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2026.07.01

2026年7月号 トピックス 「行政×AI」の未来はどうなる? GovTech東京の国際会議で語られた“AIガバナンス”の実践と課題

株式会社霹靂社代表
CaseHUB.News編集長
本多 和幸

4.オープンな失敗の共有と「主権型AI」の模索

 エストニア政府内では現在、約200のAIベースのソリューションが稼働しており、市民の満足度も非常に高いという。しかしパコスタ氏は、「エストニアにはまだ、政府の完全な管理下にあるフルスケールのAIモデルがない」という実情と課題についてもオープンに語った。
 現在は米国企業の製品モデルを使用しているため、「バックドア(裏口)が全くないと100%確実に保証することはできない」という。そのため、現状ではオープンデータや機密性の高くないデータにのみAIを使用している。この状況を打破するため、機密データにも安全に使用でき、情報漏えいのリスクが全くない「100%以上安全な主権型AIモデル」の共創を参加者に呼びかけた。
 「互いにオープンに学び合い、自分たちの失敗についてもオープンに話し合うことが、結果的により強い信頼につながる」とパコスタ氏は強調。「市民が官僚的な手続きに時間を取られず、自然やスポーツ、家族とのコミュニケーションに時間を使える素晴らしい未来を信じている」と講演を結んだ。

 

5.公務員向けAI「City Cloud」をオープンソース化へ――台北市CIO ジャック・チャオ氏

 台北市政府の情報局長(CIO)であるジャック・シールン・チャオ氏は、世界中の政府が直面している人的資源の危機に対し、自律型AI(エージェンティックAI)の導入がパラダイムシフトをもたらすと語った。職員が反復作業から解放され、政策立案や市民のケアなど、共感と創造性を必要とする業務に集中できるようになるという。

 

写真4 台北市政府の情報局長(CIO)のジャック・シールン・チャオ氏

(出典)筆者撮影

 

 しかし、今日主流のAIエージェントをそのまま行政の実務に適用することには、「説明責任のブラックボックス化や、バイアスによる社会的不公正の悪化といった深刻なリスクがある」とも同氏は指摘した。このリスクを統制するため、台北市は公務員向けに設計されたAIエージェント「CiviClaw」を開発した。安全で抑制的な提案を行うよう設計されているという。また、運用にあたっては、補助金の承認や罰則といった重大な意思決定ではAIの役割を「推奨」に限定し、最終的な決定は必ず人間が行う「ヒューマン・イン・ザ・ループ」の原則を徹底しているという。さらに同氏は、このシステムを近い将来オープンソース化し、誰でも利用や修正ができるようにコードを公開すると発表した。
 CiviClawの具体的な活用事例としては、AIによって自動生成される「台北AIニュースチャンネル」を紹介した。分散する行政情報をAIが収集・要約し、短い動画にして配信するサービスだ。トピックの選定から動画編集、レイアウト、音声の吹き込みまで人間の介入なしに行われ、動画制作コストを約90%削減できるという。
 チャオ氏は最後に、全ての公務員が安全で包摂的なAIツールにアクセスでき、政府がリアルタイムで互いに学び合うグローバルコミュニティを構築したいというビジョンを語り、参加者に都市間の「デジタル仲間」としての連帯を呼びかけた。

 

本多 和幸(ほんだ かずゆき)
水インフラの専門紙「水道産業新聞」編集記者を経て、2013年に株式会社BCN入社。「週刊BCN」の記者として法人向けITビジネス領域の取材に従事。国内外の大手ベンダーから有力スタートアップまで幅広く取材。2018年1月から2021年12月まで、週刊BCN編集長を務める。
2022年春に独立し、霹靂社を設立。2024年9月、ビジネスITのユーザー事例専門ニュースメディア『CaseHUB.News』を立ち上げ。

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