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2022.04.15

2022年4月号 連載企画 諸外国における政策デザインの実践(新連載) No.1 ユーザーの視点で問題を捉え、共感する|デンマーク・DDC

東京大学大学院工学系研究科
都市工学専攻
井上 拓央

 公的機関は政策や公共サービスをどのように設計し、実装すべきだろうか。この問いに対する考え方が大きく変わろうとしている。米国の政治学者ガイ・ピーターズ(B. Guy Peters)によれば、従来の政策デザインでは、高度な専門知識を持つ技術官僚が中心となって行う技術家主義的アプローチ、あるいは定量的な根拠に基づいて行う工学的アプローチが主流となってきた(Peters, 2018)。ところが、デジタル技術の進展がもたらす社会生活の変化や社会課題の複雑化を背景として、行政機関はますます多くの「厄介な問題(wicked problem)」(Rittel &Webber, 1973)に直面せざるを得なくなっている。複雑で、多様な利害関係者が絡み合い、完全で恒久的な解決策を持たないという特徴を持つ「厄介な問題」に対しては、これまで通りのアプローチで解決策を導くことが困難であるということが、世界各地での経験から明らかにされてきた(Ansell &Torfing, 2014)。