1.はじめに
1.1 空き家問題の社会的背景
日本の空き家問題は、少子高齢化や都市部への人口集中、相続未整理、住まい方の多様化など複数の要因が複雑に絡み合って進行する深刻な社会課題である。総務省の2023年住宅・土地統計調査によれば、全国の空き家数は約900万戸、空き家率は13.8%に達し、いずれも過去最高を更新した(図1)。特に、賃貸用・売却用・別荘等を除いた「その他の住宅」、すなわち長期にわたり人が居住せず、適切な管理がなされていない可能性が高い空き家は約385万戸に上り、全体の42.8%を占めるに至っている(図2)。
図1 日本の空き家数および空き家率の推移(1963年~2023年)
(出典)住宅・土地統計調査に基づき筆者作成
図2 日本の空き家の種類別割合の推移(1978年~2023年)
(出典)住宅・土地統計調査に基づき筆者作成
この種の空き家は、老朽化による倒壊や雑草・害虫被害、放火、景観・治安の悪化など地域への外部不経済を引き起こし、行政にとっても管理・除却にかかる財政的・人的コストを増大させる。2015年の「空家等対策の推進に関する特別措置法」、および2023年12月の改正法により新たに導入された「管理不全空家等」制度など、法整備は進展しているが、多くの対策はすでに問題化した空き家への「事後対応」にとどまっている。
空き家の発生を予防し、将来の社会的・財政的負荷を低減するためには、より早期の段階で問題を把握し、対策を講じる「予防的アプローチ」が不可欠である。にもかかわらず、現行の多くの行政施策は、空き家が現実に存在し、地域課題として可視化された段階で動き出す仕組みとなっており、根本的な対応には限界がある。
1.2 空き家の現在および将来の空間的分布を把握することの意義
空き家問題の解決には、「現在、どこに、どのような空き家があるか」といった現状把握に加え、「将来、どの地域で、どの程度空き家が発生するか」といった予測情報の整備が不可欠である。老朽住宅の除却やインフラ再編、立地適正化計画の策定など、中長期的な都市経営に資する施策を講じるには、限られた行政資源を「どこに」「いつ」「どう使うか」を判断するエビデンスが求められる。
加えて、空き家の発生要因は地域の社会経済状況や都市構造に左右されるため、同一自治体内でも都市中心部と周辺部、高台と低地などで実態が大きく異なる。そのため、都道府県や市区町村といった広域単位だけでなく、町丁目やメッシュといったミクロな空間単位での分析が必要である。
こうした課題に対し、筆者らはこれまで住宅・土地統計調査や国勢調査といった基幹統計に加え、住民基本台帳、水道使用量などの行政データ、車載カメラやドローンで取得した建物外観画像など多様なデータを活用し、空き家の現状および将来分布を高精度に推計する手法を開発してきた。これらは空間情報科学やAIなどの分野の先端的な技術を応用することで、自治体職員の勘や経験に依存せず、再現性と透明性を担保した定量的な意思決定支援を可能にする。
なお、実際に筆者らが複数の自治体において実施したヒアリング調査でも、「どの地域から優先的に空き家対策を実施すべきか」「今後、どのエリアで問題が深刻化するのか」といった問いに対する科学的根拠を求める声は非常に強い。このような背景から、空き家の現状と将来の分布をミクロな単位で可視化・推計する取り組みは、行政の戦略的意思決定を支える基盤として、今後さらに重要性を増すと考えられる。

