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2026.10.01

2026年10月号 連載企画 イノベーションのためのサービスデザイン no.23 デザインを専⾨職から企業のケイパビリティへ ── デジタルスキル標準(DSS)改訂に⾒る、これからのデザインマネジメント

株式会社コンセント/武蔵野美術大学
長谷川 敦士

3.デジタルスキル標準ver.2.0(2026年)の改訂ポイント

 こうした議論を踏まえ、2026年4⽉16⽇、DSSはメジャーバージョンアップを迎えた(DSS ver.2.0)。今回の改訂の要点は⼤きく三つある。第⼀に、DSS-Pの⼈材類型(ロール)は、ビジネスアーキテクト、データサイエンティスト、サイバーセキュリティ、ソフトウェアエンジニア、デザイナーという従来の5類型から6類型へと拡張された。AIを前提とした企業内データ基盤整備の重要性の⾼まりを受けて、新たに「データマネジメント」が新設され、あわせてビジネスアーキテクトの内容も刷新されている。第⼆に、デザイナー領域では、従来のグラフィックデザイナーに代わり「コミュニケーションデザイナー」というロールが新たに位置づけられた。よいサービスが作られても、その意義や使い⽅が組織や社会に認知され、正しく伝わらなければ活⽤されない。これは消費者向けサービスに限らず、たとえば社内のイントラネットシステムを刷新しても、なぜそれが必要なのかが伝わらなければ現場では使われない、といった局⾯にも共通する課題である。ブランド⽅針・コミュニケーション⽅針を⾔語化し、どのチャネルでどう展開していくかを設計する役割が、独⽴したロールとして明⽰化された意味は⼤きい。
 そして第三として最も重要な変化は、「デザインマネジメント実践」がDXリテラシー標準(DSS-L)、すなわち全ビジネスパーソンが備えるべき基礎のなかに明記されたことである。ここでは、既存の選択肢のなかから合理的な答えを選ぶという通常の意思決定の態度(マネジメント態度)に加え、正解の⾒えない状況で⼩さな実験を繰り返しながら新しい選択肢そのものを作り出していく態度(デザイン態度)が、組織のマインド・スタンスとして併記された。デザインは⼀部の専⾨職が担う技能ではなく、組織のあらゆる階層が備えるべきケイパビリティであるという思想が、標準の記述として明⽂化されたことになる。

 

4.Design by ManagementとManagement by Design

 デザインマネジメント実践は、性質の異なる⼆つの活動から構成される。⼀つは「デザインのプロセスのマネジメント」であり、デザインプロセスを通常業務に整合させ、デザインスキルを体系化・育成し、デザインリソース活⽤の仕組みを整え、ガイドラインや基盤を整備するという、管理・運⽤の実践である。もう⼀つは「デザインの考え⽅を⽤いた組織のマネジメント」であり、業務や⼈材運⽤にデザインの知⾒を導⼊し、従業員体験(EX)やビジョンをデザインし、社内外でのコ・クリエーションを実践するという、組織運営そのもののデザインである。前者をDesign by Management、後者をManagement by Designと呼び分けるならば、両者を状況に応じて⾏き来できることが、これからの組織には求められる。
 あわせて興味深いのは、DSS-Pが定義するビジネスアーキテクトの役割構造である。意思決定の権限とスコープを軸に整理すると、権限もスコープも全社に及ぶ経営者、経営者の意思決定を⽀えるビジネスアーキテクト、個別のプロダクト・サービス単位で意思決定を担うプロダクトマネージャー、それを⽀えるビジネスアナリストという四象限が描かれる。ここで注⽬したいのは、プロダクトマネージャーと、冒頭で述べたサービスデザイナーに、実は近しい能⼒が求められるという点である。ユーザーリサーチを推進し、プロトタイピングを繰り返しながら、顧客にとって意味があり、かつ広く重要性を持つ事業をつくる——両者の仕事はもはや重なり合っており、デザインという職能の担う役割そのものが拡張していることを⽰している。

 

5.なぜいま「デザインマネジメント実践」が求められるのか

 「デザインマネジメント実践」がリテラシーの⽔準にまで引き上げられた背景には、少なくとも三つの要因があると筆者は⾒ている。第⼀に、デザインプログラムマネジメント(DPM)の重要性の⾼まりである。DSS-Pが提⾔する六つのロールは、それぞれが専⾨性を⾼めるだけでは機能しない。むしろ、これらをいかにつなげ、組織のなかで連携させるかが競争優位を左右する。ここで鍵となるのは、⾮デザイナー職がどれだけデザインを理解しているかであり、なかでも現場と経営層の間に⽴つミドルマネジメント層の理解度が、しばしば組織全体のボトルネックになる。デザイン専⾨職⾃⾝も他部署との連携を苦⼿とするケースが少なくなく、企画⼒・連携⼒といったスキルの明⽰化と育成が急務となっている。
 第⼆に、AI駆動を前提とした業務環境への移⾏である。制作作業の多くをAIが担うようになると、価値の生まれどころは「実際に何をどうつくるか」という工程そのものから、その前後にある企画や合意形成、社内外の関係者をどう動かせるかという部分へと移っていく。同時に、デザインスキルをAI側に実装しながらも品質と⽣産性を維持するという、「誰もがデザインできてしまう」ことによって⽣じる新しい課題への対処も求められる。
 第三に、⼈的資本経営の普及である。全社員・全職員がキャリア⾃律とリスキリングを通じて価値創造の主体となることが期待されるなかで、従業員体験(EX)のデザインと顧客体験(CX)のデザインを両⽴させる視点が、組織運営の基礎として不可⽋になりつつある。