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2020.06.10

2020年6月号特集 松阪市におけるおくやみワンストップの取り組み―窓口改革からデジタルデバイドの克服まで―

松阪市役所 戸籍住民課
上村 州史

1.はじめに

おくやみコーナーの開設

松阪市がおくやみコーナーを開設してから約2年半が経過します。はじまりは20175月、松阪市総合計画に掲げる「10年後の将来像」を実現するために松阪市長が庁内検討委員会に4つの諮問を行ったことでした。

このうち「市民の利便性を向上するための新しい行政窓口の体制構築」について、庁内検討委員会では「市民のための市役所」を実現する行政窓口の在り方として、ライフイベントに対応する窓口を構築する方針を定め、先行して死亡に特化した窓口「おくやみコーナー」を開設することが答申されました。開設は201711月とされ、諮問からわずか6か月という短期間での開設となりました。

別府市へのリスペクト

おくやみコーナー担当として辞令があったとき、私は情報政策部門でマイナンバーを担当していました。当時、情報連携の本格運用直前という時期であったこと、開設準備期間がわずか1か月しかないことに驚いたことを覚えています。

庁内検討委員会において各業務の手続きはまとめられており、想定業務フローも示されていました。しかし、「いつ、誰が、どの庁舎に」という申請受付に必要であって確定できない要素に対応する方策が十分に検討されておらず、想定業務フローのまま運用することには不安がありました。

確定できない要素の影響を受けないフローの方が、効率的に運営でき、各担当課職員の負担も増やさずに実施できるのではないかと考え、先行しておくやみコーナーに取り組まれていた大分県別府市に視察を依頼しました。この別府市で得た学びが、松阪市版おくやみコーナーの大きな礎となっています。

当時の別府市おくやみコーナーでは、遺族が来庁されてから「手続きが必要な窓口の抽出」と「申請書作成支援」が主たる業務として行われていました。「手続きが必要な窓口の抽出」は、担当課とのチャットの回答によって選別し、「申請書作成支援」は共有フォルダとExcelを活用するシンプルな仕組みになるよう工夫がありました。

何よりも、スタッフが遺族に寄り添い、「役所の手続き」で遺族が不安を感じやすい部分に的確なアプローチがされていることがとても印象的でした。

松阪市版おくやみコーナーの特徴

「手続きが必要な窓口の抽出」と「申請書作成支援」という別府市の取り組みをベースにし、松阪市版おくやみコーナーでは3つの特徴を加えました。

1つめは、利用予約に対応すること。予約申し込み時に来庁者名や持参物の確認等ができ、遺族も市役所も事前準備が整うことで時間短縮にも有効です。

 

1 「死亡・相続」の主な手続き

(出典)死亡・相続ワンストップサービス実現に向けた方策のとりまとめ2018(内閣官房IT総合戦略室)

 

2つめは、簡易な手続きはおくやみコーナーでワンストップ対応とし、遺族が手続きする窓口数を最少化すること。死亡に伴う手続きは、他のライフイベントに比べ、関連する手続きの種類が多くなる傾向がありますが、窓口数を最少化できれば遺族と各課担当職員双方の負担軽減につながります。

3つめは、市役所以外の手続きについて必要となる戸籍等証明書の取得支援を可能な範囲で実施すること。遺族が抱えている手続きは、多岐にわたります。死亡に関する手続きの段階では一次的な相談や証明書取得支援でご案内できる内容が多くあり、市役所以外の手続きに対して、少しでも不安を減らすことができるよう支援しています。(図1「死亡・相続」の主な手続き)

市役所内の手続きを終えることだけでなく、市役所以外の行政機関や民間の手続きも円滑にすすめることができるよう、遺族のエンドツーエンドを意識した支援を目指しています。

 

2.松阪市版おくやみコーナーの運用と実績

市役所関係の手続き(図2 おくやみコーナーフロー)

① お客様シート作成

遺族が来庁されたら、健康保険証などの持参物の確認をした後、お客様シートを記入していただきます。故人の基本情報は住基DBからデータ参照し、来庁者と相続人代表者の基本情報や葬祭費等の振込先などの個人情報を収集した後、関連窓口へ情報提供することに同意を得ます。

② 手続き照会・回答

①の情報を入力し各担当課へ照会を通知します。各担当課は共有フォルダからお客様シートを確認し、業務システムで対象者の情報をみながら回答シートに入力します。おくやみコーナーでは回答状況を随時確認しながら、遺族に対して手続き要否をマークします。回答が揃うと庁内で必要な手続きの範囲が確定することができます。

予約されている場合は、遺族が来庁するまでに回答を集約しているため、すぐに手続き案内を始めることができます。

③ 申請書作成支援

各担当課の回答内容を確認し、申請書のExcelシートを選択して印刷します。このシートには①で入力した故人や相続人の基本情報、口座情報等が反映されているため、遺族は申請する内容の説明を受けたうえで署名又は記名押印するのみで申請書が完成します。

④ 申請書受付

各担当課からの回答に「ワンストップ可」とされたものはおくやみコーナーでそのまま受付けて終了します。ワンストップは窓口最少化が目標であるため、申請書単位でなく、窓口単位としています。ワンストップ対象外の手続きであっても、各担当課が入力した回答シートは、窓口対応の事前準備資料となるため各担当課窓口でも応対時間を削減できています。

 

2 おくやみコーナーフロー

(出典)松阪市作成

 

証明書取得支援・相談等

松阪市長が、自身の親の死亡に伴う手続きで何度も市役所に証明書を取得に来庁した経験があったことから、「再来庁を減らしてほしい」と指示がありました。「遺族のエンドツーエンド」の中で手続き代行はできませんが、「証明書に関する案内」までは市役所の業務の範囲にできると考えました。

このような積極的な支援は「市民のための市役所」の実践として「おくやみコーナー」がより市民に近い存在であることを目指したことで可能になっています。再来庁の削減効果は測定できていませんが、ニーズに合った支援であることは間違いないと確信しています(表1)。

 

1 証明書取得支援で主に対応しているもの

(出典)松阪市作成

 

運営実績の紹介

① 件数、ワンストップ率(表2

松阪市の年間死亡件数は約1,800件ですが、おくやみコーナーの利用率は7割強で、その他の遺族は支所機能を有する地域振興局を利用しています。ワンストップ率とはおくやみコーナーで受付することで、担当窓口へ行く必要がなくなった率を示しています。児童関連の手続きなど、手続きの特定が定型的にできないものや件数がごくわずかなものなどは各課担当窓口対応としています。

② 死亡後来庁までの日数(表3

死亡届の提出をきっかけとして、死亡届出人に対して手続き案内を郵送通知するフローも検討していましたが、郵送のタイムラグによって日次の作業コストに見合った効果が得られないという仮説を検証しました。

③ アンケート(表4

市役所なのに「ありがとう」をたくさん言ってもらえます。

④ 各担当窓口の声(表5

各担当課の業務負担を軽減させることも重要なミッションだと考えています。

 

2 利用件数と予約率(2017年度は11月から3月(5か月間))

(出典)松阪市作成

 

3 死亡後来庁までの日数

(出典)松阪市作成

 

4 アンケート結果

(出典)松阪市作成

 

5 各担当窓口の声

 

(出典)松阪市作成

 

回答シートの改善

ワンストップを実現するためには、「窓口」ではなく「手続き」を特定する必要があります。開設当初は定型を限定し、非定型はすべて担当窓口対応としていましたが、ワンストップ率があがらないことや回答を入力する担当者によって内容にばらつきが発生するなどの課題がありました。また、今後の人事異動対応や会計年度任用職員の活用も含め、おくやみコーナーのサービスレベルを維持させるためには、各担当課とおくやみコーナーのコミュニケーションツールをブラッシュアップする必要がありました。

受付準備シートを作成している窓口があったため、そのアイデアを活用し受付準備兼回答シートとして進化させ、必要となる申請書名とワンストップ可否をExcel関数で自動判定できるようにしました。

この改善で、各課担当者による回答のばらつきがなくなり、ワンストップの率も約5割まで上昇したことに加えて、「窓口業務の大部分は情報処理である」ということを庁内に示すことができたことが次のステップにつながっていきます。

 

死亡・相続ワンストップサービス(図3)

2019年度は、国のデジタル・ガバメント実行計画のひとつ「死亡・相続ワンストップサービス」の取り組みに参加しました。この取り組みは、市役所だけでなく公的年金や保険、金融などの民間手続きまでもデジタル手続きでつながれるような仕組みづくりが検討されています。

大きな枠組みの取り組みですが、まず死亡届を扱う市役所に、一定の役割を担える存在が必要であるという価値観を事務局と共有することができました。

2019年度の取り組みとして、おくやみコーナーを設置する自治体を支援するためのガイドラインや支援ツールが作成されました。市民のためにおくやみコーナーの設置を検討していただくきっかけとなれば幸いです。

※ 政府CIOポータル:「おくやみコーナー」を設置する市町村 URLリンク https://cio.go.jp/sibousouzoku_siennabi_2020

 

3 死亡・相続ワンストップサービスの全体像

(出典)死亡・相続ワンストップサービス実現に向けた方策のとりまとめ2018(内閣官房IT総合戦略室)

 

3.ライフイベント窓口への発展

ライフイベント窓口とは

先行実施した「おくやみコーナー」に続き、死亡以外ライフイベント(出生・婚姻・転入・転出・転居など)に対応する窓口の形を模索するなかで、北海道北見市の取り組みを参考に市役所内の手続き案内が円滑にできるようなシステム開発を地元ベンダーと取り組んでいます。

ライフイベントによって発生する市役所の手続きは、資格情報と質問回答の組み合わせによって特定できるものが多くあります。これら情報処理で抽出された手続きに必要な申請書類は住基情報等を利用して作成し、あらかじめ「簡易な手続き」として登録した手続きはワンストップ化することを目指しています。

各課業務との調整では、所属以外の職員による申請書の受付に対する不安などが障壁になることがあります。松阪市ではおくやみコーナーが先行実施されていることによって、情報処理による手続き抽出、簡易な手続きのワンストップの経験が共有されていることは強みですが、スモールステップで開始しながら、少しずつ拡大していく予定です。

 

おくやみコーナー併設型ライフイベント窓口

ライフイベント窓口の開設によりシステムの活用方法が変わることはあっても、おくやみコーナーの看板がなくなることはありません。遺族に寄り添う姿勢は一貫して続けることで、より洗練された新しいサービスに進化できることを期待しています。

 

4.今後の展望

電子申請時代の到来

2020年は新型コロナウィルス対応で激動の年となっています。医療や保健所などの最前線の現場をはじめ様々な分野でICT技術が活用されています。そのようななか、窓口業務の視点から注目を集めているのが電子申請です。

特別定額給付金によって、マイナンバーカードを使った電子申請が多くの市民に認知されました。準備期間の短さと、個人単位でありながら世帯主が申請するという特殊性も重なり、電子申請データを効率的に処理することができず、紙で印刷して処理する自治体が多く、適切な処理のために電子申請の受付を中止せざるを得ない自治体もありました。

自治体は誤処理や重複申請などの対応で大変な苦労をしていますが、正しく電子申請ができた市民にとっては、電子申請の利便性を感じていただけたと思います。市民が簡単に利用でき、自治体が効率的に処理できるよう改善につなげることが電子申請の大きなターニングポイントとなるでしょう。

 

書かない窓口から庁内版電子申請へ

市役所の各事業で電子申請を推進する際は、市民の利便性向上だけでなく、職員側のメリットや行政コストの削減につなげていかなければなりませんが、窓口受付分と外部からの電子申請にハイブリッドに対応することが理想です。この際、どのように業務システムにデジタルインさせるのかが課題となります。

松阪市のライフイベント窓口では、先述した手続き案内のほか北見市・千葉県船橋市の例を参考に、「書かない窓口」にも取り組みます。申請書類を来庁者に手書きさせるのではなく、窓口職員がシステムで申請書を作成することで、申請情報をデジタル化させデジタルインできるようになります。実装では申請書作成支援までの展開が中心となりますが、住民異動窓口を起点とした庁内版電子申請に発展させるためのきっかけにしたいと考えています。

 

電子申請とデジタルデバイド

電子申請等のデジタルツールの導入を検討していくと、必ず高齢者等のデジタルデバイドの存在が課題となります。通信手段がない場合は公共端末や紙・郵送対応となりますが、書かない窓口から発展させた庁内版電子申請であれば、電子署名がなくても本人確認ができ、窓口職員が対応している申請書記入説明を端末操作説明に置き換えるだけなので、デジタルデバイトでも、窓口受付と同時に申請書類がデータで受付けることができます。

また、スマートフォンは所持しているものの、電子的なサービスを利用することに戸惑いを感じているようなリテラシー不足の場合、ちょっとしたサポートがあれば対応できる方もたくさんいらっしゃると感じています。例えば、松阪市では証明書等のコンビニ交付を実施していますが、窓口で住民票請求する際の本人確認資料でマイナンバーカードを提示されることもあります。そのような場合、庁舎内に設置している端末でコンビニ交付の実体験をしていただくようにしています。

電子申請などのデジタル手続きは、すぐに利用してもらいにくいこともありますが、利便性を市民や職員がより身近に感じられるようなUIの研究、動画やデモなどの広報・体験機会の提供など、ユーザーに寄り添ったアプローチが重要だと感じています。

 

5.おくやみコーナーのススメ

別府市からはじまった「おくやみコーナー」は、名前やカタチを変えながら全国各地で広まっています。また、看板はなくとも従来から申請書作成支援などで遺族の支援を実施していたり、「おくやみコーナー」に割く人員もスペースも余裕がなかったりという自治体も多いと思います。

必要なのは、市民のニーズを捉え、応えようとする工夫であって「おくやみコーナー」はひとつの形でしかありません。ただ、死亡に伴う手続きは誰でも身近で起こる可能性があり、決してなくなることはありません。そして、「おくやみコーナー」は市民と職員のどちらにも役に立ち、喜ばれる存在になれるポテンシャルがあります。ぜひ一度ご検討ください。

おくやみコーナーの設置については、政府CIOポータルで「おくやみコーナー設置ガイドライン、設置自治体支援ナビ」が提供されており、松阪市おくやみコーナーで使用しているツールも掲載されています。(https://cio.go.jp/onestop-sibousouzoku

上村 州史(うえむら しゅうし)

松阪市環境生活部戸籍住民課 おくやみコーナー担当主査

20004月松阪市役所入庁。税務課、介護保険課、障がい福祉課で窓口やケースワーカーを延べ15年間担当し、税と社会保障の実務経験を積む。

20164月に情報企画課に配属。マイナンバー情報連携や庁内のICT施策・ICTガバメント推進担当を経て、201710月より現職、戸籍住民課を中心とした窓口改革に取り組んでいる。