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2020.12.10

2020年12月号連載企画 海外公共分野ICT化の潮流 No.21 デンマーク政府におけるアジャイル開発手法の活用

ロスキレ大学
准教授 安岡 美佳

デンマークでは、2020年現在、公共ITプロジェクトの62%ほどがアジャイル開発方法で進められている。国のICT基盤で陳腐化した技術を使うことにならないように、その時の最善の方法を取ることができるように、国全体がゆるいアジャイル開発の枠組みに移行しつつあるのである。「ゆるいアジャイル開発」としたのは、デンマーク政府のアジャイル開発へのアプローチは、おそらく多くの開発者が想像する以上に非常にフレキシブルであるためだ。例えば、デンマークの積極的なアジャイル開発の採用において、最初から最後までアジャイル開発が取られることは稀で、アジャイル手法とウォーターフォールのミックスメソッドで進められるのが定石となっている。
デンマークにおいてアジャイル開発はここ10年ほど積極的に取り組まれてきたことから、公共機関でIT開発をアジャイルで進めるために重要な要素が見えてきている。2010年あたりから、デンマークの一部省庁で積極的に導入され始めたアジャイル開発手法は、公共機関独特の環境の中で紆余曲折を経て、法的準拠・プロセス管理・予算確保・ベンダーや利害関係者との協力体制などのベストプラクティスが模索されてきた。その結果、「公共機関でアジャイル開発手法を取り入れるための指南書(※1)」がまとめられ、2019年4月に発表されるまでになった。
現在、デンマークでは、アジャイル開発手法は、公共IT開発において義務化されているわけではない。デンマークは、開発指針の枠組みを定めているが、その制限内であれば、プロジェクト管理者は、それぞれのプロジェクト毎、それぞれの政府組織の意向やプロジェクトの特性によって、比較的自由に手法を選ぶことができる。様々なアプローチの中の一つがアジャイル開発である。それでも、多くのアジャイルプロジェクトを経験している組織は、新しいプロジェクトもアジャイル型で進め、今まで経験がない組織は、他組織の成功体験を見聞きすることで、新しくアジャイル手法を取り入れたりしている。
本稿では、デンマークの公共ITプロジェクトにおいて、どのようにアジャイル開発が取り入れられ実践されてきたのか、公共ITプロジェクトでアジャイル開発に取り組む際に不可欠な要素を、事例から導出し、具体例を交え紹介する。最後に、今後の公共機関におけるIT開発について考察する。

(※1)Statens it-projektmodel, Digitaliseringsstyrelsen, Vejledning om anvendelse af agile udviklingsmetoder, ver.1., 2019.April.