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2019.06.10

2019年06月号トピックス 基礎自治体におけるAI・RPA活用の可能性と課題~(公財)東京市町村自治調査会による調査研究の成果を踏まえて~

一般社団法人 行政情報システム研究所
調査普及部長/主席研究員 狩野 英司

1.はじめに

行政機関や自治体におけるAI(人工知能)・RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)への関心が高まっている。昨年、某自治体でRPAの実証実験の成果を他の自治体向けに紹介するイベントがあったが、公に告知などしていないにも関わらず、北海道から沖縄に至るまで、文字通り全国津々浦々から、多数の自治体が1つの会議室に集まっていた。視察やヒアリングの要望が多すぎて個々には対応し切れないので、いっときにまとめて対応しているのである。AIについても、これまでに実証実験を行った自治体の数は100を超えており、本格導入へと進む自治体も増えつつある。自治体だけでなく、国の中央官庁等でも、非公式の実証実験等も含めれば相当数の取組が行われている。

他方で、中小規模の基礎自治体でこうした動きに反応を示しているところは少ない。AIRPAは、総務省の「スマート自治体研究会(※1)」などでも今後の自治体の課題解決にとって有効なツールになり得ると目されているが、最も切実な課題を抱えているはずのこうした自治体の動きが最も鈍い。その理由を聞くと、気にはなっているが、そもそも検討するための人手がなく、導入するにも予算がない、といった答えが返ってくる。実際には、現在導入が進められつつあるAIサービス等の敷居は難易度、費用負担ともに年々下がりつつあるのだが、多くの自治体では検討の俎上に上ることもない。こうした状況に課題認識を抱いていたところ、(公財)東京市町村自治調査会(以下「調査会」)の標題の調査研究事業に、共同調査先として参画する機会をいただいた(図1)(※2

図1 2019年3月「基礎自治体におけるAI・ RPA活用に関する調査研究」

(出典)(公財)東京市町村自治調査会

調査会とは、東京都内の自治体のうち23区を除く、多摩・島しょ地域の39の自治体の総意によって設立されたシンクタンクであり、調査研究の成果は報告書として同地域の自治体向けに頒布されている。しかしながら、今回取りまとめた調査研究報告書(以下「報告書」)には、多摩・島しょ地域のみならず、他の地域の自治体、ひいては国の行政機関にとっても一読する価値がある内容が含まれていると考える。もともと多摩・島しょ地域は、人口数十万人の都市(八王子市や町田市など)から、人口数万人の近郊(国立市や稲城市など)、人口数千人の山間部(奥多摩町や檜原村など)、人口数百人の島しょ(御蔵島村や青ヶ島村など)に至るまで、いわば日本の縮図といってよいほど多様な自治体で構成されており、ICTやデータの利活用の状況も全国の分布との間でほとんど差異は見られないからである(※3)。そこで、本稿では、同報告書について、多摩・島しょ地域の自治体以外の読者にも広く知っていただくためポイントを絞って解説を行いたい。なお、本稿の内容はあくまで筆者個人の見解であり、調査会の見解とは関係がない。

本調査研究では、表1に示す手法で、行政の現場でのAIRPA活用の検討に当たって気づきとなるような工夫やノウハウを抽出・整理している。

表1 本調査研究の手法と実施結果


(出典)報告書をもとに著者作成

(※1)正式名称は、総務省、地方自治体における業務プロセス・システムの標準化及びAI・ロボティクスの活用に関する研究会

(※2http://www.tama-100.or.jp/contents_detail.php?co=new&frmId=815

(※3)統計情報やアンケートデータ等をもとに、全国の自治体と多摩・島しょ地域自治体の間でのICTやデータの利活用動向などの差異を様々な角度から分析してみたが、ほとんど有意な差異は見られなかった。多摩・島しょ地域自治体は、財政の健全化判断比率や職員の情報研修の充実度などが、同規模自治体と比べてやや高くなる傾向が見られたが、自治体間での規模の格差による影響の大きさに比べれば論点となるほどのものではなかった。

2.そもそもAI・RPAとは何か

はじめにAIとは何かを整理しておく。そもそもAIの定義が曖昧なことが、AIの分かりにくさの根本的な原因の一つとなっているからである。特に以下の2点を明確にしておくことが重要と考える。

(1)機械学習型 AIとルールベース型 AI

AIの理解にあたり最も大きな混乱の原因となっているのは、どの範囲の技術をもってAIと呼ぶか、である。現在のいわゆる「第三次AIブーム」の中心となっているのは機械学習型AIである。これはデータそのものに内在するパターンから予測や識別を行うための判断基準(いわゆる「学習済みモデル」)を導出し利用する技術であり、話題の深層学習(ディープラーニング)もその一類型である。他方でAIには、機械学習以外にも様々な系統の技術がある。その中でも、特にAIに含めるべきかどうかで見解が分かれるのが、ルールベース型と呼ばれる技術である(※4)。同技術では、判断基準をデータから導出するのではなく、人間が設定する。ただし、通常のプログラムのように単純な分岐処理ではなく、質問を重ねながら利用者の意図を絞り込んでいくことで、求める情報やサービスに案内するといった複雑な方法で判断へと導く。最近、自治体でも導入が相次いでいる、いわゆる「チャットボット」もその1つである。利用者からすると、あたかも知性があるかのように見えるが、実際には人間がすべてのシナリオ=ルールを想定し、作り込んでいる。こうした仕組みをAIと呼ぶか否かで見解が分かれるのである。

しかし、こと行政分野に関してはこの論点は既に決着が付いている。201712月に公布・施行された官民データ活用推進基本法では AIを次のように機械学習型に限らず広く定義しているからである。つまり、少なくとも行政部内ではルールベース型もAIの一類型と捉えるべきである。

 

[官民データ活用推進基本法第2条第2項]

この法律において「人工知能関連技術」とは、人工的な方法による学習、推論、判断等の知的な機能の実現及び人工的な方法により実現した当該機能の活用に関する技術をいう。 

(2)AIとRPA

いま一つ混乱の原因となっているのが AIRPAの関係である。RPAはしばしばAIの一種であるかのように取り扱われるが、RPAの基本原理は、人間の端末上での操作をそのままコピー・再現することで自動化する仕組みである。AIの機能の本質である“判断”は必要条件ではない。両者は以下のように互いに異質の目的を持つ。

・AI=人間の「判断」を代替ないし強化する

・RPA=人間の「作業」を代替する

なお、ここでいうAIによる判断とは、人間が行うような意思決定ではなく、表2に示すような情報処理を指す。

表2 行政で期待されるAIの役割

 

1. 分類・情報抽出

2. 評価・判定

3. 異常/不正検知

4. 予測・シミュレーション

5. マッチング

6. レコメンド

7. コンテンツ・デザイン生成

(出典)(一社)行政情報システム研究所,人工知能技術の行政における活用に関する調査研究

 このように整理した上で、例えばAI-OCRAI機能付き光学読取)などのAIの機能をRPAに付加すると捉えるべきである。以上の(1)と(2)の関係を整理すると図2のような全体像となる。

図2 AI・RPAの位置づけ

 

(出典)著者作成

(※4)この中で特に、医療等の専門知識のデータベースから知識を引き出せるようにした仕組をエキスパートシステムといい、20世紀末の第二次AIブームの中心となっていた。 

3.AI・RPAはどんな用途に使われているのか

以上の整理結果を踏まえ、次にAIの具体的な用途を明らかにする。先駆的にAIRPAの活用に取り組んでいる自治体での事例を用途別に分類・整理したのが表3である。

表3 自治体でのAI・RPA活用事例の類型

 

技術用途
音声認識音声データをテキストデータに変換
要約テキストデータを要約
自動翻訳ホームページに掲載する文書を外国語に翻訳
チャットボット住民等から問合せに自動で回答
インタビューボット住民等と対話形式でアンケートを自動で実施
機体制御ドローンの監視と自動制御
データ解析事件・事故の予測、人流や交通量の予測、災害発生の検知・誘導活動支援、河川の水位の予測
最適解表示住民や事業者からの申請に対する審査を支援、要介護者のケアプランの作成支援、戸籍業務などの窓口回答を支援
マッチング保育所入園者の割り振り、特定健診のタイプ別受診勧奨通知、結婚マッチング、移住希望者への候補地提示
画像分析離岸流の発生を予測、認知症のある帰宅困難者の捜索、道路の損傷の有無の判断、交通量の予測
AI-OCR手書き文字をテキストデータに変換
RPA端末上の操作をそのままコピーして再現・自動化

(出典)報告書p.42をもとに著者作成

AIは、これらの用途において、今まで人間固有の能力と考えられてきた「判断」を、自動化(人間が行っていた定型作業を代替)または高度化(人間にはできなかった業務を実現)する。見落とされがちなのが、後者の高度化の役割である。AI=自動化と限定的に捉えられがちだが、それではAIの可能性の多くを見落としてしまう。これに対し、RPAにできることは本質的には自動化のみだが、今後、AIとの一体化が進むと想定される。実際に一部の民間企業ではAIRPAを統合した業務フローの開発・実装が進められている。

なお、自動化と高度化は必ずしも択一的ではない。例えば、いったん判断の高度化を実現し、判断基準を確立できれば、それを情報システムに組み込むことで自動化をも実現することが可能である。

ここまで理解いただければ、AIの活用方法を理解するための最低限の知識は得られたと言ってよい。あとはこの枠組みを手掛かりにして事例に目を通せば、AIRPAの導入がいかなるものかイメージアップいただけると思う。同報告書の資料編では、ヒアリング結果をもとに代表的な事例を詳細かつ平易に紹介しているので参考にされたい。

 

 4.自治体はAI・RPAをどう捉えているのか

次に、AIRPAは基礎自治体でどのように捉えられているのかを検討する。39自治体へのアンケート調査の結果、以下のような傾向が明らかになった。

・自治体の80%AIRPAの活用に関心を有している。しかし、実際に検討に着手している自治体は18%にとどまる(図3)。

・自動化による業務の生産性の向上に79%が期待している一方で、住民サービスの高度化への期待は21%にとどまる(同図)。

・AIRPAの取組を進めるためには費用対効果の明確化が求められる(74%

図3 AI・RPAの取組状況

 

(出典)報告書p.96より引用

以上から、多くの自治体は、変化の必要性は感じていても、目に見える証拠を突き付けられない限り動こうとしないスタンスであると推定できる。こうした中で当面、導入可能性が見込めるのは、目先の必要を満たしており、かつ費用対効果を明確かつ定量的に示しやすい業務の効率化に資するAIRPAであろう。実際に、自治体が最も高い関心を寄せているのは音声テキスト化(74%→1位)とRPA59%→2位)であり、いずれも「自動化」によって「業務の生産性」を向上することを目指すものである。他方で、今後は、「住民サービスの向上」にもっと目を向けていく必要があり、先行自治体ではこうした用途での活用に着手している。ではこれらの自治体はどのようにしてAIRPA活用へと踏み出しているのだろうか。

先行的にAIRPA導入に取り組む9自治体14事例(以下「先行自治体」)に対し実地にヒアリングを行った結果、多くの事例で以下に示すような取組の特徴が見られた。

トップによる方針提示:首長がAI活用を推進する方針を示している

現場職員の問題意識:現場の職員が現状の業務に対し鋭い問題意識を有している(例:ベテラン職員の退職の影響)

スモールスタート:リスクを取ってスモールスタートを切ろうとする職員がいる

外部との連携:外部との連携に躊躇なく取り組もうとする気風がある

こうした条件は運に恵まれて成り立つこともあるが、基本的には組織として取り組まなければ安定的に維持できない。

また、ここ12年の新たな動向として、全庁を挙げて組織的にAIRPA導入に向けた取組を進める自治体が現れ始めている。司令塔となる横断的部門がAIRPA活用のテーマを募集し、予算措置や職員研修等を通じて取組を支援していくのである。これは特に、同一の技術を横展開しやすいRPAにおいて有効であり、多くの事例でこうしたアプローチが講じられている。RPAのこうした一元的な取組には、アイデア出しや現場支援という点以外にも、ソフトウェア管理の効率性(例:管理しきれないと“野良ロボット”が発生する)、ボリュームディスカウント、セキュリティ、個人情報管理等の観点からも強い動機が存在する。 

5.自治体はAI・RPAの活用にどう取り組むべきか

では、自治体は今後、どのようにAIRPAの活用に取り組むべきなのだろうか。基本的には、以下の3点を認識して対応を判断していくことが重要と考える。

第一に、AIRPAの活用はあくまで手段であって目的ではないということである。先行自治体の事例においても、まず解決すべき差し迫った課題が存在しており、その解決手段の一つとして、AIRPAに着目している。裏を返せば、AIRPAありきではない。各自治体で取組の契機となっているのは、例えば、以下に示すような課題である。

業務負荷の軽減:繁忙期の業務負荷の集中を軽減したい

働き方改革への対応:働き方改革を実践するための手段が必要

知識・ノウハウの継承:ベテラン職員の退職等による知識・ノウハウの散逸を防ぎたい

社会的弱者の支援:過疎化・高齢化に対応した行政サービスの見直し・拡充が必要

情報の伝達:観光客や外国人などに届けたい情報がある

また、全庁的な電子化といったトップダウンによる一律の課題設定ではなく、現場の困りごとに着目した、ボトムアップでの課題設定から出発している点も重要である。なお、この観点から、今後は利用者視点でサービスを再設計するデザイン思考も重要になってくるだろう。

第二に、AIRPAの実証実験等に取り組む当初の段階から、ある程度、本格導入後に待ち受ける以下のような課題の想定を立てておく必要がある。

パーソナルデータの取扱い:匿名加工処理を始めとする個人情報保護条例に基づく手順を踏むことはもちろん、AIの判断基準の作成にあたり性別など個人の属性等による判断のバイアスがかからないよう注意することも今後は必要になってくるだろう。

ネットワークセキュリティの制約:民間のAIサービスの多くはクラウドの利用が前提となっているが、現在の自治体のネットワークでは使用に大きな制約がかかる。LGWAN内で完結させる場合も、帯域確保も含めた入念な検討が必要。

データの更新・拡充の必要:AIが現実に即した判断をするためにはデータの継続的な更新・拡充が必要となる。データを継続的に入手できることを確認するとともに、データ整備のための運用負荷を想定することも必要。

RPA導入前の業務改革の必要性:そもそも業務やシステムが最適化されていればRPA自体が不要であることも多い。必ず事前に業務改革を徹底すべきであり、RPAの導入自体が不要となることがベストである。

第三に、AIRPAの導入は、今後とも不可逆的・必然的な流れとして続くと見込まれる。AIRPAの導入は、我が国のみならず世界中の政府・自治体が取組を進めている。この事実は、AIRPAの導入が一過性のブームで終わることはないであろうことを示唆している。AIRPAはいまだ十分な成果を上げているとは言い難く、導入の効果に懐疑的な見方も根強い。しかし、パソコンやインターネットが導入され始めた頃も同様であった。その後、時間をかけて導入が進められた結果、職員の業務生産性は当時とは比べ物にならない程向上し、なくてはならないツールとなったのである。 

6.おわりに

現状の業務・サービスは、AIRPAがなくてもなんとか回っている。また、近隣の自治体との横並びを見ながら動向を決めていれば責任を問われることもないだろう。しかし、問われるべきは、今後、職員数や予算の減少、少子高齢化や過疎化に伴う課題の多様化・複雑化が見込まれる中で、課題解決の手段として、AIRPAを選択肢から外してよいのか、それで住民への責任を果たしていると言い切れるのか、ということであろう。

AIRPAなどの新しい技術を受容し、活用しようとするための組織づくりや人づくりは一朝一夕に実現できるものではない。他方で、いったんそうした組織風土や体制ができれば、今後、別の新たな変化への対応が必要となった場合でも柔軟に対応できるようになるだろう。そうであるならば、変革への着手は早い方がよい。AIRPAの導入に向けた取組は、デジタル時代に向かう自治体の変化への対応力を示す試金石になり得るのである。