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2022.12.10

2022年12月号 連載企画 諸外国・地域における政策デザインの実践 no.5 政府機関の協働を調整し、市民に質の高いサービスを提供する|シンガポール首相府イノベーションラボ

東京大学大学院工学系研究科
都市工学専攻
井上 拓央

 公的機関による政策や公共サービスの設計・実装のプロセスを変革するため、諸外国・地域の政府・行政機関ではデザイン分野から着想を得た様々なアプローチを導入している。本邦でも、政府が「デジタル社会の実現に向けた重点計画」に基づくサービスデザインの推進を掲げるなど、政策とデザインの関係に対する関心が高まっている。政策デザインにおけるデザインアプローチとは何か、その導入によって公共部門の変革がどのように進んでいるのか、そして今後の展望はどのように描かれているのかを明らかにし、日本での展開に向けた示唆を得ることを目的として、各国・地域の政策デザイン組織へのインタビュー調査を実施した。本連載では、毎回1つの事例を取り上げて、その内容についてご紹介する。

1.はじめに

 第5回は、シンガポール首相府の公共サービス部門に設置されているイノベーションラボ(Innovation Lab at Public Service Division)でプリンシパル・デザインリードを務めるテオ・リンヨウ(Linyou Teo)氏に対して実施したインタビュー内容をご紹介する。イノベーションラボは、2012年に非公式のデザイン思考ユニットTHE(The Human Experience)Labとして誕生し、公共部門の変革を後押しする役割を持つ機関として2017年に現在の名前で正式に設置された(Public Service Division, 2019)。2019年には、公務員や政策立案者の国際ネットワークであるApoliticalの主催による、公務員の職務において将来的に必要となるスキルの獲得を主導している機関・プログラム等を表彰する「Workforce of the Future」賞を受賞した(Apolitical, 2019)。テオ氏は、民間企業でインダストリアルデザイナーやUXデザイナー等として勤務した後、2019年5月にシニアデザインリードとしてイノベーションラボに参画し、2021年11月から現職に就いた。