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2019.10.10

2019年10月号連載企画 行政におけるウェルビーイングの設計 No.5 社会規模のペインマップを構築するための条件 早稲田大学 准教授 ドミニク・チェン

早稲田大学
准教授 ドミニク・チェン

前回は大学の教室や企業のオフィスにおける少人数の集団において、個々が抱える痛みやストレスについて共有する「ペインマップ」の効能について見てきました。今回は、より大規模な社会的スケールで、同様のことが可能なのかどうかを検証してみたいと思います。

1.生体計測システムの利点

これまでの記事のなかで、呼吸や心拍を継続的に計測するヘルステック機器に絡めて、自動的に大規模集団のペインマップを構築する可能性を考えてきました。特定のデバイスを用いなくても、主流のスマートフォンにはヘルス測定アプリとそれに対応するセンサーが標準で搭載されており、今後とも高度化することが予想されます。生体データを使う利点は、生理反応というものが多くの人間にとって共通の傾向があるため、入力と解析に時間のかかる主観報告(アンケートやヒアリング)、または個人にカスタムしたデータの調整といった手間を省ける点で
す。
生体データを基にして可能となることの一例を挙げてみると、心拍が異常に速い時間が多い場合があります。運動をしているわけでもないのに、対人関係や仕事のストレスなどで過度の緊張状態が続いている場合などが考えられますが、このような兆候は本人も他人も気づかない場合があります。その時に、スマートフォンや専用デバイスから警告の通知が本人に届くだけでも、さらなる状態の悪化を回避するきっかけになりえるでしょう。