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2019.06.10

2019年06月号連載企画 行政におけるウェルビーイングの設計 No.4 ペインマップの社会的な射程

早稲田大学
准教授 ドミニク・チェン

前回は、偏愛やペイン(苦手とすること)を共有するワークショップを通してアイデアを構想に変換していく過程を見てきました。そこでは、参加者たちの極私的な関心である偏愛やペインを交換することで、共感と相互理解の契機が生まれます。そして興味深いことに、偏愛を交換する時よりも、ペインについて話し合う時のほうが、共感の度合いも深く、出てくるアイデアの鋭さも増します。ペインとはつまり悩みや苦しみのことですが、そのようなネガティブな感情と接するほうが、聞く方も、話す方も当事者意識が高まる効果があるようです。

これは医療的なメタファーでいえば、病気のようなマイナスの状態を治して0にしようとする動きです。他方で偏愛について考えるというのは、病気を治すのではなく、よりよい状態を目指すというウェルビーイングの考え方に近く、0からプラスの状態に向かう動きに相当するといえるでしょう。若い学生から中高年の人まで、さまざまな年代の方々と偏愛マップとペインマップのワークショップを行ってきた印象としては、年代が上の人同士の方が偏愛マップの話で盛り上がり、若い人ほどペインマップで会話が弾むように思えます。これは第一には、経験値が豊富な人ほど偏愛の対象の量と質の両方が高い傾向にあることが挙げられるでしょう。そして、もしかしたら若い人はペインという「弱さ」について話し合う機会が少なかったり、そのためのスキルも発達させていないということがあるかもしれません。