本キャンペーンはブロックチェーン技術を活用して構築しました。ブロックチェーンというと仮想通貨を想起しがちですが、現在、この技術は仮想通貨以外の領域でも幅広く応用されようとしています。本稿では、なぜこのシステムにブロックチェーン技術を活用したのか、どのようにシステムを構築したのかを紹介します。
1.ブロックチェーン活用の意義
現在、行政機関はデジタル変革の波にさらされようとしています。デジタル化の時代には、現場での課題を起点として、デジタル技術を活用した業務・サービスの改革を進めることが重要となります。しかし、そのために必要となるサービスやソフトウェア、それらを使いこなすための知識やノウハウは、各組織が個別に有しており、組織をまたいでの共有及び活用は十分に行われていませんでした。これらの知的資産を自由に流通できるようになれば、行政の業務・サービスの改革に大きく貢献することになります。
従来はこうした仕組みを構築しようとすると、データの信頼性(データ発出元の証明やデータの改ざんがないこと)を担保するために堅固な情報システムが必要でした。しかし、ブロックチェーン技術を活用すれば、“仕組み”そのものによって信頼性を保証することが可能になります。信頼性を確保するために高価なバックアップサーバや監視要員を置く必要がなくなるのです。ブロックチェーンは、取引や記録の「信頼性」を技術が内包する仕組みにより簡易に実現できる技術なのです。現在、ブロックチェーン技術はこうした特性を利用して、電子投票、文書管理、農産物のトレーサビリティ、地域ポイントなど様々な公共領域で活用されようとしています。我々は、これを「知」の流通に活用できるのではないかと考えています。
流通の仕組みはシンプルで、知識や情報、ノウハウなどの「知」と独自に付与するポイントの交換を保証する仕組みを構築する、というものです。同様に、参加者は、コミュニティに対して「知」を提供すると、それに見合ったポイントを付与されます。入手したポイントは他の方が持つ知識と交換できることで、知識が流通していくのです。今回のシステムでいえば、参加者は、アンケートを通じて情報をAISに提供し、代わりにポイントを入手できます。入手したポイントを記事と交換することで、今回はPOC(概念実証)なので参加者とAIS間のみですが、ブロックチェーン技術を介した一種の「知」の流通が起こるのです。
2.どうやって開発したのか
ブロックチェーンは非常に高度な技術という印象がありますが、実はかなり敷居は下がってきています。様々なソフトウェア群が開発・提供されており、それらを組み合わせるだけでブロックチェーンの仕組みを作ることができるようになっています(プログラミングの知識はある程度必要になります)。いまや誰もがブロックチェーンの仕組みを開発することができるのです。ソフトウェア開発を専門とする組織でなくてもこの仕組みを活用することで、今回のシステムは、わずか1か月強で構築することができました。しかし、こうした超短期開発を実現できたことには他にも要因があります。それがアジャイル開発とクラウドです。
(アジャイル開発)
従来のシステム開発は、あらかじめ体系的に要件を定義して、それに沿って段階を追ってシステムを積み上げ式に構築していました。このような開発方法をウォーターフォール型開発といいます。これに対し、今回のシステム開発はアジャイル型開発(その中でもスクラム手法)で行いました。アジャイル型開発は、はじめに要件を固め過ぎず、小さな部品を作成し、都度確認をとりながら、部品を付け加えていって全体を構築していきます。これにより、通常のシステムであれば、最初に要件を詰め切れないがゆえに、ある程度システムが出来て上がってきたところで問題が発覚し手戻りが発生する、といったことが頻繁に起きていたのですが、アジャイル型開発では、こうした無駄が一掃されました。また、各フェイズのスケジュールや要件を固めないので、進捗に応じて柔軟に機能を取捨選択することもでき、無理なく完成させることができました。なお、意思決定者がスクラムチームに入ってくれたことも、スピーディーな進行を可能とした要因の一つでした。
(クラウドサービス)
今回のシステムはすべてクラウドサービス上に構築しました。その結果、オンプレミス(現物の購入)の場合と比べて、サーバの調達やセットアップなどかかる時間をほとんどゼロにし、非常に短期間でリリースすることが可能となりました。現在はクラウドサービスの敷居もどんどん下がっており、価格も安価になっています。にもかかわらず、セキュリティなどもサービス内で非常に強固に保証することができます。大規模なシステムから小さなシステムまで柔軟に構築し、しかもスケールを柔軟に変更することができるので、事前に厳密な利用量の想定を立てる必要もありません。このようにクラウドサービスには様々な、計り知れないメリットがあり、今や、その選択肢を想定することなくシステム開発することはあり得ないと考えています。
3.今後の展開
今回のシステムはアンケート専用に構築しました。アンケートの結果は、今後の『行政&情報システム」とAISウェブサイトの記事の拡充・改善に活用させていただきます。ただし、ブロックチェーン技術の活用に関しては、今回の事業にとどまることなく、プロジェクト終了後も、前述のような「知」の流通を実現する仕組みを構築していきたいと考えています。その“輪”に多くの行政職員の方々、そして行政に携わる事業者の方々にも参画していただけたらと考えています。ぜひ今回のアンケートに参加いただき、これを契機に今後の行政における業務・サービスの改善に向けた取り組みを行う仲間になってください!皆様のご参加を心よりお待ちしています。
今回の仕組みの構築は、国産ブロックチェーン企業bitFlyer社のブロックチェーンプロダクト「miyabi」を活用させていただき、また、構築に当たり様々な支援をいただきました。深く御礼申し上げます。