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2022.06.10

2022年6月号連載企画 諸外国における政策デザインの実践 No.2 多様な主体を巻き込み、変化に適応する行政へ|スウェーデン・Vinnova

東京大学大学院工学系研究科
都市工学専攻
井上 拓央

 公的機関による政策や公共サービスの設計・実装のプロセスを変革するため、諸外国・地域の政府・行政機関ではデザイン分野から着想を得た様々なアプローチを導入している。本邦でも、政府が「デジタル・ガバメント実行計画」に基づくサービスデザインの推進を掲げるなど、政策とデザインの関係に対する関心が高まっている。政策デザインにおけるデザインアプローチとは何か、その導入によって公共部門の変革がどのように進んでいるのか、そして今後の展望はどのように描かれているのかを明らかにし、日本での展開に向けた示唆を得ることを目的として、各国・地域の政策デザイン組織へのインタビュー調査を実施した。本連載では、毎回1つの事例を取り上げて、その内容についてご紹介する。

 

1.はじめに

 第2回となる今回は、スウェーデン政府の企業・イノベーション省に設置されている政策デザイン組織Vinnovaで戦略デザインのディレクターを務めるダン・ヒル(Dan Hill)氏へのインタビュー内容をご紹介する。Vinnovaは2001年に設立され、技術・交通・通信・労働の分野におけるスウェーデンのイノベーションシステムの開発と、ニーズに基づいた研究への資金提供を通じた持続可能な成長の促進を使命とする機関である(Government Offices of Sweden)。組織は200人を超える職員からなり、ストックホルムの本部に加えてブリュッセル、シリコンバレー、テルアビブにも国外拠点を持つ(Vinnova, “Our Mission”)。ヒル氏は、英国放送協会(BBC)のインタラクティブ技術とデザインの責任者、技術コンサルティング企業Arupのディレクター、ヘルシンキのイノベーション財団Sitraの戦略デザイン部門の責任者などを歴任し、2019年からVinnovaで現職に就いた人物である。