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2018.10.10

2018年10月号連載企画 行政におけるウェルビーイングの設計 No.2 痛みの可視化

早稲田大学
准教授 ドミニク・チェン

前回は、今日の情報技術が抱えるさまざまな脆弱性に起因して浮上している社会問題について振り返り、社会を身体システムとして見なした場合に、現在は欠落している「痛覚系」を実装することで、より良い「データに基づいた政策決定(E B P M)」が行えるのではないか、というアイデアを提示しました。痛覚系とは、社会の開発指標の一つとして、どのような人々がいつ、どのような状況において精神的な苦痛を抱えているのか、ということを透明な公的データとして記録し、政策決定に関する合意形成に活用する、ということです。近年のウェルビーイング(心の活性度合い)の測定への関心が公的機関においても高まっている背景から、会社組織のなかでもメンバーの心理状態をテクノロジーによって把握し、モチベーション向上や福利厚生に活かそうとする動きが見られます。そのような動向が社会全体に広がっていった先には、各地の自治体レベルでの集団のウェルビーイングが視覚化され、なぜ特定の地域においては他よりも低かったり高かったりするのか、ということを議論する状況が想像できます。その時、他者の痛みへの共感という、理知主義とは異なる社会合意形成の方法が切り開かれるのではないか、というのがGross National PainGNP)というアイデアの根幹にある考え方です。