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2024.01.09

2024年1月号トピックス 議会答弁事務を効率化する「答べんりんく」を全国に横展開と内製システムを商品化する“福島市モデル”は自治体DXを加速させるか

福島市
政策調整部 情報政策監
信太 秀昭

株式会社ぎょうせい
法令コンテンツ事業推進部 部長
石崎 壽治

株式会社エフコム
公共営業部 部長
丹治 勇喜

取材/狩野 英司(行政情報システム研究所)
文/野々下 裕子

 自治体で進められているDXの成功例に注目し、横展開しようという動きが始まっている。福島市が内製した議会答弁事務を効率化するシステムが、今年4月に「答べんりんく」という名称で商品化され、200以上の自治体から引き合いが寄せられている。システムはどのようなきっかけで開発され、全国自治体向けに横展開を図るサービスとして商品化されたのか。最初に開発を手がけた福島市、システムの商品化とサービスを担当した株式会社ぎょうせいと株式会社エフコムの担当者にそれぞれ話を伺った。

 

1.議会答弁検討システム「答べんりんく」とは

 議員が集まって話し合う議会での答弁づくりは自治体にとって重要なものであり、その作成に職員は膨大な時間と手間を費やし、気を配っている。その作業は、議会前に職員が議員に内容を聞き取る「質問取り」に始まり、上司のチェックを受けながら答弁案を作るが、1議会当たりの質問数は数百にもなり、その多くは紙で確認することから印刷枚数もとんでもない数になる。
 福島県福島市では議会答弁に関わる職員の負担を減らそうと、一職員が既存のデータベースソフトウェアを使って、議会に先立ち行われる質問取り、答弁作成、答弁検討という一連の流れを集約するシステムを作成し、大幅な業務効率化とペーパーレス化を実現した。そのシステムをより多くの自治体でも使えるように商品化したクラウドサービスが「答べんりんく」1である(図1)。

 

図1 「答べんりんく」イメージ

(出典)株式会社ぎょうせい

 

 行政関連の実務書出版や業務システム、コンサルティングを通じて自治体内部事務に精通するぎょうせいが、福島市から相談を受けて商品化を進め、IT企業のエフコムがWebシステムとして開発を行った。主な機能に質問者の情報を共有する「質問者管理」、質問や答弁の内容を管理できる「質問答弁管理」、過去の議会を参照できる「過去議会管理」があり、インターネット環境と LGWAN環境 のどちらでも利用できる(図2)。

 

図2 「答べんりんく」の特長

(出典)株式会社エフコム

 

 令和4年12月に福島市で利用を開始し、稼働実績を重ねた後に令和5年4月から全国に向けて販売を開始した。専用サーバーが不要なサブスクリプション型のクラウドサービスは、月額3万円(税抜き)からという低価格に抑えられていることもあり、売り出してわずか半年で問い合わせは200を超え、現在も全国の自治体から問い合わせが続いているという。

 

2.職員の仕事を少しでも楽にしたいという思いが内製化につながる

 「答べんりんく」の元となる議会答弁の作成を効率化するシステムは5年前に開発された。作成を手がけた福島市政策調整部で情報政策監を務める信太秀昭氏は「そもそも私がシステムの開発に取り組もうと考えたのは、忙しい職員の仕事を少しでも楽にしたいという思いからでした」と話す。以前からデータベースに関心があり、部局を超えて同じ場所にデータを格納できるようになれば、楽になる仕事が山ほどあるだろうと考えていたがなかなか実現できずにいた。しかし、信太氏が平成30年に情報管理課も所管する総務部の次長になり「部局を超えて誰でも使える領域」を作るよう指示を出せる立場となったことで状況が大きく変わる。データを共有できるメリットを提案するためにまず取り組んだのが、議会答弁の作成を支援するシステムだった。
 「議会答弁の作成は古くからある仕事ですが、当時は紙中心のアナログ作業だったので、そこを改革すれば効果を理解してもらいやすいと考えました。使い慣れていたマイクロソフトのデータベースソフトAccessを使ってシステムのモックアップを作成し、総務課で業務改善を担当する係長に見せたところ改革マインドもあり、面白がってくれ、そこから2〜3ヶ月で周りの職員にも見せられるものまで作り込みました。」(図3)

 

図3 信太氏が作成した議会答弁システムの画面イメージ

(出典)福島市

 

 福島市では議会が年4回行われるが、1議会当たりの質問数は約350問で、使用する印刷物の枚数は軽く1万枚を超えていた。システムを使うことで、議会の質問取り、答弁作成、答弁検討という一連の流れの中でワードやエクセル、紙を使った作業を無くしていったが、これまで手慣れた仕事の流れはできるだけ変えず、やり方だけを変えることを重視した。一部の部署(総務部と消防本部)から段階的にスタートし、現場の声を取り入れながら改善を重ね、使いやすさを追求しながら1年かけて出先機関も含む全庁への導入を実現した。
 導入効果は予想以上で、試算によると年4回行われる議会にかかる準備事務が約150時間、印刷用紙は5万枚以上節約された。さらに、リアルタイムに誰が何を書いているのかがオープンで見えるようになったことで、答弁検討会の前に部局間で質問に対する答弁を調整するという副次的な効果も生まれた。

 

3.市長の鶴の一声が庁内DXを加速。自治体初のソフトウェア販売へ

 議会答弁を支援するシステムの導入は順調に進んでいるように見えたが、管理職の中には仕事のやり方を変えることに抵抗する声もあったようだ。その状況を変えたのが市長の「このシステムは使える!」という鶴の一声だった。平成29年12月に就任した木幡浩市長は総務省出身ということもあって早くから行政BPRに取り組み、部長会議をペーパーレス化するためタブレットの使用は就任から1ヶ月でそれを実現した。
 信太氏が作ったシステムも市長の目にとまり、トップダウンでオーダーが出された結果、全庁での使用がスムーズに進んでいった。そして、システムを商品化できないかと考えたのも木幡市長だった。
 「私が作ったシステムは福島市の仕事をなぞらえて作られたものなので、他の自治体でも使えるのかわかりませんでした。市長から商品化を検討するよう指示があり、システムを全国へ横展開できる可能性があるのか、株式会社ぎょうせいに相談したところ興味を持っていただき、商品化につながりました。」(信太氏)
 もう一つの理由として、安定した業務運用に向けてAccessで作ったシステムを汎用データベースに移設しメンテナンスや新しいOSへの対応を外部委託することが庁内で検討され、その際にシステム解析を行った実績のある株式会社エフコムへ商品化参画を依頼することになった。「ごちゃごちゃと素人が書いたプログラムコードを読み解くのはたいへんな手間だったと思いますが、エフコムの木村さんという優れたエンジニアの手で完璧に移植されました。」(信太氏)
 最初に木幡市長が全国展開を考えたのが令和3年7月頃。そこから福島市、ぎょうせい、エフコムによる「答べんりんく」の商品化がスタートした。

 

4.全ての自治体が使いやすいサービスを使いやすい価格で

 福島市から商品化の相談を受けたぎょうせいの石崎氏は、まず「商品化は、民間で議会答弁検討という業務を知っている我々でなければできない」と思ったと話す。「多くの地方公共団体議会の一般質問では、質問通告制という方式がとられています。しかし、質問のやり方、答弁のやり方は千差万別です。大きな違いは、一括質問式か福島市と同じ一問一答式、一問一答式といっても団体によって微妙にやり方が異なります。答弁書のレイアウトに至っては、全国の市区町村で一つとして同じものはないでしょう。全てをカスタマイズすることは無理です。そこで、この業務の本質に着目しました。結局共通するのは、議員が質問し、担当職員が質問の意図を汲んだ答弁書を用意し、理事者が答弁することだと判断。パッケージの機能を、質問の全庁共有、答弁の登録、答弁書の作成、質問と答弁のアーカイブという、本当に基本的でシンプルなところに絞りました。」
 そう決断できたのは、議会答弁事務について全国自治体と会話ができるぎょうせいだからだと石崎氏は語る。「当社のベストセラーに『イチからわかる!“議会答弁書”作成のコツ(林誠 著)』2という本があり、その中で、全ての自治体にピタッと当てはまる答弁書のノウハウは作りようがありません。しかし、議場で質問に対して答弁するという大きな枠組みは共通していますし、答弁書の位置付けや役割は同様であると思うと書かれています。そこで骨格となる流れは福島市のやり方をベースにしつつ、本に書かれたバリエーションを頭に入れて引き合いのあった自治体に詳しくヒアリングを行い、システムがどんな使われ方をするのか(ユースケース)をいくつか想定し、フレームを作ることができました。」
 「答べんりんく」は、システムの新規性もさることながら、3者の取り組みスキームもユニーク。福島市が開発したAccessシステムが「答べんりんく」の原著作物となっており、福島市は原著作権を普通財産として扱うことで利用料収入が得られるという、市と民間2社が協働して作られたこれまでに類を見ないビジネスモデルだといえる。また福島市がパブリシティを担うそのインパクトは大きく、ぎょうせいがオウンドメディアでシステムを紹介したところ3一気に話題になり、今年4月に福島市長の定例記者会見で発表4されると爆発的に関心が広まった。
 商品化に当たり、信太氏が唯一条件としたのが価格設定だった。「便利なツールでも職員1人当たり毎月数百円となると予算化できないという話はよくあります。商品化は収益を上げるのではなく広く利用してもらうのが目的なので、年数回の議会で使うのに高いと思われない価格を設定してほしいとお願いしました。」
 エフコムの丹治氏は「最初に開発を依頼された時に、開発コストを回収するため月額5〜6万円を想定していた」と話す。「信太氏からの希望もあり、人口10万人以下の市町村は月額3万円から提供することになりました。販売目標は3年間で170団体を掲げており、今後は各自治体の使い方にあわせてレベルアップするなど、追加で収益を上げる方法を検討しています。」

 

5.行政BPRの意識が高まり内製化は40を超える

 福島市では答弁作成システムをきっかけに内製化がさらに進み、部局を超えて情報をつなぐ多くのシステムを作成している(図4)。

 

図4 福島市が内製化しているシステムの一部

(出典)福島市

 

 「システム内製化は主に私と川村という職員が行っていました。既存のソフトウェアを使ったノーコード開発やエクセルのマクロなど手法は様々ですが、2人ともエンジニアの経験はなく、好きだからできるという感じですね」と信太氏は話す。2人とも自分の所属に近い範囲で内製化を進めていたが、だんだん庁内の関心が高まり、システム内製化の機運も高まってきたことから、職員向けの研修会を開催するなど職員の育成にも取り組み始めた。令和5年4月からは情報企画課の業務として組織的に内製化に取り組む体制が取られている。
 「現在、庁内からBPRやシステム化を進めたいという相談が60以上あります。その全てを情報企画課で開発するのではなく、各所属部署の中で作れる職員を育てる活動も行っています。内製化を本格的に始めたばかりですが、今後も仕事の効率化につながるような動きを進めていきます。」
 日々の業務を便利にするツールはいろいろあるが、福島市が内製化を成功させいている背景には、開発を行う側が庁内の業務を把握しているだけでなく、最初のスタートである「職員の負担をできるだけ減らす」ことに注力しているからだといえる。その姿勢を最も強く感じるのは、システムを使うユーザーを把握する機能だ。
 福島市では業務端末にログインする時、手のひらをかざす生体認証を採用しており、ログインIDとして職員番号が入力される。その職員番号から所属と氏名を把握しシステムで利用する内製化を行っている。一例を挙げれば職員ひとり一人に何か調査したい時など、「〇〇調査システム」を開くと自己情報が表示されるので、それを見ながら最新の状況を回答するなどである。ひとり一人の職員は各自画面を開いて情報を更新すれば良く、調査する側はデータが貯まっていく経過をリストで把握し、全体の集計を柔軟に行うことができる。
 広い範囲に調査を呼びかけ、回答を集め、結果を集計するといった作業は手間がかかる。それは人と人の間のデータをやり取りする手間の多さといえる。人から人へデータを渡す工程を無くせば調査する側、される側どちらも手間が減る。システムを使っても調査を呼びかける、回答する、集計するという仕事の流れは変わらない。しかし、人の手による作業を無くすやり方を考えて全体をデザインする。部局を超えて動作するシステムを内製化するという発想がBPRの後押しになるというのがわかる。

 

6.今後の展開

 業務を効率化するシステムやツールはこれからも増えていくと考えられるが、どんなに便利でも運用によっては効果を発揮することができないことも出てくる。石崎氏は大事なポイントとして「書類を流すのではなく、質問・答弁データを中心としたワークフロー」を挙げている。
 「商品化に当たり取り入れた機能で、議員が作成する質問通告書をフォーム化しデータとしてシステムに取り込めるようにしました。質問を発生からデータとし、議会事務局が質問を一括登録、即時に執行部へデータが共有され、答弁を登録することができます。事務の効率化だけでなく、いい答弁を作成する条件が整い、議会のいい議論、いい政策立案、いい街づくりにつながっていくことでしょう。答弁書作成は、これまで他の自治体を参考にすることのない業務でした。福島市とこれから導入する自治体の成功事例が全国に広がればと期待しています。」
 また石崎氏は「答べんりんく」の経験を活かし、自身が専門とする法律や条例作成のプロセスもデータを中心としたフローとすることによって書類の流れと事務を効率化し、政策検討に集中できるようなシステムを作ることを考えている。
 丹治氏も「IT企業単独で自治体向けのツールを開発するのは難しく、福島市やぎょうせいとタッグを組んでシステムを商品化するという今回のような事例は、我々にとっても初めての取り組みでしたが、これで一つのモデルができましたので、「答べんりんく」を参考にしながら他のサービス化についても皆さんと一緒にやっていきたいと考えています」と話す。
 信太氏は、「どの自治体でも住民側のデジタル化はどんどん進む一方で、職員の側の省力化はまだまだ進んでいません。せっかくデジタルデータが来たのにもう一度紙にするような業務もあり、デジタル化は仕事の上乗せと思われているところがある。」と指摘する。「業務の効率化は内製化である程度対応できますし、市でも活用を進めているノーコードのような便利なツールやサービスも増えています。仕事の上乗せではないデジタル化の取り組みができればDXに対する考え方も変わり、もっと広がっていくようになるのではないかと考えています。」

 

(左から)石崎氏、信太氏、丹治氏、地方自治情報化フェア2023(幕張メッセ)にて

 

1 https://gyosei.jp/business/law/touben_linq/

2 https://shop.gyosei.jp/products/detail/9595

3 ぎょうせいオンライン/【DX推進事例】「議会答弁検討システム」でペーパーレス化と事務負担軽減 信太 秀昭(福島市政策調整部 情報政策監)2021.07.30
https://shop.gyosei.jp/online/archives/cat06/0000040783

4 福島市記者発表資料「本市初の自治体ビジネス始動」
https://www.city.fukushima.fukushima.jp/kohoka-koho/shise/koho/happyo/r05/documents/20230406-4.pdf

 

信太 秀昭(しだ ひであき)
福島市政策調整部 情報政策監
答弁検討システム開発以来、仕事を楽にするための内製化を続けている。プログラミングに興味を持ったのは、アップル社マッキントッシュというパソコンに標準装備されていたカード型データベース「ハイパーカード」のHyperTalk言語に触れたのがきっかけ。1990年代には私物の9インチコンパクトマックをデスクで使っていた昔からのパソコン好き。

 

石崎 壽治(いしざき としはる)
(株)ぎょうせい 法令コンテンツ事業推進部長
【担当】法令と法情報のデータ化、国と自治体の法制事務デジタル化
【実績】内閣法制局 法令審査支援システム、例規執務サポートシステムSUPER REIKI-BASE(自治体導入シェア№1)を開発、法務省から法制執務業務支援システム(e-LAWS)法令データ整備業務、デジタル臨調から諸外国の法制事務のデジタル化に関する事例の調査を受託、自治体実務解説サービスGovGuideの運営

 

丹治 勇喜(たんじ ゆうき)
(株)エフコム 公共営業部長
1998年 エフコム入社。
約10年間、システムエンジニアとして汎用コンピュータおよびWindows系システムの開発・運用に従事。
2007年より営業へ配属となり、全国の自治体向けに業務システム・クラウドサービス・BPOサービスなど数多く提供してきた。