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2024.04.01

2024年4月号 トピックス 官民の共創による交通環境情報を活用した社会課題解決を目指す 交通環境情報ポータル「MD communet®」

株式会社NTTデータ
社会基盤ソリューション事業本部
ソーシャルイノベーション事業部
スマートビジネス統括部 営業企画担当
課長代理
中島 紋衣

 自動運転の実現に向けて整備される高精度地図データや道路交通、車両プローブ等の収集データは、交通環境情報として自動車産業以外にも様々な産業での活用が期待できるとし、これらの情報がより安全に使いやすい形で流通できるための仕組みづくりが重要視されてきている。この仕組みを実現するため、モビリティ分野のデータを集約し、他の分野のデータとのマッチングを行う交通環境情報ポータルサイト「MD communet®」が誕生した。これまで、MD communet®の持続的な運用を目指し、会員拡大や各種プロモーションによる認知度の向上、オフライン/オンラインでのマッチングの場づくり等の普及促進活動や本仕組みを社会実装する上で重要な鍵となる交通環境情報を、他の分野の情報とも組み合わせて有効利用するサービス事例づくり、各種支援を実施してきた。今月は、なぜ交通環境情報ポータル「MD communet®」なのかと自治体での課題解決の事例について説明をしていく。

 

1.交通環境情報ポータル「MD communet®」とは

(1)背景
 フィジカル(現実)空間のセンサーからサイバー(仮想)空間に膨大なデータが集積されるSociety 5.0では、データ連携の仕組みが求められている。自動運転の実現に向けて整備される高精度地図データや道路交通、車両プローブ等の収集データは、交通環境情報として自動車産業以外にも様々な産業での活用が期待できるとし、これらの情報がより安全に使いやすい形で流通できるための仕組みづくりが求められてきた。
 内閣府では、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2期自動運転において、これらの道路交通情報や関連情報のみならず、産業界や官がもつ地理系データの有効活用を促進するためのプログラムが2019年度に公募され、NTTデータが採択された。プログラムの目標達成に寄与するために、人や情報、データが集まり、様々なデータやサービスを創出するために生まれたのが「MD communet®」である。
 交通環境情報ポータル「MD communet®」は、世の中に散在するモビリティ分野の多種多様な交通環境情報をポータルサイト上で一元的に集約するとともに、サービス創出のためのコミュニケーションの場を様々な形で形成することで、利用者の新たなサービス創出、そのための官民連携のマッチングを支援している。「MD communet®」の交通環境情報ポータルサイトは、2021年4月に公開した。現在会員はおよそ100社/団体、NTTデータにてポータルサイトの運営を行っている。

 

図1 MD communet®ホームページのトップ

(出典)交通環境情報ポータルMD communet®ホームページ

 

(2)どのようなポータルサイトなのか
 データ提供/サービス創出においてユーザが抱える課題を解決するための支援として、大きく3つのサービスを提供している。
① 官民の交通環境情報を掘り起こして情報提供
 現在、インターネットのデータカタログサイトでは、8,000件を超える交通環境情報を掲載・公開している。インターネットやECサイト等で検索結果の中からユーザが欲しいデータや情報を見つけることは困難を極めている。MD communet®では、ユーザごとにデータレコメンドや機械学習により類似データの表示等、キーワード検索以外での検索方法により検索結果を提供できるようにした。これにより、気付かなかったデータとの出会いを実現している。
② 提供者/利用者のマッチングを促進、サービス創出を支援
 ユーザが抱えるニーズやシーズに対して、マッチングしそうな企業をご紹介している。例えば、“車両から取得できるプローブデータを活用して交通分析を行いたい”場合、分析要件によって必要なデータは異なる。例えば、市街地では一般車両が多く、港湾エリアでは商用車が多いといったエリア特性が異なるため、どういったことを分析したいのかによって利用するデータは異なる。また、事業者によって提供頻度・方式、過去何年分のデータを保有しているか等も異なる。そういった要件をユーザにお伺いしながら、コンシェルジュが目的に応じて、最適なデータを保持する事業者を紹介している。
 さらにネットワーキングやイベントを通じて知らなかった or 今まで繋がりのなかった事業者との出会いの場を提供している。
③ データ加工などのテクニカル支援でサービス化・課題を解決
 データを購入した時によくあることとして、交通環境データを事業者から購入したがデータ処理の方法がわからない場合やデータが活用されないまま保管されていないケースがある。ほかにも、データ販売やサービス開発において技術支援を要望されるケースがある。そのような場合、MD communet®では企業紹介含めデータ処理の方法をアドバイスするテクニカル支援でユーザのサービス化に向けた支援をすることもある。

 

図2 MD communet®のサービス概要

(出典)NTTデータ作成

 

2.自治体の交通環境問題を解決

 データ連携や活用をさらに促進するために、民間企業だけではなく、地方自治体を巻き込み、地方自治体が抱えている課題についても交通環境情報で解決できないかを検討した。データ活用の特性から、地方自治体のEBPM(Evidence・Based・Policy・Making:客観的な根拠や証拠に基づく政策立案)における活用をテーマに課題選定し、複数の交通環境情報を組み合わせることで客観的根拠の生成と活用を検討した。

(1)観光公害の課題を解決するためのコンテストを開催
 MD communet®では、京都府京都市協力のもと2019年~2020年、2021年~2022年の計2回コンテスト名:「京都における観光・交通に関する課題解決のためのアプリコンテスト」(愛称:KYOTO楽Mobiコンテスト)を開催した。本コンテストでは、京都市で顕在化している、コロナ禍による公共交通の急激な利用者減や「密」を避けるための車内混雑の抑制、コロナ禍があけ、急激な観光客の増加による観光と交通に関する社会課題を解決するための手段として、交通環境情報を活用したサービスを検討した。京都市において、解決が期待される課題として、以下のような項目があった。
・観光客の生活バス利用による観光動線と生活動線の混在(生活動線を避けた経路案内等)
・一部のエリアへの観光客の集中(混雑状況を加味した目的地の提案等)
・交通機関車内への大きな手荷物の持ち込み(「手ぶら観光」の推奨等)
・混雑や遅延など実態に即した情報提供ができていない(混雑予想や運行状況を考慮した案内サービス等)
 第1回では、最適な公共交通の経路案内などのアプリケーションを実現するにあたり、活用が必要となる鉄道やバスの動的運行状況などのデータフォーマットの整備(GTFS等)~データ提供までを支援することでデータ提供の土台づくりを行い、第2回では継続的にデータ提供ができる仕組みづくりとして、講習会やツール導入支援等も実施した。

 

図3 KYOTO楽Mobiコンテストの概要

(出典)NTTデータ作成

 

 第2回KYOTO楽Mobiコンテストでは、道路のリアルタイムな交通渋滞情報を活用した目的地に早く到着が可能なバスの類似系統を提案する乗換案内アプリの開発や交通事業者向けのバスダイヤの最適化シミュレーション等、多くの作品を出品いただいた。

 

図4 第2回KYOTO楽Mobiコンテスト最優秀賞の作品

(出典)NTTデータ作成

 

(2)複数のデータを組み合わせた除雪パトロール業務改善の検討
 秋田県横手市は、降雪地帯であり、冬期の住民の移動の安全・安心のため、除雪が必要となる。除雪をする道路を特定するために自治体職員による道路パトロール業務の負担が課題として挙げられた。
 そのため、秋田県横手市と連携し、除雪に伴う道路パトロール業務について、パイオニア社が設定した場所をパイオニア製のカーナビを搭載した車両が通過した時に撮影した画像、気象情報、道路を通行する車両の挙動を記録したプローブデータ、ドライブレコーダーの連続画像、といった複数種類のデータを活用することで代替/改善できるかを検証した。交通環境情報の地方の課題として、車両の交通量の少なさから取得できるプローブデータやドライブレコーダーの動画の量が少なく、確認できたエリアが限定されていることが確認された。MD communet®に登録されたデータから、横手市中心市街地を対象に複数データを組み合わせて補完し、道路パトロール業務の代替となることを確認することができた。また、車両の加速度センサーによるプローブデータを解析することで、上記データだけでは把握できない道路の凸凹や横滑りしやすい箇所を把握することができることがわかった。
 今回の検証に用いたデータは、それぞれ単体でも一定の判断に活用可能であることに加え、複数のデータを組み合わせることによってさらに有用性が高まりうることが示唆された。

 

図5 実証概要

(出典)NTTデータ作成

 

 今月は、なぜ交通環境情報ポータル「MD communet®」なのかと地方自治体での課題解決の事例について説明をしてきた。5月号では、交通環境情報の企業での利用と今後の取り組みについて説明をする。
 MD communet®は、様々な官民のニーズに応えるため、住民・データ・サービス・技術を繋ぐコミュニティのプラットフォームとして、これからも活動をしていく。交通環境情報ポータルサイト「MD communet®」とMD communet®データカタログサイトにアクセスしてください。

交通環境情報ポータル「MD communet®
https://info.adus-arch.com/

データカタログサイト
https://portal.adus-arch.com/

 

中島 紋衣(なかじま あやこ)
総合商社、メーカ勤務を経て現職。入社後は、ITS領域における将来ビジネス創出に向けて、交通環境情報ポータル「MD communet®」の立ち上げ~企画・運営、モビリティサービスのビジネス企画のほか、官公庁向けプロジェクトに従事。
mdcommunet@am.nttdata.co.jp