行政&情報システムOnline

無償

2026.09.01

2026年9月号 連載企画 「公共AIナレッジベース仕様Ver.1.0」について ~AIに「正しい情報」を確実に渡すための共通ルール~

横浜市 最高情報統括責任者(CIO)補佐監/行政情報システム研究所 客員研究員/公共AIナレッジ研究会 運営委員長/愛媛県CAIO補佐官/芝浦工業大学客員教授/グラビス・アーキテクツ株式会社 プリンシパル・アーキテクト
福田 次郎

3.第1の柱:ナレッジを4階層に分類する

 第1の柱は、ナレッジを4つの階層に分類するカテゴリ体系である(図表3)。

 

図表3 ナレッジの4 階層カテゴリ

(出典)公共AIナレッジ研究会「公共AIナレッジベース仕様Ver.1.0」をもとに筆者作成

 

 データ層(カテゴリコード10.0.0.0)は、気温や売上などの数値データ、記入済みの申請書など、文脈を持たない未加工の値や記号であり、AIがAPIで直接参照する。情報層(20.0.0.0)は、統計書、報道、広報誌など、データに意味と文脈が付与され人間やAIが理解できる形に加工したもので、RAG(検索拡張生成)に取り込まれAIによる引用や案内に使われる。ルール層(30.0.0.0)は、マニュアル、FAQ、申請書様式、計算式、組織指針など、意思決定や再利用のために体系化された手順・基準・方針であり、AIエージェントによる業務処理はこの層を参照する。常識・背景層(40.0.0.0)は、禁止用語集、専門用語集、想定利用者の属性情報など、AIの判断に影響する暗黙の前提知識である。
 4階層に分ける意図は明快で、AIに「今参照しているのは単なる案内パンフレットなのか、厳守すべきルールなのか」を峻別させることにある。人間は市民向けのパンフレットと職員向けの業務手順書を混同しないが、AIにとってはどちらも同じルールを示すテキストの塊にすぎない。層を明示することで、参考にとどめてよい情報と、逸脱してはならない規範とをAIが区別できる。
 各層はカテゴリコードの「L1.L2.L3.L4」の4階層をピリオドで区切って細分化される。例えばL2コードは、ナレッジの「提供方向・オーナー区分」による区分で、10は外部作成(国が作成した法律を自治体が利用する場合など、自らは内容を変更できないもの)、20は内外提供(自らが作成し組織内外に公開するもの)、30は内部専用(自らが作成し内部のみで利用するもの)である。誰が作った文書か、変更してよいか、外に出してよいかが、コードの冒頭2区分で判別できる。
 L3・L4の細分類はナレッジの目的や用途によって約150が定義されている。例えば「30.10.50.0」はルール層/外部作成/ルール・規則を意味し、法律・省令などが該当する。

 

4.第2の柱:128項目のメタデータで暗黙知を可視化する

 第2の柱がメタデータである。前稿では「タグ」と呼んだが、Ver.1.0ではより一般的な「メタデータ」に用語を統一した。
 メタデータの役割は、人間が自然に理解している暗黙知を、AIが読める形で明示することにある(図表4)。「この文書はいつまで有効か」が書かれていなければ、AIは古い情報を最新のものとして提供してしまう。しかし、発効開始・終了日時を明記すれば、AIは日時を比較して判断できる。「誰に見せてよいか」が書かれていなければ、非公開の内部情報を外部に回答してしまうが、公開範囲コードと開示許可組織を明記すれば防げる。「出所は信頼できるか」はオーナー組織IDやAI作成フラグで、「上位の法令を根拠とするか」は上位・下位ナレッジIDで明示する。

 

図表4 メタデータ:AIにナレッジの暗黙知を伝える。AIと人間との合意事項

(出典)筆者作成

 

 Ver.1.0では、こうした項目について128項目(No.1010〜2280)を定義し、フォーマット識別、ナレッジの識別、オーナーの識別、ホルダーの識別、業種・業界・エリア識別、サービス・業務の識別、ナレッジベース管理、ナレッジのタイムライン、開示の許可範囲、関連するナレッジ、証明書の11グループに整理した(図表5)。

 

図表5 メタデータ11グループと項目数(全128項目)

(出典)公共AIナレッジ研究会「公共AIナレッジベース仕様Ver.1.0」をもとに筆者作成

 

 128項目と聞くと現場での項目入力の負担を心配するかもしれないが、必須項目(M)はその一部にとどまる。必須項目が未記載のナレッジは登録できないというルールを置き、それ以外を任意とすることで、負担と品質確保の両立を図っている。各項目には属性(データ型)が定められ、文字列(X)、数値(N)、日時(Y)、テキスト(T)、ネストグループ(G)、ファイル(F)で表記し、日時はISO8601拡張形式に統一した。
 とりわけ重要なのが「関連するナレッジ」の項目群である。ナレッジ同士の関係を、上位(G7)・下位(G8)・並列(G9)として定義できる。例えば自治体の子育て給付事業なら、国の「子ども・子育て支援法」を上位に、自治体内の給付金の手順書を中間に、申請様式を下位に指定し、そのナレッジID(文書コード)を記載しておく。こうしておけばAIが関連ナレッジを参照でき、法改正で上位ナレッジが更新されたときも、影響を受ける手順書と様式を機械的に洗い出して修正できる。

<前へ 1 2 3 4次へ>

2/4ページ