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2023.06.10

2023年6月号 研究員コラム 「行政&情報システム」における編集業務DXの取組

一般社団法人行政情報システム研究所
主任研究員 平野 隆朗

1.背景と課題

 行政情報システム研究所の機関誌「行政&情報システム」(以下「弊誌」)は、昭和39年に「行政&ADP」として創刊して以来、一貫してデジタル・ガバメントに関する内外の政策や取組、最新の技術動向等を紹介してきました。デジタル・ガバメントを専門に取り扱う唯一の専門誌として、国の行政機関をはじめ、地方公共団体、情報化関連団体、企業、大学など多くの方にお読みいただいています。
 弊誌を含めた情報メディアは、意識的にコンテンツ構成やデザイン、情報発信方法などを時代に合わせて見直し、またコンテンツの質を高めていかないと、加速度的に変化する世の中の流れに対応できなくなっていきます。こうした問題意識の下、弊誌は2022年度に誌面デザインのリニューアルや弊誌のPDFファイルのアクセシビリティ向上施策などに取り組むこととしました。
 本稿では、これらの取組のうち、「編集等業務のデジタル化」と「アクセシビリティ向上施策」(以下「編集等業務」)についてご紹介します。伝統的な紙の刊行物の業務のデジタル化は、行政サービスのデジタル化にも通じるところがあり、読者の皆様にとっても参考になるのではと考えたためです。

 

2.取組内容

(1)編集等業務のデジタル化の実施

 前章で述べたコンテンツの質の向上を図るためには、それに充てるマンパワーを確保する必要があります。しかしながら、弊誌編集部は少人数体制で、これまでの業務のやり方ではそれをねん出することは困難でした。また、弊誌編集部の以前からの課題として、編集に係る業務を効率化し持続可能性を高める必要がありました。そこで、このたび業務の見直しに着手することにした次第です。
 編集等業務の見直しとして最初に実施したのは現状の業務の可視化でした。これまでは一部のベテラン研究員の経験や知識に頼りがちだった業務を棚卸しし、リストや業務フローとして可視化しました。可視化するにあたっては、編集部の誰が見ても作業内容が理解できるように、細かな作業まで丁寧に棚卸しするとともに、可視化したアウトプットを編集部内で確認し、編集部全員が理解できるようにしました。
 次に、可視化した編集等業務をもとに、業務の各工程に存在していた課題を、潜在的なものも含めて洗い出し、それぞれの課題に対する見直し案を導出しました(図表1)。これまで漠然と認識する程度だった課題を可視化することにより、優先順位や対処案の編集関係者全体での議論が可能となりました。

 

図表1 可視化した編集等業務と課題、見直し案の検討(一部)

(出典)行政情報システム研究所提供

 

 検討にあたって重要視したのは、以下の2点を通じた作業の質の向上と省力化です。

 ① 外部の専門スキルやリソースを活用する
 ② 自動化・効率化を推進する

 ①については、例えばこれまでは文字の揺らぎや誤字確認などの文字校正については一部の記事のみ印刷会社の校正専門組織に委託していましたが、委託範囲を誌面全体に拡大するなどの見直しを行いました。
 ②については、これまで記事の校正作業は、著者や編集部が印刷された紙のゲラ1を確認し、赤ペンで修正指示を直接手書きで書き込むなど、編集業務の随所にアナログ的な手順が残っていました。これらにオンライン校正ツールを用いることで、コミュニケーションとオペレーションのデジタル化を進めました。
 オンライン校正ツールは、弊誌のレイアウト組みや印刷業務を請け負っている印刷会社で実績のあった「ProofHQ」というツールを採用しました(図表2)。これは、クラウド上に校正対象のPDFファイルを登録し、著者と編集部、印刷会社がそれぞれ同一のPDFファイルに対し修正箇所やコメントを付記することができるツールです。本ツールを活用することにより、オンラインならではの以下のようなメリットを享受できるようになりました。

 ・印刷されたゲラに対する手書きでの修正指示の書き込みが不要
 ・校正の進捗度合いをオンラインでリアルタイムに確認することが可能
 ・修正指示や修正内容を関係者全員で共有することが可能
 ・掲載する図表の差し替え指示が容易
 ・前版での修正指示や修正内容を確認することが可能

 また、ProofHQはクラウドで動作するため、自PCにソフトウェア等のインストール等を行う必要もなく、導入にあたってのハードルもありませんでした。
 一方で、各著者のPC環境によってはProofHQにアクセスできない場合もあります。その場合はProofHQの利用に固執せず、これまでと同様、ゲラのPDFファイルに直接修正指示を書き込んで返信していただくなど、著者に合わせたアナログな対応も受け付けるようにしました。あくまでもProofHQは省力化のためのツールであり、本来の目的である校正作業がツールによって足かせにならないようにしました。
 これらの取組の結果、専門誌としての品質の向上を図りつつ、コンテンツの質を更に向上させるためのマンパワーを確保することができたと考えています。

 

図表2 オンライン校正ツール ProofHQ

(出典)行政情報システム研究所提供

 

(2)アクセシビリティ向上施策の対応

 (1)で紹介した編集等業務の見直しが軌道に乗り、2022年10月号からの誌面新デザインへの移行も無事に終えた編集部では、コンテンツの質の向上に向けた取組の一環として、アクセシビリティの向上に挑戦することにしました。具体的には、2022年12月号の特集「インクルーシブなデジタル環境に向けて」と連動し、特集のうち巻頭記事のPDFファイルを対象として、音声読み上げソフト(スクリーンリーダー)による読み上げに対応させることにしました。
 検討にあたっては、この分野の有識者であり、上記特集号でも寄稿いただいたデジタル庁アクセシビリティアナリスト・中野信氏に、PDFファイルのアクセシビリティ向上のためにはどのような作業が必要かを相談しました。中野氏によると、一般的にPDFファイルは大部分を音声読み上げソフトで過不足なく読み上げることができるが、「写真やイラストなどのコンテンツにテキスト情報を付与する」「見た目と読み上げ順を合わせる(読み上げ順を指定する)」「見出しなど、強調や装飾している箇所が読み上げでも分かるようにする(タグ付けする)」などの対応が必要となる場合が多いとのことでした。
 そこで、それらに対応するために、(1)で可視化した編集等業務の工程ごとに、どんな作業が必要か、またその作業を実施するうえでどんな不明点・懸念点があるかを明らかにしていきました。例えば、誌面に図やイラストを掲載する場合、音声読み上げソフトに対応するためには、その図には何が書かれているかを説明する代替テキストを埋め込む必要があります。そのため、著者からは入稿時に図の提供と合わせて代替テキストを提供していただく必要が生じるほか、レイアウト組みを行う印刷会社はゲラ作成時に代替テキストが本文中のどこから引用されているかを示すためのアンカーを打つなどの対応が必要となります。このように、「誰が」「どのタイミングで」「どのような」対応を行う必要があるのかを一覧表として整理しました(図表3)。

 

図表3 「行政&情報システム」PDFファイルのアクセシビリティ向上に向けた施策(一部)


(出典)行政情報システム研究所提供

 

 その結果、2022年12月号の特集記事の巻頭記事について、音声読み上げソフトに対応したPDFファイルとして公開することができ2、またそのための作業手順も確立することができました。今後は徐々にこうしたコンテンツを拡充していきたいと考えています。

1 著者から入稿していただいた原稿を元に誌面レイアウト組みを行った後の、試し刷りのこと。
2 「行政サービスのアクセシビリティ」(デジタル庁 伊敷政英氏、中野信氏、2022年12月号特集),
https://www.iais.or.jp/articles/articlesa/20221210/202212_01/

 

3.取組の振り返りと今後の展望

 ここまで、弊誌における編集業務DXの取組について紹介してきました。いずれの取組も、まずは作業の全体像を可視化したうえで、その中に含まれている課題を発見し、それらに対してデジタル・アナログの手段を問わず、どうすれば解決に導くことができるか、というアプローチで取り組んできました。可視化してみて初めて浮き彫りになった課題も多く、また可視化することにより組織全体で対応策を議論することも容易となるなど、可視化がDXにとっていかに重要であるかを実感できた取組でした。
 弊誌のコンテンツ改善は、今後も継続します。これらについても、一定の成果が上がった時点で読者の皆様にご紹介していきたいと思います。