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2021.08.13

2021年8月号 トピックス What is Service Design?サービスデザインとは何か

Snook 代表
サラ・ドラムンド
訳/増田 睦子(一般社団法人行政情報システム研究所)

ユーザー中心デザイン(User Centered Design、以後UCD)は電子政府ランキング上位国において、サービス設計における1つの大きな指針となっている。「ユーザーが求める真のニーズに沿ったサービスを提供する」という一見至極当たり前のようなことであるが、行政府では欠落しがちな視点であるのも確かである。

英国で地方自治体向けのサービスデザイン導入に尽力しているサラ・ドラムンド氏は、彼女が行政のプロジェクトと協働し変革を支えた多くの経験から「サービスデザインがうまく機能しない理由」を分析している。その内容を自身のWebサイトで“Full Stack Service Design”というタイトルで連載しているのだが、なかでも本記事は、サービスデザインを理解しない人々に向けてぜひ共有すべき内容と考えた。

ドラムンド氏と訳者は数年前にサービスデザインの勉強会で知り合い、交流を重ねてきた。「サービスデザインの重要性を日本の行政に関わる人にも共有したい。翻訳させてほしい。」と彼女に頼んだところ快諾をもらった次第である。

なお、翻訳にあたってドラムンド氏と相談の上、一部日本語で意味の補足を行っている。原著直訳でない部分もあることをご了承いただきたい。

◆ ◇ ◆

1.はじめに

【サービスデザインとは何か?】
この問いを考えるとき、私たちはまず、サービスとは何かということを認識することから始めなければなりません。

一般的に説明するならば、「サービスは、私たちが何かをするのを助け、私たち(人)に何らかの価値を提供し、私たちが必要としている、あるいはしたいと思っている結果に到達するのを助けるものです。」と言えます。

もう少し細かく考えてみましょう。例えば温かい飲み物が飲みたいとき、私は温かい飲み物を作ってくれるカフェに行くことがあります。外出先にいるとエスプレッソマシンやコーヒー豆を持っていないので、温かい飲み物を提供してくれるサービスを利用するという本当に単純なサービスの例です。同じく、どこかに外出したいときであれば、タクシーのような輸送サービスを利用するかもしれません。私は車を持っていませんし、運転免許も持っていないので、サービスを利用して運転を代行してもらいます。体調が悪く、治したいと思っていたら、病院などの医療サービスを利用します。治すための知識や技術、設備を自分では持ち合わせていないので、医師や病院が提供するサービスを利用して助けてもらいます。

サービスとは、私たちが何か目的を達成するのを手助けしてくれるものだと言えます。また、製品や結果の核心部分が同じであっても、サービスは異なる形で価値を提供してくれます。それを具体的に説明したいと思います。例えば、次のような場合を考えてみましょう。
―ある街で一泊して睡眠をとりたい。
睡眠をとるという結果を得るためには、さまざまなサービスがあります。
● ホステルを利用する
● テントを借りる
● 誰かの家の部屋やソファを借りる
● 5つ星のリゾートホテルに泊まる
● 家のレンタルサービスを利用する
● 宿泊施設に直接予約する
● 第三者の宿泊施設予約サービスを利用する
最終的には、これらすべてのサービスが「ある街で一泊して睡眠をとりたい」という目標達成に役立ちます。しかし、私の個人的な希望、ニーズ、予算、好み、そして置かれている状況に応じて異なる方法を選ぶことができます。これらすべての選択肢のユーザーエクスペリエンスは非常に異なる体験になる可能性がありますが、一方で設計可能なものだと言えます。

2.ユーザーエクスペリエンスとサービスデザインの関係性

すべてのサービスには「ユーザーエクスペリエンス」があります。これは、「利用者が最終的な目標を達成するためのエンドツーエンドの総合的な体験」を指します。私たちは皆、パーソナリティも生活環境も違うので、誰かの体験を完璧にデザインすることはできません。なぜなら、サービスを利用している状況や、その日に受けたサービスのレベル、個々のニーズや自分自身に基づいて、サービスへの反応は異なるからです。

しかし一方で、私たちは、サービスがどのように機能し、どのように成果やユーザーのニーズを満たすかを意識的にデザインすることはできます。ステップやその順番、アクセスのしやすさ、見た目や使い勝手、コンテンツや使い方の説明までさまざまなタッチポイントをよりよく設計することは可能です。

例えば、メンタルヘルスサービスを例に挙げてみましょう。ユーザーはセラピーの予約をするためにウェブサイトを利用しなくてはならないとします。製品のインタラクションデザイン(この場合はウェブサイトと予約機能)は、「サービスを利用するユーザーが簡単に予約をできるようにする」という点に集約されるでしょう。(図1)

図1 ユーザーを歓迎するようにデザインされているとは思えない地域の医療機関での受付風景

(出典)著者提供

2つのメンタルヘルスサービスの予約システムを想像してみましょう。1つ目のサイトは視覚的な印象からオープンさが感じられ、魅力的で予約も柔軟に対応してくれそうなもの。もう一方は無機質で事務的な印象で、言葉も難しく、予約を取るのが難しいという印象を与えてしまうもの。どちらも同じ製品(サービス)を提供し、同じ目標を達成しようとしていますが、ユーザーエクスペリエンスは異なるものになるかもしれません。プロバイダが設計しているユーザーエクスペリエンスは「メンタルヘルス」という共通するサービスでありながら、全く異なる体験を提供するかもしれません。もし私がサービスを選ぶとしたら、どちらを選ぶかは明白だと思います。それはデザインのおかげだと言えるでしょう。デザインは、どうすればニーズに応えられるかを意識して決定される場合があるのです。

良い印象を受けるサービスでは、予約時の不安を軽減したり、親切なコンテンツでユーザーを安心させたり、視覚障害のある人がスクリーンリーダーを使っている場合にアクセスできるようにしたり、つまり、ユーザーの体験の向上を考えてデザインされているものです。しかし、もう一方は、ユーザーに前出のサービスと同じゴールに到達してほしいと願っているにもかかわらず、ユーザーが複数の予約をするのを阻止しようとしたり、過去にキャンセルがあって悔しい思いをしたので、ユーザーが確実に来てくれるように攻撃的な言葉を使ったりして、無意識のうちに予約手続きを難しくしてしまっているかもしれません。

人々が製品に対して感じるユーザーエクスペリエンスというものは、意識的なものと無意識的なものの双方のデザイン上の決定から生まれます。サービスを選択できる場合、組織はそのサービスがお客様のために機能するように努力する必要があります。なぜなら、その組織の収益性はユーザーの獲得に結び付いているからです。他に選択肢がない場合、例えば政府のサービスのような場合、サービスデザインは、規制を満たし、市民のために努力し、サービス提供のコストを削減するために重要になります。しかし、先に挙げたメンタルヘルスの例では、ユーザーの体験は、単に予約をするだけではなく、もっと幅広いものです。サービスを見つけて選択することから始まり、セラピーを受け、目標を立て、自立し、再発を支援することまでが含まれます。

3.サービスデザインとは、サービスを設計すること

ここで、サービスデザインの出番です。

簡単に言えば、サービスデザインとは、サービスを設計することです。

優れたユーザージャーニーマップは、ユーザーと組織が目指す成果を可視化し、大切なポイントを確認することができます。サービスデザインにおいては、時間をかけて行われるエンドツーエンドの体験の全体的なユーザーエクスペリエンスの成果を確保することが必要になってきます。先ほどのメンタルヘルスサービスの場合は、人が不調から回復したり、元気になったり、患者のユーザージャーニーの中で「支えられている」と感じたりすることが重要な体験になってくるのです。(図2)

図2 簡易版ユーザージャーニーマップ。ユーザーエクスペリエンス、ステップ、ユーザーとのインタラクション、そして組織がどのようにこれを提供するかをさまざまなレベルで強調するために使用される一般的な手法。

(出典)著者提供

つまり、ユーザーが受診予約をしてからセラピーを受けるまでのすべてのインタラクションが、全体的な目標を達成するために役立つものだと考えることができるのです。サービスをデザインするということは、サービスを実現するために必要なすべてのことが連携し、オンとオフの両方のチャネルでユーザーのニーズを満たすことだと言えます。

ユーザーのニーズを満たすというサービスデザインの原則は、必ずしも正しいアプローチではない場合もあります。個人のニーズや好みに反して、個人の安全のために設計する必要があるサービス(例えば児童保護のような緊急性の高いもの)や、より広い社会的・環境的ニーズを考慮する必要があるサービスも存在するからです。

良いサービスデザインとは、単に何かをするためのプロセスに焦点を当てるのではなく、その人にとっての全体的な目標を達成する支援や、サービスの提供内容に焦点を当てるべきなのです。旅行に行きたい、車を運転できるようになりたい、家を買いたい、ビジネスを始めたい、これらの目標を達成するためには、ユーザーはさまざまな代理店や部門、組織とやり取りをする必要があり、その結果、経験が断片的になり、困難や不満を感じることがあります。

プロトタイピングや視覚的な素材を使った作業など、一般的なデザインの手法を取り入れた「方法」もありますが、ここでは「What」に焦点を当てていきましょう。

4.サービスデザインはチームスポーツである

組織がどのように設計されているかは、サービスの形やエンドユーザーの体験に影響を与えます。多くの場合、完了しなければならないさまざまなタスクやステップは、異なる組織や部門によって別々に所有されており、これがユーザーの体験へネガティブに反映されることがあります。

したがって、サービスデザインには、ユーザーが見たり操作したりするもの以外にもレイヤーがあり、ユーザーが見ているものを結合し、提供する組織がどのように連携するかにその層が関係していることを認識しなければなりません。

サービスデザインはチームスポーツです。サービスデザイナーは、サービスを構成するさまざまな層をナビゲートし、組織やチームが成果を向上するように連携させることに長けていなければなりません。一方で組織やシステムのどの部分にいようとも、サービスデザイナー以外の全員もサービスをデザインする役割を担っていることを認識する必要があります。私たちが行うすべての意思決定は、ユーザーエクスペリエンスや、ニーズと成果を満たすために影響を与える、より広範なシステム設計の一部であるため、組織の各層が全体的なサービスとユーザーエクスペリエンスにどのように影響するかを認識することが重要です。
各層は以下の通りです。

(1)サービス
ユーザーが目にするもの、操作するもの
ユーザーにとっての価値を実現するための、ユーザーエクスペリエンスとビジネスプロセス例えば、銀行口座からお金を引き出そうとする場合、ウェブサイト、アプリ、電話などを利用し、本人であることを確認するためのプロセスを経る。

(2)インフラストラクチャー
サービスを提供するために必要なもの
インフラは、サービスの構築方法に影響を与えます。なぜなら、サービスは、それを提供し、長期的に維持するために使用される技術に依存しているからです。
例えば、ユーザーの記録を一括して処理するシステムを構築した場合、システムが夜間バッチ等で新規ユーザーを処理する必要があると、そのサービスは日中にしか利用できないことになってしまいます。

(3)組織について
意思決定のための組織のあり方
組織は、サービスの構築方法に影響を与えます。組織の構造によって、意思決定が可能になったり不可能になったりするからです。
例えば、ある組織が、別々の予算を持つ小さな独立したビジネスユニットで構成されており、共同作業ができない場合、その組織では、異なるビジネスエリアを横断してユーザーのニーズを満たすサービスを提供する際に不均衡が生じ、目的達成が困難になります。

(4)意図
なぜサービスを提供するのかという理由
組織として達成したいことがサービスの作成を後押しするため、意図はサービスの構築方法に影響を与えます。しかし、その意図を忘れてしまったり、現実の世界でどのように実現するかを考えていなかったりすることがよくあります。
例えば、リスクを回避するために作られた組織は、動きの速い市場でイノベーションを起こすのが難しく感じられることがあります。(なぜなら、リスク回避がその組織の意図だからです。)

(5)文化
私たちがどのように意思決定するかに影響を与える条件
文化は、サービスを構成するすべての層を包含しています。それは、私たちがどのように意思決定を行い、個人や集団としてどのように行動するかを形成するものです。スタッフが持つ自律性や権限の働き方など、文化は私たちが共有するモラルや信念に影響を与えます。その結果サービスを設計し提供する方法にも文化の影響が反映されます。
例えば、組織がユーザーにサポートサービスを提供し、自分たちが専門家であると信じている場合。このサービスではユーザーの問題解決に力を与えることはできないでしょう。なぜなら、ここで提供されるサポートサービスの内容は組織の文化的な努力によって育まれた、組織的に一致した信念のもとに保持される見解である可能性があります。

5.サービスデザインとはユーザーエクスペリエンスを追求すること

サービスデザインの多くは漸進的なものですが、多くの場合、それは私たちが必要としているものではありません。

一般的にサービスデザインは、ユーザーのニーズやサービスの成果を満たすために、断絶されたシステムの一部をつなげて再設計し、ユーザーの体験の断片化を少しずつ改善していくことに効果を発揮します。多くのサービスデザインは、体験を向上させるために可能なことをつなぎ合わせ、組織が提供するさまざまな方法を導き出すことを目的としています。時には、サービスデザインは、組織やインフラの制約がある中で、自由な発想を可能にするサービスを構築するための新しいポリシー作りやニーズの発見なども対象とすることがあります。

MyPoliceは、2009年にSnook社が実施したプロジェクトで、新しいサービスモデルを実現するためのサービスプロトタイピングの一例です。これは、警察と一般市民がオープンな形で双方向のフィードバックを受け取りながら交流する方法を考えたものです。このサービスは、実際にプロトタイプとして作成され、ダンディー市で6カ月間、市民・警察官とともにテストされました。

ほとんどの場合、サービスデザインで真のイノベーションを起こすために必要とされるポイントは、目標やニーズを満たす方法を根本的に再考し、再構築することです。しかし、ほとんどのサービスデザインプロジェクトは、「ブラウンフィールド」と呼ばれるような、一度何かしらの取り組みをしたもののうまくいかなかったか失敗してしまい、放置されているようなシナリオを扱っています。そこでは、レガシーな考え方や技術、時代遅れのモデルが多く存在し、新しくてより良い方法とは無縁の世界となっています。

未来のニーズに本当に応えようとするなら、サービスとそれを提供する組織を根本的に見直さなければなりません。そのためには、思考し、すべてのレイヤーに挑戦する必要があります。

つまり、サービスデザインとは、「成果を達成するためのサービス」についてその全体をデザインすることであり、ユーザーエクスペリエンスの観点からどのように構築されるかを追求することだと言えます。一方で忘れてはならないのは、サービスデザインはチームスポーツでありながら、「弱者のスポーツ」でもあるという点です。あなたのビジネスやシステムの中で最も弱いつながりや少数派のステークホルダーは、全体的なデザインに影響を与えます。ユーザーエクスペリエンスを考える前に、これらの存在がデザインの決定に影響を与えてしまうのです。

したがって、サービスデザインとは、組織内で人々が行う「ちょっとしたこと」や、彼らが行う意思決定が、成果を達成するために全体的なサービスの能力へどのような影響を与えるかについて、サービスの各層で新たな視点を強調し、可視化することだと言えるでしょう。そして「良いもの(こと)」とは何かというデザインリテラシーを向上させ、エンドユーザーの体験を形成するためにより良い意思決定を支援することです。

このとき、サービスデザインのデザイン部分が開花します。プロセスやステップ、そしてインタラクションデザインまで、実際のサービスがどのようなものかをテストして示すことが可能になります。そのサービスは使いやすいか?現実的に提供できるのか?もちろんこれは、プロダクトデザイナーや開発者などの他の専門家や、サービスに影響を与えるエンドツーエンドの提供に携わる人たちと一緒に行わなくてはならないことです。

6.チームにおけるサービスデザイナーの役割

サービスデザインはチームスポーツであり、一人で追求するものではありませんが、サービスデザイナーには役割があります。サービスデザイナーは、意図した結果を達成するために何を提供するのが正しいのかを明らかにし、テストする役割を担っています。時には、探求心を持ってアイデアや方向性を形成したり、より洗練された提案を幅広いチームでテストしたり、サービスを継続的に改善するモデルを考えたりします。

最終的には、サービスデザイナーはストーリーテラーであり、意思決定に影響を与える存在です。サービスデザイナーは、サービスのコンセプトをテストし、実際に提供可能なレベルに昇華することを指揮していきます。そして、サービスの戦略を共有するために、適切なレベルで、適切な人々を巻き込む能力を有していなければなりませんし、コラボレーションを通じて、サービスの戦略を共有するための投資(=協力)を集め、それを展開していかなければなりません。これは、コンセンサスを得ようとしている状況において、最適なメディアを利用し、説得力のあるストーリーを語ることができれば実現できます。あるときはプロトタイプで実際のサービスを見せてみたり、またあるときは説得力のあるビジネスケースで見せてみたりすることが重要です。

つまり、サービスデザインとは、サービスをデザインすることですが、決して単独で行われるものではありません。ほとんどの場合、より広範なシステの中で機能しており、チームスポーツとして結果を出していくものなのです。

◆ ◇ ◆

アイルランド生まれのドラムンド氏はとにかく人と話をすることが好きで、誰をも惹きつける魅力を持つ。それはサービスデザイナーとしての強みでもあり、「サービスデザインなんか信じない」というアンチ勢力の思いを汲み取り、その人たちをも自発に参画させるような仕組みづくりにも生かされている。

ぜひこの記事を周りの方にも薦めていただきたい。ぼんやりとしたサービスデザインという言葉に受け手がそれぞれの色で輪郭を付けられるはずだ。

最後に、翻訳をサポートしてくれたPublic Intelligence社のグロンデル・エスベン氏にこの場を借りて謝辞を申し上げる。