契約するか、もしくは、クラウドサービスを提供する中間事業者(再販事業者)を介する形の間接契約にするかの二者択一となりますが、これによって利用条件の合意の方法も異なることとなります。今回の調達においては、結果的には間接契約を選択いたしましたが、検討段階当初は直接契約も模索していました。直接契約であれば、利用条件の合意はクラウドサービス事業者と直接行うこととなり、また、インシデントが発生した際の原因究明や対処等が迅速に行われ、クラウドサービス利用料等のコスト面でも中間マージンが発生しないなどのメリットが得られるのではないか、と想定していました。
しかしながら、直接契約とする場合には、クラウドサービス事業者による契約のやり方と、政府におけるIT調達での契約に関する考え方との間でギャップがあり、これを解決するには相応の検討や準備が必要であるとの認識に至りました(図表2参照)。

図表2 直接契約での契約に関する考え方のギャップ

(出典)https://cio.go.jp/node/2704

また、上記のギャップがあったほか、支払いに係る具体の事務処理において、以下のような点の整理が必要であることが明らかになりました。
・ クレジットカード払いだけではなく、請求書払いも可能だが、請求書払いの場合は特有の事務処理(AWSへのメール連絡等(振込明細の送付))の対応が発生
・ 請求書は支払側がセルフでPDF(英語・USドル)をダウンロードする必要があり、その原本性について整理が必要
・ 1回限りの支払に対しては、購入・登録時に個別の独立した請求書が発行されるため、これが月次の請求とは別請求となる(リザーブドインスタンス等の前払金、Route53ドメインの登録・更新料、AWSサポートへの加入初月のサポート料金)
一方、中間事業者を介して行う間接契約の場合においては、直接契約の場合と同様にクラウドサービス事業者と直接利用条件を合意する形態と、中間事業者を通じて間接的に当該合意を担保する形態とに分かれますが、前者の形態では、利用条件合意の文書のみをクラウドサービス事業者と取り交わすやり方となります。利用条件合意の文書のみでは、政府からの支払行為はできず、国と事業者との間の契約において、当該文書の位置づけ・取扱いについての結論を短期間のうちに得ることは難しい状況にありました。そこで今回は、中間事業者からクラウドサービス事業者に再委託してもらう(調達仕様書においてその旨をあらかじめ明示)こととし、間接的に当該合意を実質的に担保する契約方式といたしました(図表3参照)。

図表3 契約方式のイメージ比較

(出典)https://cio.go.jp/node/2704

このような間接契約の方式によることとしたため、調達仕様書においては、中間事業者とクラウドサービス事業者に求める要求内容を明確に区別した上で利用条件のベースラインを提示するとともに、SLAなどの条件やインシデント発生時の対応方法など個別に求める必要のある内容については追加して具体的に明示することにいたしました。また、支払に係る具体の事務処理についても、中間事業者において支払事務を取りまとめてもらうことで請求書ベースでの従来のやり方で支払いができ、中間事業者によってはクラウドサービス利用料等の定価からの割引もあり得る、ということもわかりました。
直接契約を実現するには、会計法令等の面からの課題解決に向けた検討や会計機関などとの合意形成プロセスが必要になるものと考えていますが、今回の調達においては、間接契約とする場合に比べ、クラウドサービス事業者とのギャップを埋めて直接契約とするメリットは大きくない、という考えに至りました。

(2)単価契約について
クラウドサービスは従量課金であるため、使った分だけ支払うということになります。政府の契約は、会計法令等に基づくことになりますが、原則は、総額をもって契約金額とすることとなっています。従量課金に対応するためには、特例の契約形態として、総価が事前に確定しない契約、つまり単価契約もしくは概算契約のいずれかを選択することになります(図表4参照)。予算と執行の予実管理を適切に行っていくためには、クラウドサービスの単価や利用実績を詳細に把握していくことが必要となります。このため、単価表と月次での支払いを伴う形態が望ましいものと考え、今回は、単価契約を採用することになりました。単価契約は、契約上その数量を決定することができないものについて、単価を契約の主目的とし、期間を画してその供給を受けた実績数量を乗じて得た金額の代価を支払うことを内容とするもので、従量課金のメリットを活かすことが出来るものと考えています。

図表4 単価契約と概算契約

(出典)https://cio.go.jp/node/2704

また、クラウドサービスにおいては、契約期間中の値下げ(又は値上げ)や、契約当初に想定していなかったサービスが追加されることもあり得ますので、クラウドサービスの価格変動や追加サービスに柔軟に対応できる必要がありますが、これらが変更となるたびに変更契約を行うことは事務的に煩雑となります。このため、当初契約の段階で、これに柔軟に対応出来る契約方法として、契約期間中にサービス一覧の定価が変動する場合は、契約時と同等の割引(割増)率で利用できるものとし、新たなサービスが追加利用される場合は定価のXX%割引(割増)で利用できるように契約書に記載することにいたしました。

4.クラウドサービスの請求・支払いについて

単価契約であっても、政府の契約である以上、予算の制限が前提となります。その運用の厳正を欠くときは、経費の不適正な使用を招くことになりかねませんので、予算の範囲内での発注ができるよう必要な措置を講ずることとなっています。単価のほか当該契約期間に対応した調達数量も予定しておく必要があり、そのうえで、予算と執行の予実管理を適切に行っていくということになります。政府共通プラットフォームの運用主体である総務省や、各府省の情報システム統括部門(PMO)及び情報システム担当部門(PJMO)において、利用量等の実績を月次で把握・管理する運用を行っていくこととしています。
また、今回はクラウドサービス事業者が外国法人であるため、外貨支払いにおける特有の事務として、適用する為替レートやその適用のタイミングなどを調達仕様書において明示し、中間事業者から総務省に対しては、換算後の日本円で請求してもらうことにいたしました(図表5参照)

図表5 クラウドサービス利用料の請求と管理

(出典)https://cio.go.jp/node/2704

5.クラウドサービスの安全性確保について

政府共通プラットフォームでは、極秘や特定秘密といった機密性の極めて高い情報は取り扱わないこととしており、一般の行政事務の遂行に係る情報システムを対象とすることとしています。しかしながら、保護すべきデータも取り扱うことから、サイバーセキュリティ戦略本部の「政府機関等の情報セキュリティ対策のための統一基準」等に沿った対応が求められます。また、クラウドサービス特有のリスクにも対応する必要がありますので、「政府情報システムにおけるクラウドサービスの利⽤に係る基本⽅針」(2018年6⽉7⽇各府省情報化統括責任者(CIO)連絡会議決定)に基づき、一定の認証制度(ISO/IEC 27017等の認証取得)や監査フレームワーク(AICPA SOC2等)への対応が推奨されていることから、調達仕様書においても、これら認証取得の証明や監査レポートの提出を求めることといたしました。加えて、利用するクラウドサービスが外国法人の事業者から提供されることについても考慮し、データの所在を国内に限定することや、データの暗号化、準拠法・裁判管轄の国内指定等、データの取扱いや法的紛争に関する手立ても講じています(図表6参照)。

図表6 クラウドサービスの安全性確保のための主な対応(外国法人に向けた対応)

(出典)総務省作成

6.おわりに

今回の取組においては、現行の国の会計制度のなかで実現可能なことを追求した結果、机上の空論ではなく、実例としての一定の成果が得られたものであり、他の府省等におけるクラウドサービス調達における契約においても参考になるものと思います。
また、第二期政府共通プラットフォームを利用する各府省のシステムにおいては、今回のように総務省が一括して契約を行うことにより、個々のプロジェクトごとに発生する契約面での検討や手間を省いてクラウドサービスを利用出来るというメリットがあるものと考えています。
一方で、今後においても、政府全体としての包括契約についての議論や、本稿でもご紹介した間接契約・単価契約の契約方式について、実際の運用を行いながらのさらなる工夫や改善点も出てくるものと思われ、さらには、従量課金のメリットを享受しつつも予算を超過した課金が発生した場合にどう調整するのか、といったことなど、大きな観点からそして実務的な観点に至るまで、様々な課題がまだ残されています。クラウドサービスの安全性確保についても、内閣官房(NISC及びIT総合戦略室)・総務省・経済産業省が推進している「政府情報システムのためのセキュリティ評価制度」(ISMAP)の本格的な運営開始も見据え、当該制度を活用した取組も進めていく必要があります。
このような課題をひとつひとつ解決しながら、政府共通プラットフォームをより使いやすくより安全なものとなるよう、また政府全体としてのクラウドサービス利用のさらなる促進に向け、今後も議論や実務を重ねていき、そこから得られた知見やノウハウを政府全体の取組に還元していく活動を今後も続けていければと考えています。

7.関係資料等

上記で引用した図表や関係資料は下記に掲載されておりますので、ご参考になれば幸いです(図表7参照)。

図表7 関連資料の掲載場所と掲載情報一覧

掲載場所 掲載情報
政府CIOポータル
https://cio.go.jp/node/2704
・ 第二期政府共通プラットフォームにおけるクラウドサービス調達とその契約に係る報告書【概要】
・ 第二期政府共通プラットフォームにおけるクラウドサービス調達とその契約に係る報告書【本文】
・ 第二期政府共通プラットフォームにおけるクラウドサービス調達とその契約に係る報告書【参考資料】
総務省ホームページ
https://www.soumu.go.jp/
main_sosiki/gyoukan/kanri/
a_01-03.html
・「 政府共通プラットフォーム第二期整備計画」(2019年(平成31年)2月25日各府省情報化統括責任者(CIO)連絡会議決定。2020年(令和2年)9月30日改定)
・「 政府共通プラットフォームの活用を含む政府におけるクラウドサービス利用の促進」の政府重点プロジェクトの指定について(令和元年8月1日内閣情報通信政策監(政府CIO)決定)
・「 第二期政府共通プラットフォームにおけるクラウドサービス調達とその契約に係る報告書」(令和2年8月5日公表)等

(注)本表の掲載場所と掲載情報は2020年10月20日時点のものです。

山本 寛繁(やまもと ひろしげ)
総務省行政管理局 企画官
昭和63年度総務庁入庁。総務省行政管理局行政情報システム企画課、内閣法制局、東京工業大学、内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室等を経て平成29年4月より現職。