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2026.08.03

2026年8月号 連載企画 北欧諸国のイノベーショントレンドno.17 北欧でイノベーションが創発し実装される仕組み 〜最先端テクノロジーによる「持たざる国」の量子技術実装戦略〜

フィンランド大使館 商務部
戦略アドバイザー&上席商務官
中島 健祐

量子など先端技術の総合安全保障へのシームレスな統合

 欧州の東端で巨大な隣国と1,340 kmの長い国境を接するフィンランドにとって、イノベーションは単なる経済成長の手段ではなく、「国家の生存戦略」そのものである。官民、そして市民社会が一体となって国を守る「総合安全保障」の思想のもと、先端技術は国家のレジリエンスを高めるためにシームレスに統合されている。通信の防衛では耐量子計算機暗号(PQC)の早期実装によるサイバー・通信網の要塞化を強化する。宇宙・衛星×デジタル防衛(ICEYE社・Kuva Space社)は巨大なロケットを自造し競争が激しいアップストリーム領域に注力するのではなく、「小型化と高度な解析ソフトウェア」で宇宙のダウンストリーム領域で差別化を図り、世界のインテリジェンスの主導権を握る。夜間や悪天候でも地表を透過して「形状や動き」を捉えるICEYE社の小型SAR衛星と、独自の光学技術とAIで肉眼では見えない波長を分解し、対象物の「材質・組成・状態」まで瞬時に見抜くKuva Space社の超小型ハイパースペクトル衛星(敵国の戦車やミサイル発射台など宇宙から塗装や材質から兵器の種類を見極めることが出来、AI分析により敵国の戦術動向が把握出来る)。この「形状を見極める眼」と「組成を見抜く眼」の多層的な掛け合わせが世界の安全保障の意思決定を支えている。デジタルツイン×HPCは物理的な試作やインフラ建設を行う前に、仮想空間で完璧なシミュレーションを行う。ここには、欧州最速クラスのスーパーコンピュータ「LUMI」や、将来的な量子シミュレーション環境がダイレクトに直結している。大国がパワーロジックと巨額の補助金で自国ファーストのサプライチェーンを囲い込む中、フィンランドは技術そのものを防衛の駒とすることで、外部環境の変化に揺るがない強靭な国家体制を築いている。

 

教育とエコシステムが駆動する「持続的な発展の仕組み」

 この洗練された国家戦略を支えて持続させているのが「教育」と「開かれたエコシステム」の融合である。フィンランドは、質の高い高等教育と、Institute QやBusiness Finlandのような産学官の強固なプラットフォームを通じて、最先端技術に対応する優秀な若手人材を絶え間なく育成&輩出している。自国の中に閉じこもるのではなく、徹底的にグローバル市場へと開かれ、世界から「最も信頼されるパートナー」としてのポジションを確立すること。これにより地政学的なパラダイムシフトが起きようとも、若手人材の活力と高度な知財によって、自国を「世界のハイテクチェーンに不可欠な存在」であり続けさせている。資源が極めて乏しく、東アジアの緊張やサプライチェーンの分断など予測不可能な地政学的リスクに直面している日本にとって、過去のレガシーを無駄にせず、教育と官民協調によってイノベーションを「戦略的不可欠性」へと昇華させるフィンランドの姿は、未来を生き抜くための最も洗練された戦略モデルの一つなのである。

 

参考:東陽テクニカ社は本年4月IQM Computers社の超伝導量子コンピュータ(Radiance20)を日本企業として初めて自社保有する契約をIQM Computers社と締結した。東陽テクニカ社はIQM Computers社の量子戦略アドバイザーとして、そして量子コンピュータの実機運用、HPC & AIとのハイブリッド統合システム開発、産業におけるユースケース開発を行う国内先端量子技術拠点を構築する計画である。

 

中島 健祐(なかじま けんすけ)
フィンランド大使館商務部 戦略アドバイザー&上席商務官
シンクタンクを経て参画、安全保障、防衛、量子コンピュータ、宇宙、AGI、XR(メタバース)、ドローンなど先端技術に関する戦略アドバイスを提供。イノベーションにより社会システム全般の価値創出と成長戦略策定支援が専門。

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