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2021.10.15

2021年10月号 トピックス デジタル社会の実現に向けた重点計画について

デジタル庁
戦略・組織グループ参事官(戦略企画担当)
大澤 健

1.重点計画の位置付け

 2021年6月18日、政府は、デジタル社会の実現に向けた重点計画(以下「本重点計画」という。)を閣議決定した。本重点計画は、本年9月1日のデジタル社会形成基本法の施行を見据え、同法に規定する「デジタル社会の形成に関する重点計画」に盛り込むべきと考えられる事項を示しつつ、IT基本法に規定する重点計画や官民データ活用推進基本法に規定する官民データ活用推進基本計画として策定したものである。
 本稿では、本重点計画について概説する。
 本重点計画は、毎年夏に政府が改訂を重ねてきたいわゆるIT戦略を全面的に改訂したものであり、デジタル庁を司令塔として、デジタル社会の形成に向けた官民の施策や取組を迅速かつ重点的に推進する観点から、国、地方自治体、民間をはじめとする社会全体のデジタル化について関係者が一丸となって推進すべき取組を示すことにより、デジタル社会の形成に向けた羅針盤とすることを目指したものである。
 今後、本重点計画を踏まえつつ、9月1日のデジタル庁の創設後速やかに、デジタル社会形成基本法に基づく新たな重点計画を策定することとなる(図1参照)。

図1 本重点計画と新たな重点計画の策定スケジュール

(出典)デジタル社会の実現に向けた重点計画

 

2.全体像とポイント

 本重点計画では、我が国が目指すデジタル社会の形成に向けた官民の様々な施策や取組について、3つの階層に区分したトータルデザインを示しており(図2参照)、その区分に沿って本重点計画のポイントを概説することとしたい。

 

図2 デジタル庁が目指す姿(デジタル社会の形成に向けたトータルデザイン)

(出典)デジタル社会の実現に向けた重点計画

 

(1)デジタル社会に必要な共通機能の整備・普及

 まず、デジタル社会の実現に向け、国・地方自治体・民間が国民の求めるサービスの実現を徹底するために必要となる基盤や、デジタル社会に必要な共通機能の整備・普及を図るため、次の取組を行うこととしている。

  1. 2022年度末までにマイナンバーカードがほぼ全国民に行き渡ることを目指し、マイナンバーカードの普及促進を強力に進める。そのため、健康保険証としての利用(遅くとも本年10月までに本格運用開始)や、運転免許証との一体化(2024年度末)、在留カードとの一体化(2025年度)等を推進する。また、マイナンバーを利用した情報連携、公金受取口座の登録・利用及び預貯金付番の円滑化、各種免許・国家資格等のデジタル化など、デジタル・ガバメント実行計画の工程表に沿って、マイナンバー制度を抜本的に改善する。
  2. 国として共通的な基盤・機能を提供するインフラとして、ガバメントクラウドを整備し、本年度に運用を開始する。また、ガバメントネットワークを再構築し、国の行政機関等が順次移行を図る。
  3. 地方自治体については、手続を行う国民だけではなく、行政事務を担う地方自治体の職員の負担を軽減する観点からも、基幹業務システムを利用する原則全ての地方自治体が、2025年度までに、ガバメントクラウド上に構築された標準化基準に適合した基幹業務システムへ移行する統一・標準化を目指し、情報システム標準化基本方針の策定、財政支援その他の支援の実施等に取り組む。
  4. ID・認証の基盤として、電子署名、電子委任状、商業登記電子証明書、さらにはマイナンバーカード・法人共通認証基盤(GビズID)の普及を推進するほか、マイナンバーカードの機能(電子証明書)のスマートフォンへの搭載の2022年度中の実現を図る。
  5. デジタル庁を中心に、用途に応じた適切なクラウドサービスを活用するとともに、グリーン社会の実現、事業継続計画(BCP)、セキュリティの確保の観点から、段階的にデータセンターの立地環境の最適化を図る。また、高度にセキュアで環境にも優しい分散型クラウド関連技術に関する研究開発を推進する。
  6. 社会における情報通信インフラの整備・維持・充実を図る観点から、5Gインフラの整備、5Gと交通信号機との連携によるトラステッドネットの全国展開、高速・大容量通信インフラの基盤としての光通信網の整備・維持、安全・安心で信頼できる通信インフラの確保の推進、Beyond 5Gに向けた検討等に取り組む。

(2) 徹底したUI・UXの改善と国民向けサービスの実現

 次に、国民の声を聴き、国民が求めるニーズを把握し、誰もが容易かつ迅速に行政手続等を行うことができる国民目線のサービスの実現を図るため、次の取組を行うこととしている。

  1. 国民目線での徹底したUI・UXを実現し、国民の誰にとっても、そのユーザーとしての体験価値を最大化する国民向けのサービスを実現するため、マイナポータルの抜本的改善(UIの全面的な点検・改善、全ての地方自治体による接続の実現、自動入力機能の実現等を本年度中に実施)のほか、政府ウェブサイトの標準化・統一化、「デジタル改革アイデアボックス」、「デジタル改革共創プラットフォーム」といった国民や地方自治体の声を直接聴く仕組みの積極的な活用に取り組む。
  2. オンライン申請の手続を、国民がスマートフォンで簡単に行えるようにし、ワンストップに、またワンスオンリーで完結することを目指し、子育て、介護、引越し、死亡・相続、社会保険・税手続、法人設立関係手続等についてワンストップサービスを推進するとともに、パスポート申請、在留申請、入国手続等のオンライン化を進める。
  3. さらに、国民にデジタル化の恩恵をもたらす観点から、オープンデータ・バイ・デザインによる公共データの公開・活用、すなわちオープンデータの推進を図る。
  4. デジタル庁が国・地方自治体・準公共分野等の情報システムの整備・管理の「基本方針」を策定し、情報システム整備の基本的な考え方、共通機能の要件等を提示するとともに、情報システム関連予算をデジタル庁に段階的に一括計上し、一元的なプロジェクト管理を実施する。また、デジタル庁は重要な情報システムを自ら整備・運用し、安定的・継続的な稼働を確保するために必要な検証・監査を実施する。
  5. デジタル庁が統括・監理等により国の情報システムの統合・一体化を推進するとともに、専門人材採用等により内部体制を整備し、自ら適切に推進・管理する。
  6. 独立行政法人の情報システムについて、主務大臣が独法に対して目標策定・評価を実施する際に、デジタル庁が一定の関与を行う仕組みを設定する。
  7. 裁判関連手続や警察業務のデジタル化など、国や地方自治体の手続等の更なるデジタル化を推進する。

<準公共分野・相互連携分野>

 生活に密接に関連しているため国民から期待が高く、国による関与(予算措置等)が大きく、他の分野への波及効果が大きい分野として、7分野を「準公共分野」として指定する。
 また、業種を超えた情報システム間の相互の連携が重要な分野として、3分野を「相互連携分野」として指定する。
 これらの分野については、本年度中に、社会課題の抽出や実現すべきサービスの設定、必要なデータ標準の策定やデータ取扱いルール・システムの整備、運用責任者の特定やビジネスモデルの具体化など、デジタル化やデータ連携に向けた取組を一気通貫で支援するためのプログラムの創設について検討する。

 

(準公共分野)

 

(相互連携分野)

 

(3)包括的データ戦略

 最後に、デジタル社会において最も基礎的な構成要素となるデータの官民における利活用を推進するため、包括的データ戦略として、次の取組を行うこととしている。

  1. データに対する信頼を確保するため、トラストを担保する基盤を確立し、2020年代早期の実装を目指す。
  2. データ連携に必要な共通ルール(データ流通を促進・阻害要因を払拭するためのルール等)の具体化、ツール開発を行い、重点的に取り組む分野(健康・医療・介護、教育、防災等)ごとにプラットフォームを構築する。また、データにアクセスし利用する権利などを設定し、その取引を仲介することでデータ流通の活性化等を図るためのデータ取引市場の検討を行う。さらに、国民起点でのサービス設計に資する観点から、PDS(Personal Data Store)・情報銀行によるデータの移転・利用の促進を図る。
  3. 正確性や最新性が確保された社会の基盤となるデータベース(ベース・レジストリ)については、本年5月に指定したデータ等について、一覧性・検索性のあるカタログサイトと連携するとともに、整備に向けた課題の抽出と解決の方向性を検討する。また、オープンデータの機械判読性の強化を図る。
  4. 通信インフラに加え、計算インフラ・半導体、データの取扱いルールなどの一体的整備を図る。
  5. 理念を共有する国との連携や様々なフォーラムを通じ、貿易、プライバシー、セキュリティ、トラスト基盤、データ利活用等の観点からDFFT(信頼性のある自由なデータ流通)の推進を図る。

 

3.直面する課題と対応策

 本重点計画では、デジタル化を推進するに当たって直面する課題と対応策についても具体的な取組を盛り込んでいる。

 

(1)官民を挙げたデジタル人材の育成・確保

 まず、デジタル人材の育成・確保については、国民全体のデジタルリテラシーの向上と専門人材の育成・確保の両面から、次の取組を行うこととしている。

  1. 全ての国民がデジタルリテラシーを向上させることができるよう、小学校におけるプログラミング教育の必修化等の新学習指導要領に基づく取組を着実に実施する。また、情報モラル教育や大学におけるICTスキル習得等の実践的なプログラム、教育訓練給付におけるIT分野の講座の充実を図る。
  2. デジタル改革を牽引する人材を確保するため、ITスキルに係る民間の評価基準を活用して採用を円滑に進める等、優秀な人材が民間、自治体、政府を行き来しながらキャリアを積める環境の整備を進める。また、デジタル庁を中心に各府省において、2022年度以降、新たに設けられる国家公務員採用総合職試験のデジタル区分等の合格者を積極的に採用する。併せて、研修プログラムの強化など国・地方の職員のデジタルに関する専門性・知見の向上を図る。さらに、大学等での数理・データサイエンス・AI教育の充実、IPAでのアーキテクチャ設計の専門家やサイバーセキュリティ人材の育成を図る。

(2)新技術を活用するための調達・規制の改革

 また、システムの整備・運用に当たって最新のテクノロジーを大胆に導入する等の観点から、次の取組を行うこととしている。

  1. システムの整備・運用に当たって最新のテクノロジーを大胆に導入する。アジャイル開発等の新たな手法や、スタートアップをはじめ革新的な技術を有する事業者からの調達等をより円滑に実施するための方法を検討し、効果が認められた場合には、各府省への横展開を進める。
  2. デジタル化の効果を最大限発揮するため、書面・押印・対面見直し、オンライン利用の促進、キャッシュレス化の推進、アジャイル型システム開発に係るルール整備、デジタル時代におけるコンテンツの円滑な流通に向けた制度整備など、規制の見直しを行う。

(3)アクセシビリティの確保

 さらに、「誰一人取り残さない」デジタル化を進めていくため、ユニバーサルデザインの考え方の下、アクセシビリティを確保するため、次の取組を行うこととしている。

  1. どこにいても確実に災害情報を得られるような環境を整備するため、引き続き、離島も含めた全国的な光ファイバ整備を推進する。
  2. 聴覚障害者向け会議支援システムのような利便の増進に資する情報通信機器・サービスの研究開発の推進・普及を図る。
  3. 身近な場所で身近な人からICT機器等の利用方法を学べる環境作りを推進する「デジタル活用支援」の充実を図る。また、障害者に対するICT機器の紹介・貸出・利用に係る相談等を行う総合的なサービス拠点(サポートセンター)の設置を支援する。
  4. 生活困窮者のデジタル利用等に関する実態を把握し、好事例の収集等を行うとともに、支援策を検討する。また、全国の学校におけるICT環境の整備とICT支援人材の学校への配置の促進、低所得世帯向けの通信環境の整備を図る。
  5. 市区町村窓口に配備したマイナポータル利用のためのタブレット端末について、抜本的な用途拡大や運用ルール改善等を検討・実施する。また、郵便局等について、市区町村窓口以外のアクセスポイントとしての可能性を検討する。

(4)安全・安心の確保

  1. サイバーセキュリティの確保については、デジタル庁は、内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)とも連携して、情報システムに関する整備方針においてサイバーセキュリティについての基本的な方針を示し、情報システムの設計・開発段階を含めてセキュリティの強化を図る。また、デジタル庁にセキュリティの専門チームを置き、デジタル庁が整備・運用するシステムを中心に検証・監査を実施するとともに、NISCがその体制を強化しつつ、デジタル庁が整備・運用するシステムを含めて国の行政機関等のシステムに対するセキュリティ監査等を行う。
  2. 個人情報の保護については、個人情報の有用性に配慮しつつ、個人の権利利益を保護するため、自治体との丁寧なコミュニケーションを図りつつ、政令・規則・ガイドラインの整備を進める。また、2020年及び2021年改正法によって拡大される事務・権限を適切に執行するため、個人情報保護委員会の体制の強化を図る。
  3. 情報通信技術を用いた犯罪の防止については、サイバー犯罪の取締りへの技術支援・解析能力の向上等に取り組む。
  4. 情報通信ネットワークの災害対策については、通信事業者によるネットワークの冗長性の確保のための環境の整備等を推進する。

(5)研究開発・実証の推進

  1. 高度情報通信環境の普及促進に向けた研究開発・実証については、Beyond 5Gの実現に向け、情報通信研究機構(NICT)の研究開発基金による支援やテストベッド等の共用施設・設備を整備・活用する。
  2. データ活用を支える高度コンピューティング研究開発・実証については、高速化と低消費電力化を両立する次世代コンピューティング技術(量子コンピュータ等)の技術開発に取り組む。

 

4.今後の展望

 今後、本重点計画も踏まえ、政府として迅速かつ重点的にデジタル改革を推進していく予定であり、関係行政機関等における取組の推進や協力・連携した対応が図られることが望まれる。
 政府としては、今後、本重点計画を踏まえつつ、9月1日のデジタル庁の創設後遅くとも本年内には、デジタル社会形成基本法に基づく新たな重点計画を策定することとしており、その内容にも注目して頂きたい。