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2023.08.10

2023年8月号 連載企画 行政情報化新時代 no.62 地方自治体におけるAI活用の可能性と課題

武蔵大学 社会学部
教授
庄司 昌彦

 1.はじめに

 AI(人工知能)の進化と普及は、加速し続けている。特に最近は、訓練データの規則性や構造を学習し、それに基づいて新しいテキストや画像などを生成する「生成AI」への注目が高まっている。2023年3月、ビル・ゲイツ(2023)は、「AIは携帯電話やインターネットと同様に革命的」と生成AIへの熱狂を一段と後押しし、他方、イーロン・マスクなど一部の有識者たち(2023)は「安全性やガバナンスに関する協議が必要である」として大規模AI訓練の一時停止を世界に呼びかけた。
 こうした生成AIの進化と普及は公共領域にも及び、特に地方自治体などの行政にも新たな可能性と課題をもたらしている。神奈川県横須賀市などでは先駆的な活用が始まっており、また多くの自治体で生成AIの活用ルールが議論・作成されている。また鳥取県の平井知事が、行政におけるChatGPTの活用について「ちゃんと地道(ジーミーチー)にやった方がよっぽど民主的で、地方自治の本旨が生かされる」「『苦労しなくても、ちゃんと答えが出てくるじゃないか』という思い込みにつながりかねません」などと述べ、話題を呼んだ。しかし苦労をするかどうかということよりも、いかに適切なアウトプットを出すかということの方が重要だろう。AIを上手に活用することによって、行政サービスはより効率的かつ効果的になるはずである。一方、AIの活用は新たな課題も生んでいる。