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2021.02.10

2021年2月号連載企画 行政におけるウェルビーイングの設計 No.9 多様な他者の痛みと出会い続けること

早稲田大学 准教授
ドミニク・チェン

前回の記事では、コロナ禍のリモートワーク生活のなかで希薄化する社会的存在感(他者と確かに接していると感じられる度合い)について取り上げ、デジタルテクノロジーを介してどのように互いの気配や共在感覚を感じ取れるようになるかということについて述べました。わたしは現在でも研究の仲間や大学の学生たちとリモートでも共に在る感覚を得られる方法をあれこれと試行錯誤し続けています。それと同時に、具体的なコミュニケーションの場面以外においても、他者の存在を感知する能力を養うことが大事なのではないかと考えています。
そのように考えるのは、自分自身がコロナ禍の生活の中で多くのオンラインミーティングによって疲弊した時に、文学作品を読むことで回復することができたと実感してきたからです。わたしは通常は軽度の吃音を持っていますが、Zoomなどのビデオ会議ではどもりが悪化し、普段よりもうまく話せないことによって自信を喪失したり、自尊心が傷つけられることが増えました。ビデオ会議では数十から数百ミリ秒の音声と映像の遅延が発生し、対面時のように同期的に話したり、あいづちやうなずきをリアルタイムに応酬できないので、そのような非言語的な手がかりに依存して会話を成立させる吃音当事者にとってはなかなかうまく話すことができないのです。なので、時おり対面で親しい友人と気兼ねなく思い通りに話せると、大きな安心を感じますが、コロナ禍のなかではそのような機会は頻繁には作れません。リモートワークを軸にした生活が始まってからは、読書に費やす時間が多くなりましたが、特に小説のようなフィクション作品を読むことでディスコミュニケーションによる疲労が軽減される気がしたのです。