WEBコラム

2021.02.03

自治体職員による行政データ活用の研究事例からEBPMを考える

一般社団法人行政情報システム研究所 主任研究員 平野隆朗

1.EBPM推進の難しさ

2017年5月に閣議決定された『世界最先端 IT 国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画』にEBPM (Evidence-Based Policy Making:証拠に基づく政策立案)推進の必要性がはじめて明記されてから、約4年が経過しました。その間、国では2017年8月にEBPM推進委員会が、2018年度からは各府省におけるEBPMの取組を主導する政策立案総括審議官が新設されるなど、推進体制の整備が進みつつあります。
一方で、推進体制が整備されたからといって一朝一夕に政策立案に活用できる訳ではありません。実際にデータを利活用するためには一定のノウハウやスキルが必要であり、それらを習得・蓄積するのは障壁が高いのも事実です。
このギャップを埋めるための取組として、各地でデータ利活用の研修や、知見の共有が行われています。その優れた事例として、データ&ストーリーLLCが主催する自治体職員を対象としたデータ利活用研修の成果発表会が昨年12/21にオンラインで開催され、小職も参加する機会を得たので、その一部を紹介します。

 

2.『行政へのデータ活用成果発表会』について

上記の研修は、自治体の行政の現場で実際に直面している課題を、実在のデータを用いて分析し課題解決に導くというという実践的なプログラムです。そして、成果発表会には前述のプログラムを受講した3自治体7組織が発表者として、また10団体がオブザーバーとして参加し、2~4か月のプログラム期間で得た成果を発表しました(表1-1、1-2、1-3)。

そこでは、地域の特性に根差した、きわめて多様な課題がピックアップされ、それぞれに対し、限られたデータを最大限駆使して解決しようとする意欲的な提案が、自治体職員自らによってなされていたことが大変印象的でした。

表1-1.発表した自治体と発表テーマ 和歌山県紀の川市

 

表1-2.発表した自治体と発表テーマ 新潟県長岡市

 

表1-3.発表した自治体と発表テーマ 新潟県燕市・弥彦村

 

本イベントを通じて、登壇したどの自治体も「データドリブン」ではなく「デマンドドリブン」、すなわち達成したい目標や解決したい課題を明確にしたうえで、それを達成するためにどんなデータをどのように活用するかについて徹底的に思考していることが印象的でした。

 

3.発表内容から見るEBPMの工夫点

例えば、新潟県長岡市中心市街地整備室の発表『まちなかで若者の居住人口を増やすには』で小職が注目したのは、主観的な内容をデータという客観的なツールで表現するための工夫でした。

直感的には、まちなかにおける若者の居住人口を増やすためには、まちなかを快適・便利にし、いい物件を揃えればよいのではないかと考えるのですが、「快適」や「いい物件」という主観的な内容を客観的に示すデータはありませんでした。

そこで長岡市が工夫したのが、「快適」や「いい物件」を示す指標を、手持ちの「築年数」「売買価格」のデータで代替することでした。『築年数が浅い方が「快適」のはず』、『高い値段の物件の方が「いい物件」のはず』、という仮説を立て、データで立証を試みたのです。これは、解決したい課題を明確にしたうえでデータを活用するという「デマンドドリブン」の思考そのものだったと思います。

なお、こうした主観的な内容は、住民にアンケートを取るという手法もありますが、予算的・時間的な制約から実行に移せないことも多々あると思います。また、データ分析を繰り返すたびに毎回アンケートを取得するのも現実的ではありません。その点からも、限られたデータを最大限駆使する長岡市のこのアプローチは、とても参考になると思います。

図. 新潟県長岡市中心市街地整備室 発表の様子

新潟県長岡市中心市街地整備室 発表の様子

 

4.最後に(まとめに代えて)

EBPMにおいて重要なのは、データに政策を語らせるのではなく、データに客観性を語らせることです。今回発表された自治体職員の方々は、本プログラムを通じてそのことを強く実感されていた様子でした。

本イベントの詳細につきましては、こちらからご覧いただけます。

今後も、本コーナーや弊誌『行政&情報システム』を通じて、行政機関におけるEBPMの取組動向や事例について随時情報発信をしていきたいと思います。