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2026.07.01

2026年7月号 トピックス 「行政×AI」の未来はどうなる? GovTech東京の国際会議で語られた“AIガバナンス”の実践と課題

株式会社霹靂社代表
CaseHUB.News編集長
本多 和幸

2.市民が政府を意識しない「1センテンス・ガバナンス」へ――エストニア法務・デジタル大臣 リーサ=リ・パコスタ氏

 続いてキーノートセッションに登壇したのは、エストニア共和国法務・デジタル大臣のリーサ=リ・パコスタ氏だ。バルト海に面する人口約130万人の同国は、行政DXの先進国として広く知られている。パコスタ氏は「全ての政府・自治体サービスがオンライン化され、完全なペーパーレス行政を実現している」と述べ、現在はAIのためのフロントエンドおよびバックエンドのプラットフォームを提供していると説明した。

 

写真3 エストニア共和国法務・デジタル大臣のリーサ=リ・パコスタ氏

(出典)筆者撮影

 

 パコスタ氏は、「市民が政府を意識しない、というのがAI時代の行政サービスの在るべき姿だ」と断言する。その具体的な形として同氏が提示したのが「1センテンス(一文)ベースのガバナンス」だ。
 例えば転居する際、通常であれば、幼稚園や学校の枠の確保、かかりつけ医の変更、電気やガスといった社会インフラの契約など、膨大な手続きが存在する。しかしエストニアの構想では、市民が行政アプリを開き「私はこの住所からこの住所に引っ越す」と一文入力すれば、これをトリガーとして、市民のニーズを満たすために必要なあらゆる手配をAIエージェントが自動的に整理し、進行する。もし子どもが特別な支援を必要としているというデータがあれば、新居の地域での新たなサポートサービスや学校側の対応も自動的に連携されるという。「人々が単なる官僚主義的な手続きよりも、はるかに良いことのために自分たちの時間を使えるようにする。それがAI時代のガバナンスの目標だ」と同氏は力を込めた。

 

3.市民の「信頼」を維持するための三つの柱

 こうした高度なAI活用とデータ連携を実現する上で最も重要な要素は「市民からの信頼」であるともパコスタ氏は強調した。エストニアは「政府がAIを監視目的で使用することは望んでいない」とし、強権主義的な国とは正反対の、自由と人権、民主主義を重んじる価値観を選択しているとした。「AIにおけるいかなる間違いも想像を絶するスピードで増幅されるからこそ、絶対に最も重要なことは信頼を保つことです」と語り、三つの柱で信頼を維持する必要があるとパコスタ氏は説く。
 第一の柱は、サイバーセキュリティとデータ保護の徹底だ。パコスタ氏は「AIツールを使用するだけでなく、AIによって組織化されたサイバー攻撃が増加している」と警鐘を鳴らすとともに、AI時代の防衛には価値観を共有する同志国や都市との連携がこれまで以上に必要不可欠だと指摘する。エストニアは2007年にロシアから国家規模のサイバー攻撃を受けた歴史があり、「それ以降、私たちの全てのステップはサイバーセキュリティに始まり、サイバーセキュリティに終わる形になった」と、システムの基盤を強固なセキュリティに置いていると説明した。
 第二の柱は、圧倒的に優れたサービスの提供である。「多くの人々は、政府に自分のデータの使用を許可した際、より素晴らしい見返りが得られるという実感を持てていない」と課題を挙げ、「人々が喜んで自分のデータを共有したくなるほど、提供するサービスは並外れて優れていなければならない」と訴えた。スマートフォンを利用しない人々であってもスムーズに恩恵を受けられるようなサービスの設計や品質の追求が求められるという。
 そしてパコスタ氏が第三の柱として挙げたのが、人権の保護と透明性だ。エストニアは「ガバナンスの完全な透明性を実現している」とした上で、パコスタ氏は「携帯電話のアプリを開けば、公共機関のどの機関の誰が自分のデータを見たかを確認できる」と説明する。紙のファイルでは誰が閲覧したか正確に把握するのは困難だが、デジタルデータであれば「全てのステップが記録されており、誰がデータを見たかを正確に確認できる」ため、機密データも正しく保護されると強調した。

 

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