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2023.12.01

2023年12月号 トピックス 海外諸国における政府ジオポータル及び関連行政サービスの動向

株式会社NTTデータ経営研究所
シニアマネージャー
高橋 拓朗

マネージャー
木田 和海

シニアコンサルタント
青木 優子

1.はじめに

 近年、多種多様なデータの利活用が進められており、これは地理空間情報の利活用においても例外ではない。海外諸国の政府では、地理空間情報の流通・利活用促進を支える根拠法等に基づくガバナンスのもと、一般的なオープンデータの提供基盤と並行して、地理空間情報に特化したデータ提供基盤(以下、「ジオポータル」という。)及び関連するWebサービス1を行政サービスとして提供しており、積極的なデータ利活用を促している。一方で、日本においては法令等に基づく政府ジオポータルは存在せず、各府省が独自に地理空間情報の提供基盤を運用する現状にある。
 以上の背景に基づき、デジタル庁では、「海外諸国における地理空間関連ベース・レジストリ等の公開に係る行政サービスに関する調査研究」を行い、その調査結果を公表した2。当該調査は、海外諸国の政府における地理空間情報に関する行政サービス、とりわけジオポータル及び関連するWebサービスの実態を把握したうえで、土地・地図分野のベース・レジストリを含む、日本での地理空間情報の提供に係る行政サービスにおいて今後検討すべき論点を明らかにすることを目的としている。本稿ではその調査結果を概説する。

 

2.調査概要

 本調査では、海外諸国のジオポータル及び地理空間情報に関わるWebサービスの実態を明らかにするため、欧米諸国を中心とした9つの国等(米国、EU、エストニア、デンマーク、チェコ、フィンランド、ノルウェー、スロバキア、インド)を調査対象とし、デスクトップ調査、ヒアリング及び地理情報システム(Geographic Information System。以下、「GIS」という。)を用いた一部配信データの操作検証を行った。
 調査観点として、ジオポータルや関連するWebサービスの機能及び提供データに加え、これらの背景にあるガバナンス面に関わる基本思想、制度や法令等の整備状況も把握するために、「根拠となる制度や法令」「運営主体組織」「データテーマ(データの分野・グルーピング)」「ジオポータルの仕組み・機能」「Webサービス」「データ公開プロセス」等を主要な観点に設定した。

 

3.海外諸国の動向と国内の比較

 今回の調査対象国すべてにおいて、政府ジオポータルを整備・運用することを明文化した制度や法令が存在するが、他方、その運営主体や取り扱うデータテーマ、データの管理方法、提供するWebサービス等には各国の特徴が見られた。以降、調査観点ごとに海外諸国の動向及び特徴を述べるとともに、日本の現状を比較する。

(1)根拠となる制度や法令
 政府ジオポータルの裏付けとなる制度・法令は各国にて整備されており、ジオポータルの定義や主体組織に関しては共通して明記されていた。例えば、米国では、2018年に成立した「Geospatial Data Act 2018(地理データ法)」にて、国土空間データ基盤(NSDI3)を開発・推進・管理するための組織、プロセス及びツールを成文化し、その開発について連邦政府以外の責任も認めるものとしている。同法令においては、ジオポータルの定義や運営主体組織だけでなく、データテーマも規定されている。
 EUでは、環境に関連する政策・活動のためにEUの地理空間データ基盤を構築することを目的に、2007年に成立した「INSPIRE4 Directive」がジオポータルの裏付けとなる指令である。本指令では、提供する地理空間データをWebサービスとして配信するよう規定するとともに、付属資料にてデータテーマも規定する。
 他方、スロバキアの例では「空間情報のための国家基盤に関する法律(NIPI法)第3/2010」において、ジオポータルの役割、環境省の役割及び関連当局の権限について定めているものの、データテーマは規定されていない。他の調査対象国を見ても、法令にてデータテーマを規定していない国の方が多い結果となった。
 なお、日本では関連法として「地理空間情報活用推進基本法」が定められているが、ジオポータルの定義、責任の所在・役割等は明記されていない。

(2)運営主体組織
 政府ジオポータルの運営主体組織は、地理空間情報に特化した組織を構成する国と、各国の環境当局が担う国に大きく分類された。米国では、地理空間分野のデータ等の整備を主導する組織として「The Federal Geographic Data Committee(FGDC)」が設置されており、民間及び非営利セクターを含む7つの委員会やワーキンググループ等で構成されている。また、チェコ、スロバキア等のEU諸国では、INSPIRE Directiveを背景に各国の環境省が主体組織として位置づけられる傾向にある。
 一方、日本では、政府ジオポータルの運営主体やデータ管理主体は法令等で明確に規定されず、地理空間情報活用推進基本計画にて活用推進に関する組織として「地理空間情報活用推進会議」が設置されているところである。

(3)データテーマ
 米国、EU及び欧州諸国では、独自のデータテーマを設定している国を含め、概ね類似したデータテーマ(住所、生態系、気象、地形、境界、不動産等)のもとでデータが提供されている。米国のデータテーマを基準とすると、同国で規定されない特徴的なデータテーマとして、健康に関するデータ(公害、花粉、騒音等)があり、欧州の複数の調査対象国で提供される。欧州諸国は、INSPIRE Directiveによって環境関連政策へのデータ活用が目指されていることから、「環境」や「屋外」といった環境から派生するデータも提供されていることが特徴の一つといえる。
 一方、日本の各機関が提供するデータを確認すると、米国のデータテーマに含まれるデータは概ね提供されているものの、バリエーションが少ない傾向にある。

(4)ジオポータルの仕組み・機能
 ジオポータルの仕組みに関して、米国では政府ジオポータル「GeoPlatform.gov5」にて扱うデータ及びメタデータを政府オープンデータポータル「Data.gov6」から収集・公開している。Data.govでは、データの収集元である各機関が管理するオープンデータをメタデータとして有しており、GeoPlatform.govではData.govの中から地理空間情報に関わるメタデータを抽出し、同ポータルに連携する仕組みになっている。そのため、各機関が管理するデータ及びメタデータが更新された際にはその情報が政府の両サービス側にも反映される仕組みとなっている。
 欧州諸国の政府ジオポータルでは、各機関が管理する地理空間情報に関するデータベースやポータルサイトからメタデータを直接登録し公開する仕組みが多い。データ提供者は実装規則やテンプレートに基づきジオポータルにメタデータ等の登録をすることで公開可能となる。
 一方、日本では前述のとおり、法令等で規定された政府ジオポータルは存在せず、政府オープンデータポータルであるDATA.GO.JP(調査時点。現在はe-Govデータポータル7)や、個別の地理空間情報公開サイト等にて、地理空間情報を含む各種データを公開している状況である。各府省や外郭団体が地理空間情報に特化したポータルやサービスを個別に整備・運用しているため、データ利用者は、各サービスに個別アクセスすることが求められる(図表1)。

 

図表1 各国のジオポータル全体像の比較

(出典)筆者作成

 

 また、ジオポータルの提供機能として、海外諸国では利便性の高いWebサービスやツールを提供している。特に、ファイル形式でのダウンロードによるデータ提供だけでなく、データ配信形式及びAPIによるデータ提供サービス(WMS8、WFS9、WMTS10、Esri REST Service等)が多く確認された。
 本調査ではGISを用いたデータ提供サービスの利用検証も行った。米国の検証では、GeoPlatform.gov上で公開されているデータから無作為に抽出し、地理空間データ形式でのデータ配信サービスをGIS11上で実際に読み込ませた。その結果、ラスターデータ12は配信URLを取得したうえで、GIS上でそのURLを指定する操作により、特段問題なくマップ上の1レイヤーとして利用可能であった(図表2)。ベクターデータ13についても同様の操作により特段問題なくマップ上の1レイヤーとして利用が可能であり、ベクターデータ形式の特徴である属性データ値に基づく色分けやラベル表示等の設定も行えた(図表3)。

 

図表2 米国の操作検証結果(ラスタータイルデータ)

(出典)outer-continental-shelf-official-protraction-diagrams-pacific-region-west-coastnad-83(太平洋地域西海岸大陸棚の外側延長線図)、Department of the Interior(内務省公開)を基に筆者作成

 

図表3 米国の操作検証結果(ベクターデータ)

(出典)outer-continental-shelf-official-protraction-diagrams-pacific-region-west-coastnad-83(太平洋地域西海岸大陸棚の外側延長線図)、Department of the Interior(内務省公開)を基に筆者作成

 

 一方、日本においては、各機関が個別に運用する地理空間情報の提供ポータルではデータのダウンロードサービスにとどまる場合が多く、地理空間情報として利用可能なWebサービス及びAPIを公開する事例は少ない。

(5)Webサービス
 海外諸国では、ジオポータル上または別途のWebサイトにて、地理空間情報に係る様々なWebサービスを提供している。例として、マップビューア、ジオコーディング(住所から緯度・経度への変換)、ベクター形式及びラスター形式でのデータ配信、地物検索、データ変換等が挙げられる。これらのWebサービスはジオポータルの運用主体が提供する場合が多いものの、その他の地理空間情報を扱う公的機関が提供するケースや、一部サービスでは民間企業が請け負うケースも確認された。
 その他にも、米国ではGeoPlatform.govにおいて、地理空間情報に係る基盤のクラウド化を促進するため、米国連邦政府機関向けに地理空間情報のホスティングサービスを提供しており、関連するアプリケーション、データベース、データストレージ及びWebサービスのホスティングを可能としている点も特徴的といえる。
 一方、日本では、各公的機関が個別にWebサービスを提供しているが、バリエーションが限られる。日本での特徴的な事例として、経済産業省では「Tellus14」と呼ばれる衛星データプラットフォームを運用している。調査対象国の中では、デンマークやノルウェーなどが衛星データを活用したWebサービスを提供しているものの、数は限られる。

(6)データ公開プロセス
 (4)ジオポータルでも述べたとおり、すべての調査対象国では、地理空間情報に関するデータは各機関が個別に管理し、これらのメタデータをジオポータルに集約する分散型管理の仕組み・プロセスによりデータを収集・公開している。また、データ提供者向けに、実装規則やツールを提供することで各機関の登録を促す国が多く確認された。
 米国の場合は先述のとおり、各機関が地理空間情報に係るデータを管理し、これらのメタデータをData.govに集約したうえで、その中から地理空間情報に関するものをGeoPlatform.govに連携し公開するプロセスを経ている。
 また、チェコの例では、各機関が管理する地理空間データ及びWebサービスのメタデータレコードを作成し、政府ジオポータル上に登録・公開するプロセスとなっている。
 一方、日本では、各機関が個別に管理する地理空間データを個別の提供サイトにて公開しており、それらを利用者が横断的にアクセスすることはできない(一部データは現e-Govデータポータル上で公開)。
 海外諸国と同様の分散型管理による地理空間情報の公開サービスの事例として、海上保安庁が提供する「海しる15」がある。同サービスでは、関係府省及び政府関係機関が分散して管理する様々な海洋情報を集約し、地図上で重ね合わせて表示する仕組みとなっている。

 

4.今後検討すべき論点

 調査結果を踏まえると、将来的に日本において地理空間関連ベース・レジストリをはじめとする各種地理空間データの流通・利活用の促進、及びジオポータルの公開を行うにあたっては、ガバナンスと提供サービスの両側面から検討が求められるであろう。

(1)ガバナンスのあり方
制度・法令
 ジオポータルに関する法的根拠またはガイドラインを、府省横断的な体系として定めることができるか。あわせて、米国のGeospatial Data Act 2018(地理データ法)や他の海外諸国が定めるような法令やガイドラインの策定プロセスも検討が望まれる。

組織
 全体最適のガバナンスのもとでジオポータルを運用する中心組織は、どのような形態であるべきか。米国、EUのように地理空間情報及びジオポータルに特化した組織・委員会を新たに設立するか、または欧州諸国のように既存の組織の発展形態とするかが論点となる。

データテーマ
 政府ジオポータルを設ける場合、提供するデータにおける適切なデータテーマは何か。米国のように幅広くテーマ設定を行う方針、またはEUでの環境政策・活動を目的としたテーマ設定のように特定の目的に基づいたテーマ設定を行う方針が考えられる。

提供サービス
 日本の政府ジオポータルの提供サービスの範囲としてどこまでを規定することが妥当か。データの利活用促進のためには、EUでのINSPIRE Directiveのようにファイルの検索・ダウンロード提供のみでなく、地理空間データをWebサービスとして配信することを法令やガイドライン等にて規定する方向が妥当ではないか。

(2)提供サービスのあり方
ジオポータル
 日本においても、政府オープンデータポータルとは別途で政府ジオポータルを設けることが妥当ではないか。地理空間データは文書や統計データ類と比較してデータサイズが大きく、また、地理空間データに特有の地理空間軸での視覚化や分析・解析による利活用が想定される。そのため、一般的なオープンデータポータルで地理空間データの検索・利活用までを包括的に担う代わりに、地理空間データの流通基盤として政府ジオポータル併設することが望ましいと考える。
 政府オープンデータポータルと政府ジオポータルを並行運用する場合には、2つのポータル間におけるメタデータの技術的な連携方法についても検討が必要である。

データ配信及び関連サービスの提供
 政府ジオポータルの提供サービスの一種として、地理空間データをWebサービスとして配信することが妥当ではないか。また、Webサービスの相互運用性を確保するために、配信データ形式は一定の標準化が求められるであろう。
 あわせて、海外諸国では政府として提供する例が多いことを踏まえ、ジオコーディングサービスを政府ジオポータルにて提供することも望まれる。

民間企業との関わり
 政府ジオポータルの運用をさらに発展させる際には、政府ジオポータルに係る官民連携のあるべき姿の構想を描いたうえで、ジオポータルの運用及び民間企業が保有する地理空間データの政府ジオポータルでの取り扱いを含む、ジオポータルへのデータ提供の方針を定めることも必要であろう。

 

5.おわりに

 本調査の対象とした海外諸国では、地理空間情報の流通・利活用促進に向けて法令等の裏付けのもとジオポータルが整備・運用されており、ファイル形式によるデータ公開にとどまらず、各種Webサービスの提供を通じて利便性を高めていた。
 今後、日本における地理空間情報の流通・利活用の加速に向けて、これらの基礎となる法令等の制度及び組織的枠組み、そして地理空間情報の流通基盤となるジオポータルのあり方を検討していくにあたり、本調査の結果を踏まえた構想並びに具体化が進展することを期待する。

 

【注】

1 本稿では、マップビューア、データ配信、地物検索、ジオコーディング(住所等から緯度・経度への変換)等の、地理空間情報に関するサービスやAPI(Application Programming Interface)のことを指す。

2 デジタル庁 委託調査成果物一覧「海外諸国における地理空間関連ベース・レジストリ等の公開に係る行政サービスに関する調査研究」(https://www.digital.go.jp/budget/entrustment_deliverables)。

3 National Spatial Data Infrastructureの略。

4 Infrastructure for Spatial Information in the European Communityの略。

5 https://geoplatform.gov/

6 https://data.gov/

7 https://data.e-gov.go.jp/info/ja

8 Web Feature Serviceの略。地理空間情報の標準化団体であるOGC(Open Geospatial Consortium)が定めた、Web経由で地理的なフィーチャ(地物)データを提供するための国際標準規格。

9 Web Map Serviceの略。OGCが定めた、Web経由で地図画像を提供するための国際標準規格。

10 Web Map Tile Serviceの略。OGCが定めた、タイル状に分割された地図画像を表示範囲に応じて提供・一時保存(キャッシュ)する国際標準規格。WMSと比べ地図画像の表示効率が良い。

11 検証では商用製品であるArcGISを用いた。

12 画像形式の地理空間データ。

13 点・線・面による図形情報とこれらに紐づく属性情報により構成される地理空間データ。

14 https://www.tellusxdp.com/

15 https://www.msil.go.jp/msil/htm/topwindow.html

 

高橋 拓朗(たかはし たくろう)
自治体、ITベンダーを経てNTTデータ経営研究所に入社。人口減少社会において持続的な地域経営モデルを確立することをライフワークとし、行政の効率化、地域産業の高度化、テクノロジーを活用した生活の質の向上に取り組む。最近は、公務員が業務への手ごたえを取り戻すことをテーマに掲げ、行政における仕事のあり方も研究対象としている。
2022年より 消費者庁新未来創造戦略本部 「新未来ビジョン・フォーラム」 フェロー

 

木田 和海(きだ かずみ)
大学にて地理学を専攻。国内系コンサルティング企業を経た後、GIS(地理情報システム)ベンダーにてプロダクトマーケティングやGIS導入支援、地理空間情報を用いた新規用途開発の企画・実証に従事。現職では主に、事業創出に向けたビジョン策定及びサービスデザイン、GIS利活用やオープンデータ推進を中心とした政府DX及びデータマネジメントの支援に携わる。立教大学ビジネスデザイン研究所 特任研究員。GIS学術士、MFA(修士(芸術))。

 

青木 優子(あおき ゆうこ)
外資系ITサービスベンダー企業を経て、現職では広くまちづくりの分野に携わる組織に所属し、自治体におけるDX推進並びに計画策定及び公共分野における新規サービス・ビジネス創出に向けた戦略策定等の支援に従事。また、現在は法政大学大学院政策創造研究科修士課程に在籍し、地域における外国人住民との共生をテーマに研究を進める。