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2018.02.09

2018年02月号連載 研究員コラム ヨーロッパのデジタル単一市場実現に向けた電子政府閣僚宣言 

一般社団法人行政情報システム研究所
客員研究員 関口 忠

電子政府閣僚宣言

 2017106日にエストニアのタリンでEUEFTA132か国からなる電子政府関係閣僚が集まり、電子政府に関する閣僚宣言(タリン宣言)が満場一致で承認され、署名された2。今後、署名国はEU電子政府行動計画2016-20203の原則に従い、2018年から2022年までの5年間で以下の目標に向けて取り組むこととなる。また、これらの目標に対して、署名国で取り組む内容及びEU機関に対して要請する内容についても盛り込まれた。

① デジタル・バイ・デフォルト、インクルージョン(誰もが受け入れられること)、アクセシビリティの原則

・ 費用対効果とユーザ中心主義の観点を踏まえ、デジタルでの利用が適切である場合、市民や企業がデジタルで対話することを望めばそれを可能にする。

・ 後述する附属書に従い、ユーザエクスペリエンス(ユーザ体験)の一貫した品質を保証する。

・ ヨーロッパの市民や企業が行政とデジタルで対話する取組を増やす。

②ワンスオンリーの原則

・ 主要な公共サービスについて、同じ情報を一度だけ提供すれば良いようにする。

③信頼とセキュリティの原則

・ リスクベースのアプローチや最先端のソリューションの使用など、行政サービスや行政システムを設計する際に、情報セキュリティとプライバシーのニーズを考慮する。

・ 適切なセキュリティレベルを確保しつつ、よりユーザフレンドリで、特にモバイルプラットフォームに適したeID(電子認証・署名)の普及を促進する。

④開示性と透明性の原則

・ 市民や企業が、少なくとも人、企業、車両、免許証、建物、拠点、道路などの基本情報や類似の情報を含むデータベースにおいて、行政が保有するパーソナルデータをより良く管理できるようにする。

⑤インターオペラビリティ・バイ・デフォルトの原則

・ 欧州相互運用性フレームワーク(EIF4に基づく国の相互運用性の枠組みを策定し、各国の基準を尊重しつつ、国境を越えたデジタル公共サービスについてはEIFを遵守する。

今回の宣言は各国の閣僚級が集まり、署名されたことで強力な政治的コミットメントを得られたことが大きい。これにより署名国において行動計画に示された原則が一貫して行われることで、ヨーロッパにおけるデジタル単一市場の実現を目指すことができるであろう。なお、各国における進捗状況については、毎年発表される予定であり、実現に向けたフォローアップも期待されるところである。

【注】

1 欧州自由貿易地域(アイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェー、スイスの4か国)

2 https://ec.europa.eu/digital-single-market/en/news/ministerial-declaration-egovernment-tallinn-declaration

3 拙稿, EUにおける新たな電子政府の取り組み」『行政&情報システム』20172月号が参考となる。行動計画では7項目あるが5項目に集約されている。

4 拙稿, 「ヨーロッパにおける新たな相互運用性の枠組み」『行政&情報システム』20176月号が参考となる。

 

ユーザエクスペリエンス向上の取り組み

 電子政府閣僚宣言において、行政との対話の際の市民や企業のユーザエクスペリエンス向上のための具体的な取り組みとして、「デジタル公共サービスの設計と提供のためのユーザ中心主義の原則」が附属書として用意され、閣僚宣言に盛り込まれた。この原則では市民や企業がデジタル公共サービスに期待することとして、以下の8つの原則が挙げられている。

①デジタル対話

・行政とデジタルで対話する選択肢を持つ。

②アクセシビリティ、セキュリティ、可用性、ユーザビリティの確保

・ 提供されるサービスが、見つけやすさを含め分かりやすくかつ安全であり、必要に応じて適切な支援が提供され、差別されない方法で全ての人が利用できる。

・ サービス導入の際にユニバーサルデザインの原則が適用され、読みやすく、理解しやすいウェブサイトとなっている。

・ デジタルによる公共サービスの信頼性が確保され、明確かつ一貫した方法で認識できる。

③管理負担の軽減

・ 市民や企業の行政手続の負担を軽減する努力として、行政は、デジタルでのプロセスとサービスを最適化し、パーソナライズ化されたプロアクティブなサービスを提供する。

・ 行政は、データ保護の規則や規制に従って、2回以上市民や企業に同じ情報の提供を求めない。

④公共サービスのデジタル配信

・ 特に利用者の要請に応じた必要な証明の提供を含めて、公共サービスは可能な限りオンラインで完全に取り扱う必要がある。

・ 市民や企業は、サービスの提供状況をオンラインで確認できる。

⑤市民参加

・ デジタル手段により意見を表明し、公共サービスの創造に関与することで、より良いデジタル公共サービスが提供されることを可能にする。

⑥デジタルサービス利用のインセンティブ

・ より高い信頼性、スピード、効果、コスト削減などの利用者のメリットを拡大し促進できるよう、行政は、デジタルサービスの使用に当たっての障壁を効果的に除去する。

⑦パーソナルデータとプライバシーの保護

・ パーソナルデータの取り扱いは、EUと国レベルでの一般的なデータ保護規制とプライバシー要件が尊重される。

⑧救済と苦情申立ての仕組み

・ 救済の仕組みがオンラインで利用可能であり、市民や企業は、オンラインで苦情申立て手続きを行う一方で、選択した他の利用可能なチャネルでもアクセスできる。

附属書にこれらの取り組みが示されたことでヨーロッパの各国間におけるユーザエクスペリエンスの共通認識ができたと言える。ユーザエクスペリエンス全体を最良とすることを目標にしてサービス全体を設計する考え方については、国内でも「デジタル・ガバメント実行計画」の中で、サービス設計12箇条に沿って利用者中心の視点からサービス設計・構築を行うこととなったことからも、デジタル・ガバメント実現においては欠かせないキーワードであろう。