機関誌記事(記事単位)

無償

2019.08.09

2019年08月号連載 研究員コラム 公共分野にも適用可能なサービス開発へのブロックチェーンの活用可能性の実証

一般社団法人行政情報システム研究所
研究員 細井 悠貴

1.はじめに

ブロックチェーン技術については、20196月に閣議決定された「世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」において、「ブロックチェーン等の新技術の利用」が掲げられているとおり、行政や公共分野での今後の活用が期待されているが、まだその取組は始まったばかりであり、実際に当該分野でブロックチェーンを活用している事例は少ない(※1)。他方で、民間企業ではブロックチェーンを活用した実証実験が活発に行われている。

ブロックチェーンの理論が発表されてから10年余りが経った現在、ブロックチェーンの機能を開発・提供するためのプラットフォームも充実しつつあり、開発効率は大幅に向上している。民間企業の事例の多くでもこうしたプラットフォームを利用してサービス開発が行われている。一般に、民間企業で活用され始めた技術は、数年遅れて行政機関にも導入される。したがって、ブロックチェーン技術についても、こうしたプラットフォームを活用することで公共分野向けのサービスを開発できると考えられる。そこで(一社)行政情報システム研究所では、これらのプラットフォームを利用し、公共分野にも適用可能な、ブロックチェーンを活用したサービスを開発できることを実際のシステム構築を通じて実証することとした。

(※1)ブロックチェーン技術が行政に与える影響に関する調査研究報告書 行政情報システム研究所(2019 https://www.iais.or.jp/reports/labreport/20190618/bcreport/

2.本実証で開発するサービス

今回の実証では、知識やノウハウなどを流通させる仕組みとして、アンケートに回答した利用者に弊誌の記事をWeb上で閲覧・ダウンロードできるポイントを付与する仕組みを構築した(図1)。

図1 開発するサービスのイメージ

(出典)(一社)行政情報システム研究所作成

知識やノウハウの共有については、行政機関の間でも様々な形で行われているが、個別の事業内など限られた範囲にとどまっていることが多く、組織的、広域的な取組として十分に機能しているとは言い難い。こうした活動をブロックチェーンの特性を活かして仕組み化できれば、様々な主体間での連携・協力の円滑化・拡張・強化に資する可能性があると考えられる。今回開発するサービスでは、ポイントを付与された回答者は、ポイントを使用して任意の記事をダウンロードできる権利を得られる。また、今回は実施しなかったが、理論的には、ポイントを利用者間で交換することも可能である。回答者がポイントを使用すると、どの記事のダウンロードの権利を得たかという情報がブロックチェーン上に記録される(図2)。

図2 記事のダウンロード権を取得する際のシステムの画面

(出典)(一社)行政情報システム研究所作成

このときのやりとりの記録の真正性がブロックチェーンによって担保されるのである。なお、コンテンツそのものはブロックチェーンには記録しない。あくまでトランザクション情報のみが記録される。

3.実証結果および考察

ブロックチェーンのプラットフォームを活用して開発を行ったところ、環境構築の期間を含め、わずか1カ月程度で開発を終え、実際にコンテンツの流通とポイントの付与を通じた価値の移転を実装することができた(※2)。ブロックチェーンを活用したシステム構築経験のない著者であってもブロックチェーンを活用した機能を実装できたのは、ブロックチェーンのプラットフォームがブロック形成などの基本的な機能を提供していたからである。

これにより、従来であれば、複雑な作り込みが必要であったコンテンツの流通の仕組みをブロックチェーンのプラットフォームを活用することで、実装できることを検証できた。

なお、短期間で開発できた理由として、次の2点も指摘しておきたい。

①クラウドサービスを採用したことでハードウェア調達時間を削減することができた

② アジャイル型開発を採用したことでスケジュール調整や仕様変更を柔軟に行うことができた

 この結果から、ブロックチェーンを活用する開発では、クラウドサービスやアジャイル開発が有効であることも併せて確認することができた。

このような権利(記事のダウンロード権)とその対価(ポイント)の移転に関するトランザクション情報をブロックチェーン上に記録するような機能を活用したサービスについては、様々な場面で適用可能であると考えられる。ブロックチェーンには、特有の限界や留意事項(※3)は存在するが、いまや行政機関においてもサービスを開発・改修する際の有力な選択肢の一つになりつつあると言い得るのである。

(※2)今回の開発ではbitFlyer Blockchain社製ブロックチェーンプロダクト「miyabi」を活用しシステムを構築した。

(※3)詳細は前掲報告書を