行政&情報システムOnline

無償

2026.09.01

2026年9月号 連載企画 「公共AIナレッジベース仕様Ver.1.0」について ~AIに「正しい情報」を確実に渡すための共通ルール~

横浜市 最高情報統括責任者(CIO)補佐監/行政情報システム研究所 客員研究員/公共AIナレッジ研究会 運営委員長/愛媛県CAIO補佐官/芝浦工業大学客員教授/グラビス・アーキテクツ株式会社 プリンシパル・アーキテクト
福田 次郎

1.はじめに:なぜ「公共AIナレッジベース」が必要なのか

 本誌2026年4月号に「行政DXの次の一手、AIエージェントを支える『公共AIナレッジベース』」と題して寄稿し、2040年問題への切り札としてのAIエージェント活用と、それを支える情報基盤の必要性を述べた。本稿はその続報として、公共AIナレッジ研究会が2026年5月に策定した「公共AIナレッジベース仕様Ver.1.0」を紹介する。
 出発点を確認しておく。2040年には生産年齢人口が約2割減少する一方で高齢者人口は約2割増加する。職員数も生産年齢人口と同様に減少すると仮定すれば、1.2÷0.8=1.5、すなわち職員一人当たりの業務量は単純計算で1.5倍になる。定型業務を自律的に処理するAIエージェントの活用は、もはや選択肢ではなく前提条件である。
 ところが実際にAIエージェントを行政業務へ適用しようとすると、必ず「AIに渡す情報(ナレッジ)が整っていない」という壁に突き当たる。どれほど高性能なモデルでも、参照すべき手順書やルールが正しくなければ正しい仕事はできない。必要なのは「正しい・最新の・正統な」情報、すなわち信頼できるナレッジである。
 しかし現状は厳しい。手順書やマニュアルなどのナレッジは各課のファイルサーバーに分散し、いつ改訂されたのか、今も有効なのか、誰に見せてよいのかが分からない。人間の職員なら、文書の日付や保管場所から「これは古い」「これは内部限り」と自然に判断するが、その根拠は文書のどこにも書かれていない「暗黙知」である。AIはこれを読み取れず、失効した通知を最新のものとして案内したり、内部限りの内規を市民に開示したりする恐れがある。
 つまり課題の本質は、文書そのものの品質とともに、文書の「扱い方」が明示されていないことにある。AIが参照できるナレッジを一か所に集め、人間とAIが「この文書はこう扱う」という合意を共有できる形式に整えて、はじめてAIエージェントは正しく機能する。この合意の形式を定義したものが、公共AIナレッジベース仕様である。

 

2.公共AIナレッジベース仕様Ver.1.0の全体像

 公共AIナレッジベースを具現化するため、2026年2月に官民の有志による「公共AIナレッジ研究会」(https://www.trustedfor.ai)が設立された。研究会は、公共AIナレッジベースの設計や仕様の議論を進め、2026年5月に「公共AIナレッジベース仕様Ver.1.0」を策定した。

 

図表1 公共AIナレッジベース仕様Ver.1.0の構成

(出典)公共AIナレッジ研究会「公共AIナレッジベース仕様Ver.1.0」をもとに筆者作成

 

 本仕様の核心は「人間とAIの合意事項(Agreement)の確立」にある。留意すべきは、文書の中身そのものを標準化するものではないという点である。全国の自治体の行政文書の様式や記述を一律に揃えることは現実的でなく、その必要もない。標準化が必要なのは、その文書を「どう扱うか」という付随情報のAIへの渡し方である。この割り切りにより、既存の文書資産を活かしたままAIが扱える形に整えられる。
 公共AIナレッジベース仕様Ver.1.0は本編と3つの別紙(別紙1:カテゴリの分類一覧、別紙2:メタデータ項目一覧、別紙3:コード仕様書)で構成される(図表1)。以下、仕様を構成する4つの柱、すなわち①カテゴリ体系、②メタデータ、③ID体系、④コード体系とガバナンスの順に解説する。全体の活用イメージは図表2のとおりである。

 

図表2 公共AIナレッジベースの活用イメージ

(出典)筆者作成

<前へ 1 2 3 4次へ>

1/4ページ