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2026.02.02

2026年2月号 トレンド解説 空き家対策を支える データ利活用の最前線 ―分析から施策へとつなぐ技術と実践―

東京都市大学
建築都市デザイン学部都市工学科 教授
秋山 祐樹

2.2 建物外観画像を活用した空き家分布推定
 2.1では、行政データを活用することで高精度な空き家分布推定の実証を紹介した。一方で、自治体内での行政データ活用の前例の乏しさから、こうしたデータの活用が難しい自治体も少なくない。これは、個人情報を含む行政データの「目的外使用」にあたる可能性への懸念などがあるためである。そのため、たとえ有用な行政データが存在していても、実務上の運用や法的・制度的なハードルにより活用が進みにくいケースも多い(2.1は自治体の個人情報保護審査会等を通して行政データ活用の許可が得られた自治体で実施している)。
 こうした課題に対応する代替手法として、著者らは建物外観画像とAIを組み合わせた空き家分布推定手法を開発してきた(武田ほか,2022; 宮田ほか, 2024)。車載型360度カメラで撮影した画像をもとに、空き家と非空き家のラベル付き画像を生成し、深層学習モデル(VGG-16)を構築することで、空き家と非空き家を分類する実証を和歌山県田辺市で実施したところ、分類精度は76.2%、特に非空き家の再現率は91.0%に達した。Grad-CAMを用いた特徴可視化では、窓の状態や外壁、植生など、人間が目視で判断する際と共通する視覚情報にモデルが着目していることが確認された(図5)。

 

図5 AIがどのような特徴に注目して空き家を判定したかを可視化した結果(Grad-CAMによる検証)

(出典)筆者作成

 

 また、ドローンで撮影した建物外観画像をVR空間に再構成し、参加者が仮想的に現地を歩きながら空き家か否かを判定する「VR空き家調査」の実装も進めている(秋山ほか,2024b)(図6)。VR空間上に表示された建物を、専門知識を持たない一般市民や学生が見て、建物ごとに空き家か否かを判定し、多数決により空き家か非空き家かを決定するという、「集合知」に基づく空き家分類の可能性を検証している。20名の被験者による約150件の建物評価の結果、約80%の精度で空き家・非空き家の判定が実現し、人による外観目視による現地調査や、2.1の機械学習モデルと同程度の精度を確保できる可能性が示された。

 

図6 ドローンを用いて撮影した画像から生成された仮想空間内で実施されるVR空き家調査の様子

(出典)筆者作成

 

 これら画像ベースの手法は、従来の目視調査に比べて①広域・網羅的なデータ取得、②人的コスト削減、③主観的判断の排除といった利点がある。特に対象範囲が広く、人的・財政的リソースが限られる自治体にとって有効な選択肢となる。ただし、空き家画像の教師データ不足による再現率の課題もあり、今後のデータ拡充が求められる。とはいえ、空き家対策の初動調査や重点地区の抽出などへの応用可能性は高く、今後は行政との連携を強化し、持続的な空き家管理の仕組みづくりを目指していく。

2.3 基幹統計を活用した将来の空き家分布推定
 空き家対策をより戦略的・先手的に進めるうえで、将来の空き家分布をあらかじめ把握することの重要性も高まっている。そこで筆者らは公的統計とAI技術を組み合わせることで、全国の空き家率の将来推計を可能とする「空き家予測マップ」の開発にも取り組んでいる(秋山ほか,2024;Mizutani et al., 2025)。
 この手法では、国勢調査や住宅・土地統計調査など、全国的に整備された基幹統計を活用し、市区町村ごとの人口構成や住宅の状況、世帯数等の指標をもとに、AIによる学習モデルを構築している。モデルには勾配ブースティング決定木の一種であるLightGBMを用い、過去の統計値を説明変数、「その他の住宅」に分類される空き家の数や割合を目的変数とする将来予測を可能としている。たとえば、2000年の統計を使って2018年の空き家率を目的変数としたモデルを訓練し、2020年のデータを入力することで、2038年の空き家率を予測することができる。これにより、将来の空き家の発生動向を可視化し、早期対応の必要な地域を明らかにすることが可能となった。
 本モデルは、これまで住宅・土地統計調査で非公表とされてきた人口1.5万人未満の小規模自治体にも外挿が可能であり、これまで把握が困難だった町村部の空白域をカバーできるようになった(図7)。予測性能や外挿精度も高く、全国の自治体に適用できる汎用的な予測基盤としての整備が進みつつある。

 

図7 日本全国の全市区町村における将来の空き家率の推定結果(上:2028年 下:2038年)

(出典)空き家予測マップの結果に基づき筆者作成

 

 また、この成果を社会実装に結びつけるため、「空き家予測マップ(https://www.akiyamap.jp/wp/)」としてWebGIS環境上で無償公開し、誰もが地図上で将来の空き家率を視覚的に確認できる環境を整備した(図8)。

 

図8 現在公開中の空き家予測マップ(https://www.akiyamap.jp/wp/

(出典)空き家予測マップ

 

 さらに、近年は市区町村単位の把握だけでなく、町丁字やメッシュ等のより詳細な地域単位での予測へのニーズも高まっている。実際に複数の自治体との意見交換を通じて、小地域単位での空き家リスクの事前把握が、地域計画や住宅施策の立案において極めて有用であるとの声が寄せられた。そこで、筆者らは小地域単位の予測モデルの開発を進めており、すでに一部自治体への提供を開始している。今後は、モデルの高精度化に加え、自治体職員が容易に扱える閲覧・提供環境の構築を図りつつ、行政実務との接続性を高めた実装モデルの構築を目指していく。

 

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