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2018.08.10

2018年08月号連載企画 民間企業におけるICT活用事例 No.31 スマートコンストラクションで「未来の現場」を想像 先進のICTによりお客様の現場をお客様とともに革新

コマツ
執行役員
スマートコンストラクション推進本部 本部長
四家 千佳史

1.ICTにいち早く着目し世界の現場に新しい価値を提供

建設・鉱山機械業界において、連結売上高で世界第2位のグローバル企業となったコマツの歴史は1世紀近く前に遡ります。コマツは1921年に石川県小松市の小松鉄工所を出身母体として誕生しました。「海外への雄飛」、「品質第一」、「技術革新」、「人材育成」という創業の精神のもと、1943年に初の国産化に成功したブルドーザーをはじめ油圧ショベル、ダンプトラックなど幅広い機種を自社で開発・生産を行う総合建設・鉱山機械メーカーとして事業を展開しています。

コマツの成長の礎を築いたのはブルドーザー事業でした。戦後の復興需要や高度成長期の土木事業拡大のニーズに応える中で、「ブルドーザーのコマツ」と呼ばれるようになり日本の都市基盤整備に重要な役割を担ってきました。1955年に海外進出を開始して以来、海外で需要の高い大型ブルドーザーの信頼性と品質の向上を図るなどして輸出の拡大を図り、現在、売上比率の80%を海外市場が占めています。

世界の“GEMBA(現場)にこれまでなかった新しい価値を提供することが、コマツの成長戦略の核となる考え方です。イノベーションを起こすために、コマツはICTの重要性にいち早く着目し研究・開発に取り組んできました。IoTInternet of Things)という言葉が広く知られるようになる遥か以前の1999年に、GPSGlobal Positioning System、全地球測位システム)による位置情報や車両情報などを収集し常時監視、遠隔制御する機械稼働管理システム「コムトラックス」を開発。2001年より標準装備化を実現し現在では50万台以上の建機の稼働状況を可視化しています。

2008年には過酷な環境にある鉱山現場の安全性や生産性を向上するため、高精度GPSや障害物検知センサー等を用いた「無人ダンプトラック運行システム」を市場に送り出しました。さらに2013年には労働者不足やオペレーターの高齢化、安全やコスト・工期に関わる現場の課題解決を目指し、自動制御機能を組み込んだICT建設機械(以下、ICT建機)を開発しリリースしました。

例えば掘削作業から整地の仕上げ作業までの全てのブレード(排土板)の操作を自動で制御する機能を搭載した「ICTブルドーザー」では作業員は車両を走らせるだけで平らに整地することができます。またGNSS(グローバル衛星測位システム)に位置情報とオペレーターがモニターに映し出される3D設計データを照合しながらレバーを操作しアームを制御する「ICT油圧ショベル」は、最大伸長10メートルにもなる作業機先端にある刃先を、ICT制御技術により誤差20ミリ〜30ミリの精度で施工することが可能です。ICT建機の導入により、経験の浅いオペレーターでも施工が行えるため人員不足への対応や工機の短縮に加え、事故のリスク軽減による建機周辺に配置する補助作業員の削減などの効果を期待できます。

2016年度に国土交通省よりICTを活用し建設現場の生産性向上を図る「i-Construction」の推進が発表されて以来、ICT活用工事への注目が集まる中、全国約5,000カ所以上の建設現場でコマツのICT建機が活躍しています。ICT建機は、販売だけでなくコスト最適化の観点から必要なときに必要な期間だけ利用できるように、グループ会社のコマツカスタマーサポートを通して提供しています。しかし現場の目線に立つと、ICT建機だけでは生産性向上の実現に限界がありました。

2.建設現場全体をICTで有機的につなぐ「スマートコンストラクション」

国内の建設業界では、今後10年間で技能労働者の1/3にあたる約110万人が高齢化等により離職すると想定されており※1、労働力不足は大きな社会課題となっています。また建設会社の約94%を占める社員10名程度の中小事業者の生産性向上も急務です。ICT建機の本格導入に向けたトライアルにおいて、ある現場でICT建機は作業効率を高めていたのですが、土を運ぶダンプトラックの手配がつかず作業が止まっているのを目の当たりにしました。コマツの視点では自社のICT建機が動くシーンで効率化を実現していました。しかし、お客様の視点に立つと部分最適に過ぎなかったのです。

ICT建機の本格導入に向けた課題について社長(代表取締役社長 兼 CEO 大橋 徹二)に報告する際、「ICT建機で現場の課題を解決できる工程はほんの一部でした。お客様の生産性を上げるためには、ICTを活用し施工作業の全工程を一元管理し全体最適化を図ることが必要です」と伝えたところ、「これをダントツソリューションのコンセプトにしよう」と社長から話がありました。

コマツのイノベーションによる成長戦略では、商品からサービス、ソリューションへと事業領域を拡大していく中で、他社が数年で追いつけない優れた特長を持つ「ダントツ」なものを開発し市場に導入していくことを推進力としています。建設機械の分野では、まず品質と性能を徹底追求し「ダントツ商品」をつくり、次にICTを活用し機械の見える化を図る「ダントツサービス」を提供してきました。ICT建機の次の展開として取り組んだのが、20151月に発表したダントツソリューションの1つ「スマートコンストラクション」でした。サービス内容としては、新たに開発したクラウドプラットフォーム「コムコネクト」(現LANDLOG)に①現況の高精度測量、②施工完成図面の3次元化、③変動要因の調査・解析、④施工計画の作成、⑤ICT建機による高度に知能化された施工、完工後の施工データ活用の6つのプロセスに関わるあらゆる情報を収集・蓄積し、それらを活用したソリューションアプリを提供していきます。建設現場全体をICTで有機的につなぐことにより生産性が高く安全でスマートな「未来の現場」を創造していくスマートコンストラクション。そのビジネスは既存の事業と同じ枠では捉えられないため、社長直轄のスマートコンストラクション推進本部を新設しました。

ソリューションアプリを開発するスマートコンストラクションでは、お客様の現場に立ち、お客様の目線で課題を見つけることがすべての起点となります。スマートコンストラクション推進本部とともに、現場にアクセスするラストワンマイルを担うコマツカスタマーサポートのスタッフがお客様の現場で課題を見つけるミッションを果たしています。スタート当初、社長から「コマツだけですべての課題を解決できないとお客様が思うのは当然のこと。コマツの商品やサービスの視点で現場を見るのではなく、お客様側に立って考えてみよう」とのアドバイスを受けました

3.5,000現場から週次であがってくる様々な課題の解決に取り組む

コマツのブランディングでは営業を中心にお客様と目標を共有し、その目標を達成するための手段や当社の資源を体系立てて考えて活動することを徹底しています。長年にわたる現場重視の文化という下地があるため、お客様の現場での課題の把握も特別なことではありません。お客様の場合、課題がわかっていても「昔からこうだった」という思いから諦めてしまうケースも多くあります。違う目線で見ると、現場は改善の宝庫です。

スマートコンストラクションがスタートして3年が経過した20183月までに5,000現場以上にサービスを導入しました。通常、現場監督が一生涯で立てるのは50現場程ですから、100人分の現場を経験してきたことになります。当初、お客様と一緒に見つけた課題が現場から毎日あがってきていましたが、それでは整理しきれないため今は週次で課題を収集しています。

課題には必要性や効果などの観点から優先順位を付けています。前述したダンプトラックの土の運搬は、多くの現場で生産性向上のボトルネックとなっていたためいち早く取り組みました。ダンプトラックへの積込土量を最大化するために、積込土量をリアルタイムに計量しタブレットで確認できる「ペイドロメータ」や、ダンプトラックの位置情報を一元管理しダンプトラック運転手、現場監督、ICT建機のオペレーターの3者で情報を共有できる「TRUCKVISION」を開発し提供しました(図表3参照)。将来的には、土を運搬した後に空で戻ってくるのではなく、近接する現場の土を運搬するダンプトラック版シェアリングサービスの実現も可能です。

課題の解決では「できないと言わない」ことをポリシーにしています。諦めずに解決の道を模索し見つからなくてもいつかは必ず解決できると信じることが大切です。技術革新が急速に進む中、これまで不可能だったことも可能となります。

例えば、ドローンによる測量です。ICT建機で正確に施工するためには、現場の高精度な3次元データの作成が欠かせません。2015年当時、測量のために使っていた3Dスキャナは人手の測量と比べて高い精度をもたらしますが、それでも効率や精度の面で物足りませんでした。「測量する新しい手段はないか」と社内で言い続けていたところ、CTO(最高技術責任者)直属のスタッフ部門であるCTO室のメンバーから「ドローンで空から測量する技術があります。シリコンバレーの会社です」と声をかけられました。すぐに来日してもらい、ドローンでの測量を試しました。その効果は精度も効率も圧倒的でした。

一週間以上の時間を要する人的測量に比べ、ドローンの測量はわずか数十分でできるようになりました。しかしドローンによる測量は、通信によるデータ送信などで3次元現況測量データの処理に丸一日は要します。この処理時間を大幅に短縮するためにエッジコンピューティング技術を活用し現場でデータ処理を行うことで、3次元現況測量データの作成を約30分で完了させる「エブリデイドローン」を開発し、20185月から提供を開始しました。毎日ドローンで測量することにより、工事全体の施工進捗管理や土量管理を日々簡単かつ高い精度で行うことが可能となります。

これまでできなかった課題の解決では、AIの活用も重要なポイントとなります。現場での安全性のリスクにつながるヒヤリ・ハットを学習させ、危険性の予測・警告を行ったり、熟練のオペレーターの知見をデータ化するなどAIの適用シーンは広がっています。

4.スマートコンストラクションコンサルタント300人体制を目指し人材を育成

スマートコンストラクションアプリの開発は協力会社の技術者も含めて百数十人体制で日々行っており、週次のミーティングの際に100件以上の着手項目が並んでいます。アプリはスピード感を持ってリリースし、お客様の現場でPDCAPlan-Do-Check-Act)サイクルを回しながら改善していきます。またデジタル化が進んでいなかった現場に導入するため、直感的で利用しやすいUIUser Interface)や、カッコ良く操作できるといったUXUser Experience)にも注力しています。

前述のように、スマートコンストラクションでは「コマツの商品やサービスの視点で現場を見るのではなく、お客様側に立って考えてみよう」ということを大切にしています。この姿勢をさらに進めたのが、コマツを含む4社で立ち上げた建設生産プロセス全体をつなぐ新プラットフォーム「ランドログ」です。ランドログではスマートコンストラクションで収集し蓄積・解析した施工現場毎のデータをオープン化し提供しています。コマツだけでなく、たくさんの企業や人がアイデアを出し合い、アプリやサービスを開発し提供していくことで、お客様の安全性や生産性の向上、建設業界の活性化に寄与することが目的です。

ソリューションサービスは、人とソフト、ハードの三位一体で進めることが重要です。今、スマートコンストラクションコンサルタント300人体制を目指し人材育成に力を注いでいます。また2018年度からスマートコンストラクションの海外での試験導入も始まり、全世界への展開を計画しています。海外でも日本と同様に現場に立ち、お客様と一緒に課題を解決していく姿勢は変わりません。

「スマートコンストラクションは、お客様に新たな価値を生むビジネスモデルありきでいい」という社長に、私は「マネタイズできなかったらどうしますか?」と質問しました。「今までお世話になったお客様に対して尽くしたということでいいのではないか」という社長の言葉は胸に響き、今も指標としています。建設現場では危険な作業や負荷の大きい単純作業、「ムダ、ムリ、ムラ」がまだまだ多くあります。i-Constructionが目指す新3K(給与、休暇、希望)を実現するべく、スマートコンストラクションはこれからも現場とともに進化を続けます。