3.まとめ
本稿では、深刻化する空き家問題に対し、従来の「事後対応型」から「予防・先手型」への転換を支えるデータ駆動型のアプローチを3つ紹介した。これらの取り組みにより、建物単位・小地域単位で空き家の現状と将来分布を高精度に把握・予測する技術基盤の構築が実現しつつある。
これらの取り組みに共通する点は、行政データやオープンデータ、画像データを組み合わせ、再現性と客観性のある定量分析によって、自治体職員の勘や経験に依存しないEBPM的な意思決定を支援している点である。また、「空き家予測マップ」のWeb公開や、VR技術を用いた市民参加型の空き家調査など、社会実装を意識した技術展開も進めており、業務負担の軽減や住民との協働による新たな対応の可能性が広がりつつある。
今後は、こうしたデータ利活用を単なる分析にとどめず、立地適正化計画や住宅政策、土地利用規制といった中長期的な都市経営につなげていく必要がある。そのためには、自治体内における部局横断的な連携体制の構築と、空き家対策を起点とした「地域経営の高度化」への視点が重要となる。たとえば、将来の空き家発生リスクに応じたインフラ再編や「空き家バンク」の戦略的運用、移住・定住支援と連動する地域住宅ビジョンの策定など、実践的な施策展開が期待される。そこで、こうした動きを具体化する取り組みとして、著者らは現在、広島県と連携し、データに基づいた空き家の現況把握と将来予測、さらにその結果に基づく具体的アクションの検討に着手しており(広島県,2025)、データに基づく空き家対策の新たな実践モデルの構築を目指している。
空き家問題は、単なる住宅政策にとどまらず、人口減少社会における地域の持続性を左右する重要課題である。その解決に向けては、データ分析による現状把握や将来予測にとどまらず、得られた知見を具体的な施策に結びつけ、現場で実際に機能するかたちで活用していくことが重要である。そのためには、産官学民の連携のもと、分析結果を実効性ある施策へと落とし込む仕組みを構築し、空き家対策を通じた新たな地域価値の創出を目指す取り組みが求められる。筆者らも、これまでの研究成果や自治体との協働で得た知見を活かし、今後も実務と施策をつなぐ橋渡し役として、空き家対策の高度化と地域社会への実装に貢献していきたいと考えている。
【参考文献】
1. 秋山祐樹, 冨田健人, 水谷昂太郎, 馬塲弘樹 (2024a) 自治体保有データと機械学習を活用した非空き家住宅の特定による空き家
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2. 秋山祐樹, 飯塚浩太郎, 山内啓之, 杉田暁 (2024b) ドローンで
撮影した画像から生成したバーチャルリアリティ(VR)空間を
用いた空き家現地調査の効率化の検討,第33回地理情報システム学会講演論文集, P2-20.
3. 秋山祐樹 (2025) AIを活用した日本における現在および将来の
空き家分布予測手法の開発とデータ駆動型空き家対策の可能性, 市街地再開発, 658(2025年2月号), 60-67.
4. 武田洸明, 秋山祐樹 (2022) 建物外観画像と機械学習を用いた
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5. 広島県(2025). DoboXを活用した推定空き家の予測モデル構築・検証業務に係る公募型プロポーザルの結果について, <https://www.pref.hiroshima.lg.jp/site/nyusatsukeiyaku/suiteiakiya.html>
6. 宮田涼, 山野寺瞭太, 秋山祐樹 (2024) 建物外観画像と機械学習
を用いた建物単位の空き家判定手法の開発,第33回地理情報
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7. Mizutani, K., Akiyama. Y., and Baba, H. (2025). Estimation of Future Vacancy Rates Throughout Japan Using Government Statistics, Urban and Regional Planning Review, 12, 25-43.
8. Sayuda,K., Hong, E., Akiyama, Y., Baba, H., Tokudomi, T. and Akatani, T. (2022). Accuracy of vacant housing detection models: An empirical evaluation using municipal and national census datasets, Transactions in GIS, 26(7), 3003-3027.

秋山 祐樹(あきやま ゆうき)
東京都市大学建築都市デザイン学部都市工学科 教授。専門は空間情報科学、都市計画、都市地理学、データサイエンス。東京大学大学院にて博士(環境学)取得後、国土交通省や東京大学等での研究・教育職を経て現職。一橋大学社会科学高等研究院特任教授、ニューヨーク大学上海校客員教授、(株)都市空間総合研究所取締役CTOも務め、行政・民間と連携したデータ駆動型の都市課題解決に取り組んでいる。